88. 唯一無二の時
「ところで、マリ。 スキルは何を覚えたんだ?」
ところがマリは未だに狼狽えたままだ。 そんなのは、ただ宝くじに当たったようなものじゃなか。 いや、宝くじに当たれば十分凄いが、……これは宝くじよりも大分高額か?
いやいやユニークともなると大分どころじゃないかもだ。 これは流石に精神的にかなりダメージを追わせてしまったかもしれない。 いやしかし、使ったのは僕のせいじゃないし、あくまでも事故だ。
とりあえず、目を覚まさせてあげる必要がありそうだ。
「マリ、ついでだから、これも使ってみる?」
僕は僕が持っていたスキルオーブを2つばかりマリに見せて見た。
「お、おい。 俺を殺す気か? と、とりあえずちょっと待て。 落ち着くまで待ってくれ」
「……」
「マリちゃん。 本当に大丈夫?」
「お、おう大丈夫だ。 俺に任せて置け」
マリは未だ混乱中のようだ。 そして僕は気が付いた。
「……そうだ、おやつを食べないと!」
僕は提案したのだが、誰も相手にしてくれない。 仕方がないので僕はアイテムボックスからお菓子を取り出して食べ始めた。 そしてマリの顔の前にお菓子を差し出すと、マリは素直にそれを受け取って食べてくれた。 それからは、女子達も自然とおやつを食べ始めてくれたのだった。
そうやっておやつの時間を平穏に過ごした後でミレイさんがマリに問いかけた。
「ところでマリちゃん、スキルは何を覚えたの?」
「ああ、”スキル進化”というユニークスキルだな。 良くわからんスキルだ」
「スキルを進化させるスキルなんじゃない? 使えないの?」
「使い方が分からん」
「ええと、僕が思うに、最初は声に出さなきゃ駄目だ。 こうやって握りこぶしを上へ突きあげて、”スキル進化!”って叫んでみるんだよ。 僕のダンジョン生成はそうやってできるようになったんだ」
まぁちょっと違うかもだが、おおよそ間違っていない。 それにマリがユニークスキルを使うところを動画を撮るチャンスだ。 頑張れマリ。
マリは僕の助言通り、右手を握り、上へと突き上げて叫んだ。
「スキル進化っ!!」
ぱしゃっ。
僕は動画だけでなく記念写真も撮っておいた。 この瞬間は唯一無二の時なのだ。
「あ、あれっ? 何も起こらないぞ?」
「それはおかしいな。 僕のダンジョン生成と同じように対象を選択しなきゃいけないのかな? ……対象はもちろんスキルだよね。 なら”アイテムボックス7”を選択してやってみたらどう?」
「お、おう。 やってみるぜ」
「スキル進化っ!!」
「ええっ!!」
「マリ、どうした? アイテムボックスが進化したのか?」
「”看破15”がスキル欄から消えてしまったっ!」
「……」
僕は混乱した。 なぜ”アイテムボックス7”を進化させようとして”看破15”が消えてしまったのかわからない。 もしかして、辺りのスキルを吸収して進化させるスキルなのか?
「おおっ!!」
「マリちゃん。 今度はどうしたの?」
「ユニークスキルの、”スキル進化”が、”看破EX”に変わってるっ!」
ん? どういうことだ? いよいよ謎だ。
「マリちゃん、どういうことなの説明して」
「そ、それはな、”看破15”を選択して”スキル進化”を使ったら、スキル欄から”看破15”が消えて、ユニークスキルの”スキル進化”が”看破EX”に置き換わったってことだ」
なんだ、と?
マリはアイテムボックスの進化を選択しなかったってことか?
僕はその事実にショックを受けてしまった。
「マリちゃん、その”看破EX”っていうのはどういう効果なの? レベルが無いってこと?」
「まさか人も看破できるとかじゃないか? 試しにミレイさんを看破してみてよ」
マリは僕をじっと見つめてきた。
「いや、人は看破できないみたいだぜ。 これは魔物に使うものだろうな」
「なら、あの”噛み付き大岩”も看破できるかもね。 すごいわね、それはダンジョン攻略最前線でも重宝されるレベルのスキルね。 おめでと~」
「おめでと~」
「おめでと~、マリちゃん」
「よ、良かったなマリ。 看破役としても世界一になったんだな」
「お、おう。 ありがとう」
「それじゃ、ダンジョンコアルームでタグを認証して帰りましょう」
「ちょっと待ってください。 さっきドロップした普通のスキルオーブを忘れてますよ?」
「……」
「え、ええと。 これはヨシ君が使うのではないかしら?」
「レイナさん何を言ってるんですか。 これはパーティで倒した魔物からのドロップ品だし、僕はすでにこれだけスキルオーブを持っているんですよ?」
僕はストックしてあるスキルオーブを全部見せてあげた。
「……」
「あ、あの。 その、これは、……どうすれば?」
レイナさんはミレイさんとカナさんに視線を移して意見を求めたが、二人ともいい顔はしなかった。
「そんなにスキルオーブを使うのが怖いですか? ほらこんなに簡単ですよ?」
僕はスキルオーブを2つ使って見せた。
<スキル、<器用3>を取得しました>
<スキル、<俊敏5>を取得しました>
LV 96
HP 2000 + 140%
MP 2000
STR 2000 + 300%
VIT 2000 + 400%
AGI 2008 + 280%
DEX 2000 + 260%
INT 2000
MND 2000
スキル: 体力7(ON)、筋力15(ON)、頑健20(ON)、俊敏14(ON)、器用13(ON)、回復魔法3(50/50)、アイテムボックス12 (10/10)、看破6
ユニークスキル: 急所突き、ダンジョン生成、ダンジョン内探知
順当にDEXが上がったのは嬉しいことだ。 それにアイテムボックスもレベルも上がらなかったのでナイストライだったと言えるだろう。
「こんなのは勢いですよ。 どうでしょう。 どうせこれからは皆が順番にスキルオーブを使うことになるんだから、最初はじゃんけんで決めては?」
彼女達は僕に反発しているよう素振りをみせていたが、次第に納得して彼女達はじゃんけんをしてくれた。 そして敗者はカナさんだった。
僕はカナさんに先程ドロップしたスキルオーブを渡して応援してあげた。
「はい、では使ってみましょう。 はいチーズ」
カナさんは釣られてスキルオーブを使用した。
「あ!」
「カナ、どうだったの?」
「ええと、火魔法が11になっちゃった」
「うぁ~、凄いね。 一気に威力が倍なのね。 これじゃカナも最前線レベルの冒険者になったわけね」
「あ、あの~カナさん」
「ヨシ君何?」
「もう僕の裸体を見たいと思わないでくださいね。 装備ももったい無いし」
「……」
「ハイハイ、そこまでにして、コアルームに行きましょう。 タグ認証が今回の目的ですからね。 忘れると不味いわよ」
そして僕らは、ゲートを潜りダンジョンコアのあるコアルームへと入ったのだった。