98. 超高級エムレザー
武具店についた時には24時を少し回っていた。 まあいつもの通り遅刻だ。 どうも僕は時間にルーズな方なのかもしれない。 遅れまいと思ってはいるんだけど、遅刻することが多いし偶に間に合ってもギリギリだ。
店の前にはマリが待っていて、僕が来たのを待って中へ招き入れてくれた。 店の中にいたマリの叔父さんが僕に話しかけてくれた。
「おお、約束通り0時10分過ぎに来たな。 待っていたぞ。 快(泊里の名前)が防具を新調したいって言うんだが本当か?」
「こんな時間にすみません。 はい、相手にする魔物が強くなってしまって防具が持たない可能性が高いんです。 マリから聞いたんですが、今の防具に使われているエムレザーのレベルは50ぐらいなんだそうですけど、僕らは今度中級ダンジョンに挑戦することになるらしいので、ここで更新しておきたいんです」
「普通、中級ダンジョンでも奥へ行かなければ、その防具で十分通用するものなんだがな。 まさかボスの攻略とか考えているんじゃないだろうな? 攻略となれば、ダンジョン探索部隊が使うレベルの装備が必要なんだぞ? それにはかなり高級なエムレザーが必要だ。 快の話だと、お前さんがその高級エムレザーを持っているって言うんだが、本当か?」
「攻略までは考えてないですが、もしもに備えて安全を確保したいんです。 ええと、これがそのエムレザーです」
僕はバックパックから出したように装い、アイテムボックスからレッドカウからドロップしたエムレザーを全部だして机の上に置いた。 ダンジョンの中では感じなかったが枚数が枚数なので多少ずしっと重かった。
「これ全部エムレザーか? まさか全部高級品ってことはない……」
武具店のオジサンはエムレザーを一枚ずつ食い入るように見定めていった。
「お、おい。 こいつは高級品どころか超高級品の可能性があるな。 いや、もしかしたら知られていない程の品かもしれん。 ちょっと奥で測定してくるから待っていてくれ」
武具店のオジサンはエムレザーを1枚もって奥へ引っ込んでしまった。
「なあ、マリ。 品質の測定ってできるもんなの?」
「良くは知らねーが、あのゴムのようになってしまうダンジョン産の武器でならエムレザーを加工できるんだとよ。 だがダンジョン産の武器のレベルが低いと傷もつけられねーってことらしいぜ。 おそらく色々なレベルの武器を使って加工できるかを確かめるんだろうぜ」
「えっ? 弾丸を通さないぐらい強度が高いエムレザーを、あんなゴムみたいな武器で切れるの? そりゃダンジョンの中でなら武器の強度は段違いになるけどさ、まさかダンジョンの外でもエムレザーだけには効果があるってこと?」
「ああ、不思議な話だぜ。 まぁそうでなきゃ、エムレザー製の防具作りなんてできんだろうな。 それにしてもダンジョン産の素材は謎だらけだぜ。 エムレザー以外にも、ダンジョン素材の鉱物からとれる金属もダンジョンの中と外じゃ耐熱性能が全く異なるらしいぜ」
「全く不思議な話だね」
そしてしばらくしてオジサンさんが戻ってきた。
「おい、快、これはどこで手に入れた? この店の最高級武器でも傷ひとつ付けられなかったぞ。 本当に超高級品、いや規格外の超高級品かもしれんな、これは」
「お、おお? どこって言われてもな。 ……そ、そうだ。 ヨシ、お前これをどこで手に入れたんだ?」
マリお前、苦しくなって僕に話を振りやがったな。 まぁ言い訳はマリには無理かもしれないから判断は間違っていないか。 だがどう答えたらいいだろう。 困ったな。
「え、ええとですね。 その、あの、その。 ああ、それは僕らの仲間の富裕層女子たちが手に入れて来たんです。 すっごく高価な一品だそうですよ? ただ外国から直接取り寄せた非正規品らしくて、契約の関係とかで国内の正式ルートで加工するのは不味いらしいです」
マリが驚いて僕を見つめてきたが、この嘘は仕方がない。 バレたらレイナさんのお父さんと交渉して何とかしてもらえばいいだけの話だ。
「快、お前は何か変なことに巻き込まれているようだな。 そこまでお前らを駆り立てるのは何なんだ?」
「オジサン。 エムレザーの件にマリ――快は関係ないです。 僕と女子たちで計画した話です。 これには秘密のミッションが絡んでいて、それなりの報酬もあるんですよ。 だから全く問題ないんです」
