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97.  そんなバカな

 さてこのアクシデントはすぐにパーティに相談すべきだ。 僕が相談できる相手は奴らだけだ。 携帯端末はアイテムボックスの中で使用不可なのでサロナーズオンラインにログインした。 そしてクラン会話で報告した。


「あ~、ヨシです。 緊急事態なので相談したいんですけど、みなさん時間ありますか~」


「お兄ぃ、緊急事態って何?」



 し、しまった、 クラン会話のつもりが、フレ会話になっていた。 しかもエミリ直通だ。 あいつは車の中でもゲームに興じていたのだ。 



「あ、ああ。 悪い、間違えたよ」


 僕は会話を打ち切った。 だが、エミリは許してくれない。 すぐに会話が返ってきた。



「ちょっと、間違いって何?」


「間違いって、ミステイクのことだよ。 わかるだろう?」


「そんなことを聞いているんじゃないの~」


「あれっ? じゃあ何を聞いているんだ?」


「……」


「……わかった。 つまり都合が悪いからエミちゃんには話したくないってことなんだね。 まぁ今回は美味しいお菓子を食べさせてもらったし、特別許してあげるの~」



 許されてしまった。 僕の話法の癖を把握されてしまっているのが悔しい。 でも今はそれでいい。 



「あ~、ヨシです。 緊急事態なので相談したいんですけど、みなさん時間ありますか~」


 今度こそクラン会話で話しかけてみた。 だが返答はない。 確かめてみると誰もログインしていなかった。


 く、くそ~。 最初にログイン状態を確かめてから話せばよかった。

 でも、これは仕方がない。 後日相談することにしよう。


 それにしてもユニークスキルは厄介だ。 お菓子と間違えて食べたなんて信じられん。 それに甘くてピリっとしてはじけるような美味しさだと? あいつは本当にアホか。 


 だが、それって小学生の頃に父にもらって食べた虹色の飴玉の味と同じなんだな。

 うん、同じだ、……な。


 ……。 



「えええええっ!!!」



 僕は大きく動揺して大声で叫んでしまった。


 ま、まさか。 僕が食べたあの虹色の、甘くてピリっとしてはじけた飴玉って、ユニークスキルオーブだった可能性があるってことか?  確かに今思えばあの飴玉は確かにユニークスキルオーブとそっくりな色合いだった。


 いやいやいや、確かに父は自衛隊に所属していて初期の頃のダンジョン探索にもかかわっていた。 だからってそんなものを持ち帰ったってことがあり得るか?  


 ……よく考えて見ると、あの頃オーブは認知されていなかったから使うという認識どころか、持ち帰るという発想もなかったはずだ。 それでも持ち帰って僕にソレをくれたのは虹色で美しい泡のような玉だったからか? 



 そんなバカなっ!!!



 初期のころの攻略は重火器や戦車とかを使っての攻略だったと聞く。 ドロップ品のエネルギー石も何なのか良くわかっていなかった時期だ。 要するにオーブなんて希少だしダンジョンの中で車や戦車につぶされていたはずだ。 初期の頃の攻略は過酷だった。 ダンジョン武器でなく通常兵器で攻略していたからだ。 そして僕の父は飴玉をくれた数日後ダンジョンの中で帰らぬ人となったのだ。



 あ、あああああああああ。


 あの飴、 父と過ごしたあの幸せなひと時に食べた飴玉がユニークスキルオーブ。 そして僕はそれで<急所突き>を習得したのか。


 あの優しかった父、時に反発しながらも尊敬して大好きだった父。 あの飴玉は僕へのプレゼントだった。 そう、あれは僕に託された父からの最後の、正真正銘のギフトだったんだ。


 自然と涙が零れ落ちた。 感情が制御できない。 これじゃ母のことをとやかく言えない。 父が帰らぬ人となってから、それを受け入れられないでいる母のことを。 そして時折”父は生きている”と叫んで奇行に走る母のことを。 僕はしばらく泣き続けた。



 しばらくして気が落ち着いた。 僕の最初のユニークスキルは生来持っていたスキルではないことがわかってしまった。 妹と同じように食べたスキルだ。 



 あはは、僕と妹は似たもの同士だな。 



 でも今はそんなことが重要じゃない。 妹を守らねばならない。 

 もしあの触手のような凶悪なスキルが発現したら人間扱いをされないかもしれない。 そうなれば僕が<急所突き>で苦労したのとは次元が違うだろう。 


 アイテムボックスを試させた時に、エミリが気づかなかったってことはユニークスキルはマリのみたいなパッシブスキルなんだろうか? それともレベルを取得しないと発現しないスキルなのだろうか。 今のところ実害はなさそうだが、冒険者資格を取得するまでなんて待てない。 これは僕にとって本気の緊急事態だ。


 何とかしなければならない。 そんな焦る気持ちや、父や母への感情から僕はだいぶストレスを感じてしまった。


 うーん。 こういうときにはストレスを発散したくなる。

 ストレス発散ということは、欲求を満たすことだな。 要求といえば、基本的欲求だ。

 基本的欲求といえば、食欲、性欲、睡眠欲、あとは何だったかな排泄欲?


 僕はアレで疲れたので少し寝て、夜食をたくさん食べてトイレへ駆け込んだ。



 トイレから出て時刻を見ると24時近くになっていた。 そろそろマリの叔父さんのところへ行く時間か? 僕はAI自動車を手配して武具店へと向かった。


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― 新着の感想 ―
[一言] それでもオーブ食べた妹の罪は薄まらない。
[一言] 能天気な主人公なのに家庭環境はヘビーだ…
[一言] 皿に置かれてるわけでもない謎のアイテムと並べられた物を食べるのは純粋にはならんと思う
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