87. ボスモンスター
明朝僕らは再び2986ダンジョンの攻略に戻った。 セーフティテントは丸ごとマリがアイテムボックスへ取り込んだ。 ダンジョンへ入る前に持っていたものは全てプライベートダンジョンの中に置いて来たからアイテムボックスの容量に余裕があったから組み立てたままにしておいたのだ。
僕達は2986ダンジョンの中をどんどん進んで行った。 先導役はカナさんだ。 カナさんが地図係なのだが、時々迷ったような態度をとることがあるので多少の不安がある。 僕は堪らず聞いてみた。
「あの、カナさん。 これで本当にダンジョンコアまで辿りつけるんですか?」
「ええ、大丈夫のはずよ。 私の勘に任せてよ」
ええっ? 勘で進んでいるのか!?
ちょっと僕は驚いたが、ミレイさん達は全く気にしていなかった。 よほどカナさんに信頼を寄せているに違いない。 だが、地図を使わないのは何故だろう?
「あの~。 勘まかせじゃなくて地図を使ったらどうでしょう?」
「下手に地図なんか使って間違えたら困るじゃない。 このダンジョンは洞窟型で蟻の巣のような構造なのよ? だから地図を使っても方向を見失うとか普通なのよ。 ゲームの要領と一緒よ」
「それにしたって勘じゃ、どこへ連れていかれるか不安です」
「大丈夫よ。 ここの第1階層だって迷わなかったでしょ? それに道中にところどころ印が置いてあるでしょ? まぁ私はそんなのは気にしないけどね」
確かに、所々に先人たちが設置したとみられる道標が置いてあった。 魔物に破壊されたりしたものもあったが大概は無事だ。 どちらにしても僕らには機動力と長期間耐えるだけの物資があるので問題はない。 う~ん、そのはずなんだけど、この前は思わぬ苦労をしてしまったな。
僕はカナさんの勘を信じることにした。 僕達は所々で遭遇する低レベルの敵は無視することにし、絡まれてトレイン状態になった場合にはカナさんの火魔法で焼き払ったりして進んでいった。
そして遂にダンジョンコア付近のボスモンスタールームへとやって来た。 このボスモンスタールームにはダンジョンコアへと通じるゲートがあり、ボスモンスターを倒す必要がある。 運がよければボスは既に倒されてリポップ待ち状態となっている場合があるが、今回はそう簡単ではなかった。
「ねえ、あのボスモンスターって、何かおかしくない?」
「ミレイ、私もおかしいと思うわね。 事前情報ではレベル50付近のハイオーガのはずなんだけど、サロナーズオンラインのハイオーガより随分大きいし色も変よね。 これでパーティの推奨レベル40以上ってどういうこと?」
「おい、アイツのレベルは105もあるぞ? どういうことだ?」
「マリちゃんの看破でレベルが分かってよかったね。 レベル105と言えば、どう考えても中級ダンジョンのボスクラスよね。 これってヤバくない? パーティでの推奨レベルで考えれば個人のレベルで80は必要ね」
「……でも俺たちのレベルって80なんてもんじゃねーよな。 実は余裕だったりしてな」
「オーブを使った数は300を超えるかもだけど、スキルというかステータスには上限があるからね。 ステータスの上限に達した者はレベル200相当だそうよ」
「僕は大丈夫だと思うよ。 ほら僕はプライベートダンジョンでオーブを4つも落とす魔物を倒しているわけだしね。 あれってレベルで150以上とかじゃないかな」
「お前そんなことわかるのか?」
「いや、勘だけどさ」
「と、とにかく。 あの”噛み付き小石”のレベルが100ちょっとでオーブを2個ドロップするのよね。 そしてヨシ君はオーブ4つの魔物をソロで倒したということね。 だから……」
「俺の思った通り、余裕で倒せるはずだということだな」
「でも初見の魔物だから細心の注意を払って戦いに望みましょう」
そう決断してすぐにレイナさんが風魔法でウインドバリアを張った。 そして僕らは念のためにVRヘルメットを被り戦いに臨むことになった。 VRヘルメットに映し出される映像には僕らの表情が疑似的に映し出されている。 顔の表情は戦闘の場面においても重要な情報なのでヘルメット内のセンサーにより撮影されてVRヘルメットに映し出されるのだ。
先ずはVITが高い僕が突っ込んで、後ろ側に回り込みツッツキ君で軽く叩いて気を引いてみた。
その魔物は僕に振り返り僕に敵意を向けて咆哮を上げた。
ガァァァァ~~~!!
