9. 疾風の白狼
僕はタイトで肌色の全身タイツスーツを脱ぎ、私服に着替えてからロビーへと出た。
暫くロビーで待っていると呼び出しがあり、指定された会議室へ集められた。
会議室へ入ると、そこには女子3名と、僕と、風貌がそんなに変わらないような男子2名が待っていた。 そして女子の内の一人――僕と身長が同じくらいのモデルのような綺麗な女子が、泣き腫らしたように目を赤くしているのが見て取れた。
もしかして、あの子はCさんだったのではないだろうか。 結局僕は女子を泣かせてしまったのだろう。 本当に僕って最低な奴なのかもしれない。
そうやって一人静かに反省していると女子の中の一人が僕に目をむけた。 ちょっとぽっちゃり系で目がクリっとした可愛い女子である。 おっ、可愛い女子に見つめられてしまったな。 これはちょっと照れるな。 そう思っていると意外なことに僕に向けてその女子が話しかけてきた。
「貴方がD君なのかな? そうだとしたらミレイを泣かすなんて最低な奴ね!」
いきなり怒られた。 まあ今回の件は僕が悪いような気もするし怒られるのは仕方がないことだといえる。
だが僕はつい反射的に抵抗を試みてしまった。
「あの、僕はD君ではありません」
「えっ? 貴方はD君ではなかったの? それでは誰が?」
ぽっちゃり系の彼女は他の2名の男子を睨みつけたが、彼らはすくみ上って首を横に振っるばかりだった。 そんな彼らを確認後、彼女はふたたび僕へと向き直った。
「やっぱり、あなたがD君じゃないの? 誤魔化そうとしても無駄よ?」
「いえ、決して誤魔化そうとなんかしてないさ。 僕の名前は吉田といいます。 したがって、僕はD君じゃなくてY君です」
「……」
「あ!、下の名前は、幸大なので、K君でもかまいません」
「……」
「アハ、アハハ。 そうよ、ソイツよ。 全く何ていうか、人をイラつかせる才能を持った、何とも大した奴よ」
「ありがとうございます。 そんな風に言われるとちょっと照れちゃうね」
「……」
「こいつ! 私たち、“疾風の白狼”をコケにするなんて、いい度胸ね!!」
ポッチャリ系の女子は目を剥いて怒りだした。 だがその発言に僕らは驚かされた。
「「「 疾風の白狼? 」」」
「ちょっとカナ、何言ってくれてるの?」
「あ!」
彼女達は明らかに慌てだした。 それはつまり彼女の失言?が嘘ではないという証拠でもあった。
うあ~この女子たち、サロナーズオンラインでも超有名なトップクランの一角 “疾風の白狼”のメンバーだったのか。
トップクランでVIPプレイヤー、そして可愛いだなんて、……どうしてこう人生は不公平に出来ているんだろう。 それでもイケメン男子は敵なのだが、僕としては可愛い人達は歓迎だと思っている。 だがそういう恵まれた人々に対して劣等感を抱いてしまうのが面白くない。
「は、初めましてカナさん。 僕は2561番サーバーでプレイしているヨシ2864といいます。 この際僕は入団条件をクリアしているようだし、クラン入団を検討していただけませんか?」
「はぁ~? あんた何言ってるの? 頭沸いてない?」
「だって、ほら、“疾風の白狼”への入団試験は、クランメンバー幹部と模擬戦をして、同等の技能を持っているかどうかでしょ? ミレイさん?と僕は、先ほどの模擬戦で引き分けだったんだよ?」
「ええっ! ミレイ、それって本当?」
「クッ、結果的に引き分けたのは事実だけど、卑怯な手でやられただけなのよ。 コイツはすっごく腹黒い卑怯者なのよ」
「ほほほ、いいじゃないの。 ミレイ、カナ、うちのメンバーは真面目過ぎるのが欠点なのだと思っていました。 それだから他のクランの策略に翻弄されることも多かったのです。 こういう腹黒い人材がいれば対抗できるのではないかしら?」
「「 絶対にイヤ! 」」
そのタイミングで教官たちが会議室に入ってきた。
もう少し押せばトップクランに入れるかもしれなかったのに間の悪いことである。
「君たち、そろっているな。 今日のVRシステムでの講習は申し訳ないことをしました。 今回のシステムは新バージョンへアップデートした直後だったので、テスト用のプログラムが残っていたようです。 元に戻しましたので、これからもう一度講習を続きから受けてもらえますか?」
その提案に異存が無かったので、僕たちはスライムの模擬討伐からやり直し、無事に講習を終えることができのだった。