転機
杉山はズボンのポケットからなんと、録音機を取り出した。
「伊月は、ずっと寂しがってたんだよ。」
「そ、そんなことないよ。別に何とも思ってないし。」
「果たして、これを流してもそんなこと言えるかな?」
すると、杉山は録音機を再生した。
「ねぇ、杉山!藤花と喧嘩しちゃったんだけど、どうしたらいいの?!」
音声を聴いた瞬間伊月が顔を紅くして録音機を止めようとしている。そのスピードは俺じゃなきゃ見逃していた。
「まぁまぁ、落ち着けよ。気持ちを共有するのは大事だぞ。」
杉山は伊月の腕を抑えながらそう諭す。流石に公共の場で暴れるのはまずいと感じたのか、伊月は大人しくなった。そして杉山は続きを再生した。
「藤花にちょっと怒りすぎちゃった。一日たったらまた、話しかけてくれるかな、と思ったら挨拶もしてくれなかったの!でも、こっちから話しかけると、情緒不安定かよ、って思われるよ~。ねぇ、杉山どうしたらいい?」
「とりあえず、落ち着けって、たぶん、藤花は戸惑ってるだけだと思うから。伊月が謝れば良いじゃん。」
「それはいやだ! だってあっちが悪いんだもん。あっちが毎日、イケメンだ、かっこいい、好きだ、って言ってくるし、こっちの心臓がもたないから、怒っちゃったの。ねぇ!」
「わかったから。藤花に聞いてみるよ。」
意外だった。伊月が俺を嫌いになってなかったなんて。当の伊月は頭から湯気が出てる。沈黙のままだった。
「で、今日の本題である昨日の情事の件だけど。ごめん。俺は、藤花の事だましてた。伊月に頼まれたんだよ。なんとかして、二人きりの状況を作れって。」
俺は、とても嬉しかった。伊月は俺の事を好きだったのだ。
「それで見事俺は引っ掛かったのか。」
そうだね、と杉山は言う。今しかないのかもしれない、伊月に告白するのは。そして、俺は、言葉を発した。
「伊月、いや、陽樹、好きだ。付き合ってくれ。」
伊月は顔を伏せたままだった。
「いいよ。」