僕には少しだけ衝撃が感じられたが、視界に入ったマリ達には結構影響があったみたいで固まってしまっているのが見えた。
「ええっ!! トイレ!」
僕のショック療法により、マリ達は立ち直り、すぐにその魔物の背後に回り込んで行った。
一応様子見のために、その魔物の攻撃をツッツキ君と緑色の剣を使って受け流したり牽制したりして防御している。 そして反対側にいる僕に敵意が向いている間に、ミレイさんがその魔物に数回攻撃し、カナさんが青い丸盾で殴りつけたのが見えた。
ああ、彼女等は、アレをやるんつもりだな。
その魔物の敵意を彼女達に向けないようにコントロールしながら、彼女等の様子を見守った。
カナさんが何かをつぶやいてから赤い炎が纏わりついた緑の棒で殴った。
どお~んん!
そして静かに構えていたレイナさんが斬りかかる。
ズヴァン!
そして奴は瀕死になったところで、レイナさんの陰に隠れていたマリが飛び出して剣で切りつけて止めを刺した。
ドシュッ!
それらの攻撃により、その魔物は虹色模様のユニークスキルオーブと、スキルオーブ1個、オーブ1個そしてエネルギー石をドロップして消え去ったのだった。
「あっはっは。 倒せてしまったね。 結果的に楽勝だったな」
僕はその勝利に素直に喜んだのだが、マリ以外の彼女達は固まっていた。
ん? 魔物の最後っ屁で何か食らったか?
「ええっ!! トイレ!」
とりあえず彼女達を硬直状態から解放するために応援してみた。
「……ちょっ、ヨシ君。 それ止めて。 ショックで疲れちゃう」
「いや、だって君たちが硬直していたから、さっきの魔物に何かされたんじゃないかと思って」
「あ、ああ。 そういうことね。 ……私が、私達が驚いたのは、その虹色模様のオーブよ」
「ん? こんなのがオーブなのか?」
マリがユニークスキルオーブを無造作に拾い上げて不思議そうに観察し始めた。 マリ、お前がユニークスキルオーブを知らないのは分かるがな、何かむず痒いんだよ。 鼻が、鼻? 鼻が、あああ。
「へっくしょん!!」
マリは驚愕した顔で僕を見つめたと同時に手をピクっと動かして、そのユニークスキルオーブを潰してしまった。
「ええっ!!」
そしてマリの驚愕の叫び声が辺りに響き渡った。
「……」
「……」
「……」
「マリちゃん、ユニークスキルオーブを使っちゃったのね」
「凄いねマリちゃん。 勇気があるね」
「マリちゃん、大丈夫? 悪いところはない?」
「お、お、お、俺は今何をしたんだ?」
「何を言ってるんだ。 ユニークスキルオーブを使ったんだよ。 マリ、お前大丈夫か?」
「ま、まさかそんな。 俺はそんな、使う気は全くなかったぞ。 これは事故だ。 俺は無実だ」
「マリ、大丈夫だ。 止めを刺したのはお前だし、事故でも何でもお前が使うことは確定していたと思うぞ?」
「そうね、私には怖くて使えないわ。 角とか生えてきたら嫌だもの」
「そうよね。 正気を失ってしまうとかの話も聞くしね」
そんなわけねーわ、と思ったのだが、彼女達にとってのユニークスキルオーブは、さすがに脅威的な代物なのだろうことだけは理解できた。 そして僕もそろそろ誰かに強力なスキルを身に着けてもらいたかったのだからマリに使ってもらえたのは丁度良かったと思えた。
それにしてもマリはどんなユニークスキルを覚えたんだ? まさかアイテムボックス関係とかじゃないだろうな? 僕は楽しくなってマリの肩を叩いてやったのだった。