89. コアタッチ
僕達が入ったコアルームはガランとした部屋で、中央には巨大エネルギー石があった。 その脇にタグ認証用の装置が置いてある。 この装置を用いて冒険者タグの生体認証機能を用いて記録を残せば、この2986ダンジョンを攻略した証となるのだ。
僕らは次々と認証作業を行い、全員が済ませたところで、コアタッチという儀式を行うことにした。 コアタッチとは、ダンジョンコアに素手で触ってお祈りすることで、誰が始めたか分からない慣習だ。
まずは、ミレイさん、カナさんとコアタッチを行い、そしてレイナさんがタッチした。
「ああっ!」
「レイナどうしたの?」
「何かが頭に入り込んだような気がしたの」
「レイナ、疲れたのね。 さっきのユニークボスはちょっと衝撃だったからね」
「ええ、そうかもしれないわ」
そして、マリがコアタッチした。
「おおっ?」
「マリ、どうした?」
「俺も何か感じたぞ? 俺も衝撃を受けて疲れたのは事実だな」
そして最後に僕もコアタッチしてみた。 そして僕も頭に何かが入ってくるような違和感を感じたのだった。
「ええと、僕も何かを感じました。 やはり僕もかなり疲れていたようです」
「……」
「あり得ないわ」
「そうね、ヨシ君もとなると、疲れたじゃ説明できないわね」
「それはどういう意味なんですか?」
「私達が感じたのには何か意味があるということ、つまり何かがトリガーになっている可能性があるかもということよ」
「ええと、だから疲れているからなんじゃ?」
「ヨシ君。 私やカナも大分疲れているのよ。 これは何か別の要因があるはずだわ」
ミレイさんはそう言ってコアタッチを繰り返していた。
う~ん。 どういうことだ? ミレイさん達と僕達との差は何だ? そして閃いてしまった。
「あああっ!!」
「ヨシ君。 何か閃いた? 何なの言ってみて」
「ええとですね。 その前に実験してほしいんですが……」
「ヨシ君。 実験は禁止なのだけど、安全なら問題ないと思うわ」
「ええ、安全ですよ。 コレをミレイさんに使用してもらうだけです」
僕はスキルオーブを取り出して見せた。
「ええっ? スキルオーブ?」
「ああっ、間違えた。 こっちです。 普通のオーブです」
「どういう事?」
「これを使ってスキル、じゃなくて全ステータスを1000にしてほしいんです。 このメンバーではミレイさんとカナさんだけが、全カンストしてないはずなので」
「そ、そう。 確かにそうね。 いずれ全カンストさせたいとは思っていたから、実験で使わせてもらうわね」
ミレイさんは遠慮なくオーブを使ってくれた。 ほんの数日前に躊躇していたのとは大違いだ。 いずれスキルオーブも遠慮なく使ってくれる時が来るに違いない。
そして20個程オーブを使ったところで全カンストしたらしく、ミレイさんは再びコアタッチを試みた。
「ああっ! ヨシ君の言う通りだったわ。 ヨシ君凄い。 怖い。 きみが悪い」
「……」
「え、ええと。 ではカナもやってみてくれるかしら?」
そしてカナさんも同様にステータスを全カンストさせてからコアタッチした。 結果的にカナさんも何かを感じたのだった。
「結局、この感じは何なんでしょうね?」
「そんなことは分からないわね。 でもいずれ分かる時が来るかもしれないわ」
「なるほど」
結局僕達は、コアタッチについては何もわからないまま帰途につくことにし、昨日と同じ場所に立ち寄ってセーフティテントを設置して宿泊することにした。 初級ダンジョンとはいえ1日で踏破して戻るのはあまりにも不自然だから日にちを稼ぐためだ。
プライベートダンジョンの中に入り、一段落したところでミレイさんがマリに話しかけた。
「マリちゃん。 先程のユニークボスについてなんだけど」
「なんだ? オーブについては終わったことだぞ?」
「そうじゃなくて、アレのステータスとかの情報は頭の中に残ってる? 看破持ちは詳しい情報を記憶しているって聞くけど如何なの?」
「もちろん残っているぞ? 何か変なデータ?が多量にあり過ぎてわけわからんがな」
「そう、……。 それでね、マリちゃんに実験のお願いがあるんだけど」
「うっ。 俺にお願いが実験か? 何か怖い気がするんだが、内容は何だ?」
「サロナーズオンラインのデータベースにあの魔物のデータを登録してほしいのよ。 そうすれば探索シミュレーション系で仮想的に戦うことができるようになるらしいわ。 アイツって、ヨシ君がタンク的な役割をしてくれてなければ、そして硬直を解除してくれてなかったら、私達でも勝てるのか確かめてみたいのよ」
「なるほど、看破持ちが探索シミュレーションに魔物の設定を登録していたのか。 でもどうやって登録するんだ?」
「それはね、HPとかSTRやレベルみたいな分かりやすいのは問題ないとして、長くて暗号のような不規則な英数字の文字列があるでしょ? それを入力すればいいだけだそうよ」
「なんだそれは?」
「数千種類の魔物とそれらのデータや動画などの資料をAIで解析したところ、魔物の詳細データと一致しているとかが分かったそうなのよ。 今では逆にその暗号のような文字列を入力することで凡そ魔物の挙動が登録ができてしまうようになっているとのことよ」
「おおっ? そうなのか。 分かった。 登録してやろーじゃねーか。 ミレイ、待ってろよ?」
そしてマリの登録が終わった。 僕達は通常のサロナーズオンラインにオフラインでログインして探索シミュレーションでチェックしたら確かにアイツが居た。 名前はマリの趣味で、”スタンオーガ”となっていた。 ユニークボスなので公開する意味がないし、名前なんて如何でもよい。
一応僕らのステータスも登録してそれと再戦してみたが、結果的にかなり苦戦した。 何しろこちらは2D版VRルームもなく、VIP版ですらないノーマルのサロナーズオンラインを使っていて、VR手袋だけで自分のアバターを操作するのだ。 それだけでも無理があるのは仕方ないところだ。 それに問題は武器だった。 武器の登録には鑑定スキルというのが必要とのことだが、鑑定スキルを持っていてもそのレベルが高くないと僕らの武器を鑑定するのは至難の技だろう。 それにしても、シミュレーションの魔物がかなり実物と似ているところは驚くべきところだった。
マリは、”噛み付き小石”についても登録した。 今までコイツの登録が無かったことが不思議だったが、恐らく世界に高レベルの看破スキル持ちが少なかったためかもしれない。 さらに今のところプライベートダンジョン以外で”小石”を見つけたことがないし、”石”は僕の見立てではレベル150以上だと思うから尚更だ。
そうやってシミュレーションで遊んで一日を過ごし、次の日も午前中は遊び倒して、2986ダンジョンを出てダンジョン管理センターへ向かったのだった。