96. 裏情報
確かに、オーブはお菓子のような感じかもだが、他に食べるものがあるだr……。
あれっ? そういえば、マリが来る前に僕とエミリでお菓子は食べてしまっていたな。 ということはエミリはお菓子を探して、スキルオーブが目に入ったってこと? オーブは直径2cm弱の綺麗な玉だからお菓子と間違えることもあるかもしれない。
……。
いやいや、僕は悪くない。 悪くないぞ~。
それにしてもお菓子と間違えてオーブを食べるなんて前代未聞だ。 普通のオーブなら、そういうチャレンジャーもいたかもしれないが、スキルオーブとかはあり得ないだろう。 それ以上にエミリはユニークまで食っている。
こ、これは経緯はどうあれ、予期せぬ大、大、大事故だ。
いやそんなことよりも、未成年の身でスキルを得てしまったのが非常に危なっかしい。
これってエミリ大丈夫か?
僕はあまりの出来事と自分の失敗にショックを受けて未だにクラクラしている。
「どうしたのお兄ぃ。 眩暈? エミちゃんにお菓子を全部食べられてショック?」
「え、ええと。 そうだな。 エミリは何か体調に異変はないか?」
「やはりそうだったんだ。 でもそんなにたくさんは食べてないよ? そこのお菓子も味はしたけれど一瞬ではじけるような甘さだったからね。 凄く新鮮なお菓子だったけど」
うん、能天気な奴だし、さっきサロナーズオンラインにログインした時にはすでにオーブを使ってしまっていたはずだが特に変わったところはなかった。 とりあえず、思考とかに悪影響はなかったと考えて良いだろう。 今はスキルオーブの損害よりも、エミリの安全確保が優先だ。 あの感じだとスキルオーブは今後もたくさん取得できる見込みがあるしな。
まあ普通のスキルオーブなら変なことは起こらないはずだけど、あのユニーク魔物のユニークスキルオーブがどんな効果があるか分かったものじゃないな。 でも魔物を一匹も倒していない状態でスキルオーブを使うとどういうことになるんだろう。 そもそもレベルがない状態で使ったスキルオーブの効果は発現されてしまっているのか?
これは一つスキルが使えるかどうかを確かめておく必要があるな。 今のところ僕のプライベートダンジョンで取得できるスキルの中で、ダンジョンの外でも使えるのはアイテムボックスだけなんだよな。 ならば今ここでアイテムボックスが使えるかどうかをやらせてみればいいか。
「ところでエミリ、アイテムボックスっていうスキルを知っているか?」
「突然なに? ゲームのアイテムストレージのこと? それともリアルスキルのアイテムボックスのこと?」
「なんだ、エミリはアイテムボックスは知っていたんだな。 じゃあアイテムボックスって使えそうか?」
「なに言ってるの? エミちゃんは使えないです。 あれはスキルオーブという凄いアイテムを使って稀に覚えることができる夢のスキルなの。 そんなことお兄ぃは知らないの?」
「いや、知ってるけどさ。 もしかしてエミリは天然で使えたりしないかな~なんて思ったんだ。 噂だと稀の稀にスキルを生まれた時から使えたりする能力者がいたようだぞ? もし使えたらポーター役として一流の冒険者になれるかもだぞ」
「なんか嘘くさいな~。 そんな人がいるの? お兄ぃは持ってたりするの? それで大きく稼げたとかなの?」
「いや、僕は持ってないよ。 でも生まれた時からスキルを持っていた奴なら知っているよ。 まあスキルについては確かめ方が分かっていないとレベル取得前から持っているかなんて分からないんだけどね」
「そっか~。 何か嘘くさいけれど、ちなみにどうやって確かめればいいの?」
おっ? 話に乗ってきたな。 それでは教えてやろう。
「ええと、これは裏情報なんだけどな。 こうやって拳を上に突き上げて”アイテムボックス~”って叫ぶんだ。 思いっきり叫ぶのがコツなんだそうだ。 まあ恥ずかしいけどやってみる価値はあるよ。 なんたってダダだからな」
「アイテムボックスぅ~~!!!」
エミリは最初不審に思っていたようだが、結局僕の言う通りにやってくれた。 よほどアイテムボックスに憧れがあるんだろう。 手元に撮影機器が無かったのが残念だ。
「エミリどうだった?」
「あ、お兄ぃ。 エミちゃんは、エミちゃんは、ダメだったみたい。 何の変化もないよ~」
「あっ! そうだ。 叫ぶだけじゃダメだった。 頭の中でアイテムボックスをイメージしなきゃだめだ。 そこにアイテムボックスがあるように思い浮かべてみるんだ。 イメージこそがスキルを使う基本なんだぞ」
「アイテムボックスぅ~~!!!」
「……」
「で? どうだった?」
「……ダメみたい」
今度こそとばかりに、予備の今は使えない旧式の携帯端末で撮影しておいた。 この映像を使っていつかからかってやろう。
「そ、そうか。 それは残念だったな。 でもあと2、3年して冒険者資格を取れれば発現するかもしれないから諦めるなよ」
「エミちゃんは、もう直ぐ高校3年生だし、あと3カ月で18才なのっ。 資格取得に必要なお金もあるし冒険者資格は目の前なのっ」
「あ、ああそうか。 僕の時みたいにお金の苦労はないからな。 すぐに資格をとればいいさ。 アイテムボックスについては、その時にはまた試してみような」
よし、アイテムボックスは使えてないな。 おそらく普通のスキルはレベル取得前には発現しないということだ。 だがユニークスキルが問題だな。 僕の<急所突き>は発現していたしな。 エミリのユニークスキルは何だったのだろう。
あのアンフェアイソギン、……ムカつくからイソギン野郎でいいか。 あのイソギン野郎の特徴といえば触手だな。 まさか触手とかの能力者になったとか言わないよな? エミリの口から触手が出てきたらどうしよう。 そういえば角が生えることがあるとかないとか、どこかで聞いたような気がするから身体的に変化があるかもしれないな。
僕はそれを想像してエミリの口元を見た。 まあ普通に小さいので安心できる。 エミリの見かけは普通だから凶悪なスキルは発現していないのだろう。 有用なスキルならばレベルを取得したその時までに対処すればいいだろう。 猶予は、……冒険者資格を得るその時までだ。 これは事前に仲間に相談したほうが良いだろう。
「無限アイテムボックスっていいよね~。 今話題になっている異世界恋愛アニメにもアイテムボックスを駆使して戦うヒロインが登場するしね~。 どこへ行っても化粧室とかお風呂やお菓子の心配もしなくていいし万能なんだよ~」
「そ、そうか。 異世界恋愛のアニメか。 女の子にはアレが人気だからな。 まあ僕もアイテムボックスは、お弁当やおやつとかの心配が無くなるのがうれしいかな」
「お兄ぃは相変わらず食べることだけなのね。 エミちゃんは呆れちゃうの」
「そういうお前はお菓子だけだからな。 なるほど、アイテムボックス人気はアレが原因だったか。 そういえば、その手のアニメの放送ってのは大抵1度だけ無料配信で後は有料になるんだろ? お前は毎回欠かさず見ているのか? 見逃したからって僕が送金したお金を見逃し配信とかで無駄に使ったりするなよ」
「あああああ。 そういえば今日の11時からだった。 あっぶな~、危うく見過ごすところだったぁ~。 ということでエミちゃんは帰るね。 無料のAI自動車をチャーターして帰るから見送りはいらないの~。 じゃあね~」
妹は慌ただしく帰っていった。 夜遅い時間だが、AI自動車ならセッキュリティが万全だし家の前まで直行なので、女の子一人でも安心だ。