「……そうか。 まあ今はそれを信じておこう。 お前らのようなヒヨッコが重大犯罪にかかわれるとも思わんからな。 だが、このエムレザーは切ることもできないから加工もできんな。 他へ持ち込んでもらうしかないだろう。 もっと高級なダンジョン産武器とかを揃えている加工業者へな」
「……」
これは困った。 他へ持っていくとなると話はさらにややこしくなるし、そんな加工業者は見つけることさえ困難だろう。 やはりレイナさんのお父さんの神降さんに頼るべきか? いや、まだそこまで事を大きくしたくない。
う~ん困ったらこれは。 加工には高レベルの武器が必要なんだよな。 緑色の武器なら十分高レベルだろうけど、それを渡すのはなんか困るしな~。 となると他の色付き武器なんだけど、あのレッドカウよりレベルが高いかどうかの保証はないんだよな。
レッドカウは第15区画の魔物だったから第16区画、あのおぞましい第16区画で武器さえ出ていればな~。 ドロップしたのは指輪と、……。
ん? そういえば手裏剣に使うようなナイフが出ていたよな。
僕は第16区画で拾った、緋色のナイフ4本をアイテムボックスから出してみた。 これが加工に使える可能性はないだろうか。
「オジサン。 こんなのをオマケでもらったんですが、加工で使えるということはないですか?」
「ん? 珍しいナイフだな。 ……それより、お前それを今どこから出した? いきなり出てきたように見えたぞ?」
しまった。 解決方法の考えるのに集中しすぎて、アイテムボックスから直接とりだしちゃった。 不味いぞ、不味い。 これはどうやって言い逃れよう。
「あ、あの。 ほら、これは手品ですよ、手品。 驚かそうとして手品を使ったんです。 種も仕掛けもあるやつです。 あはははは。 これを覚えるのに苦労したんですけど披露する機会がなくてつまらないと思ってたんです。 せっかくこんなスキルをもっているんだから使えてうれしいです」
「……」
「それが手品だと? だとすると凄いテクニックだったな。 もう一度やって見せてくれるか?」
「いえ、それはちょっと。 こういうのは一発驚かすのが面白いんですよ」
「……まあ、それはそうだな。 それでその深紅のナイフで試してほしいと?」
「はいそうです。 エムレザーのおまけで貰った物なので、もしかしたら使えるかもなので」
「なるほどな。 それじゃちょっと試してみるからそこで待ってな」
オジサンはエムレザーと緋色のナイフを持って、また奥へと引っ込んで行った。
「なあ、ヨシ。 あのナイフは見たことがないな。 どこで手に入れたんだ?」
「ああ、あれは第16区画で手に入れたんだ。 レッドカウよりも奥側の区画の魔物だからレベルは高いはずなんだ」
「第16区画ってお前、……無理はするなよ? 命は一つしかないんだぞ」
「あ、ああ。 もう二度と行きたくないよ。 ただし攻略方法は見つけたんだけどね」
「……」
そしてすぐにオジサンが戻ってきた。
「あのナイフは凄いな。 あのエムレザーがスパっと切れたぞ。 これなら加工はできる。 それで防具は何着作ってほしいんだ? あの枚数だとかなりの量が作れるぞ。 それに作成方法なんだが、貼り付け法と、レザー縫い方法があるがどちらにする?」
「ええと、僕とマリと、あと女子三人分を作ってほしいです。 出来れば予備も。 あと作成方法はわからないですけど、防御力優先でお願いしたいです」
「おお、わかった。 ならお前たちの体形の基本データを送ってくれ。 サロナーズオンラインのリアルキャラで服装のデータをもってるだろ? あれでいいから後で送ってくれ」
「はいお送りしておきます。 あと費用と納期はどのぐらいでしょうか」
「費用はな、十着となるとそうだな200万円でどうだ? もしあの深紅のナイフをこれからも貸してくれて、エムレザーを1枚分けてくれるなら、もちろん無料でいい。 まぁあのエムレザーの価値は一枚一千万は下らない気がするから、こちらに都合がよすぎる話だがな。 それと納期は1週間ってところだな。 ナイフが小さいから手作業になってまうんだよ」
「ええと、わかりました。 ナイフは2本お貸しします。 あとエムレザーですが、秘密を厳守してもらえるなら2枚お渡しできます。 どうでしょうか」
「おお。 それは願ってもないことだ。 それではそういうことでお願いするよ」
「はい、これからもよろしくお願いします」
こうして僕らの新防具の手配はできた。 ちなみに体形のデータはマリが集めることになった。
明日の投稿はお休みします。 すみません。