86. 呪いのアイテム
「じゃあ、ヨシ君。 一旦プライベートダンジョンを解除してもらえないかしら」
「ええと、中へ入らないんですか? まさかこの狭いセーフティーテントで僕と雑魚寝をしたいとか?」
ミレイさんが剣に手をかけた。
不味い、叩かれる。
そう思った僕は、素直にプライベートダンジョンを解除して、ミレイさんから距離を置いた。
「ではミレイお願いね」
ええっ? そんなことで僕に制裁をするって、ちょっとレイナさん僕に厳しすぎませんか?
ミレイさんは頷くと、ポータル強化ガラスをアイテムボックスへ仕舞いこみ、僕と反対側のセーフティテントの壁に何かをした。
そのとたん、セーフティテントの壁が開き、隠し部屋が現れた。
ええっ!! 僕は再び心の中で驚きの叫び声を上げた。
「あ、あの。 それは隠し部屋ですか? 何のためにそんな……」
「一応念のためよ。 このセーフティテントは内側から鍵をかけることができるけれど、もしかしてそれを忘れたり、壊したりして不届き者が入ってきたら、プライベートダンジョンを発見されてしまうでしょ? だからプライベートダンジョンを隠すための隠し部屋を用意したのよ」
「セーフティテントには隠し部屋機能が付属しているのか」
「そんなわけないでしょ? これは特注だったのよ。 まあ、元々男女別々の部屋にするためのパーティションでもあったわけだけれど、そのパーティションの位置を極端に奥側に寄せたということね」
「な、なるほど。 考えましたね」
「ふふ~ん。 私の考えよ。 見直した?」
ぐっ。 カナさんのアイディアだったか。 何か負けてしまった気がして悔しい。 これは何とかせねばならない。 ……いや、ちょっと待て。 何で僕はカナさんにライバル心を燃やしているんだ? まさか同類、……とかじゃないね。 でもここで過剰な張り合いをしてしまうと、マリ達に同類と思われてしまうかもだな。
「す、凄いです。 カナさんってアイディアマンだったんですね」
「そうよ、私はアイディアレディなのよ。 少しは尊敬しなさいね」
そういう所が尊敬できなくさせているんだけど、まあいい。 レディじゃなくてウーマンなら許せた気もするが、仕方がない、ここは素直に頷いて置こう。
「おい、カナ。 アイディアレディって用語あったか?」
ば、馬鹿な。 マリ、そんな当たり前なことを突っ込んじゃ駄目だ。 面倒になるだけだ。
「何言ってんの? 私は女性よ。 マンの反対はレディでしょ?」
「……」
そんな中で僕はつい反射的につぶやいてしまった。
「ん? じゃカナさんはアイディアマンの反対ってことか……」
しまった! マリとカナさんの戦いについ参入してしまった。 こういう所が僕の悪いところだ。
「ちょっと、ヨシ君。 それってどういう意味?」
「ハイハイハイ。 そこまでね。 不毛な議論は後回しにしてプライベートダンジョンの中で休みましょうね」
レイナさんが例の如くその場を治てくれたのだった。
そして僕らは隠し部屋の中へ入り、 50cm程の空間にポータル強化ガラスを置いて、その狭い場所からプライベートダンジョンの中へ入っていった。
中に入ったとたんに、ミレイさん達は調度品をアイテムボックスから取り出し始めた。 机、椅子、ソファー、大画面モニター、音響機器、絨毯や衣装ケース、各種収納ケース、食器や食糧庫、ベッド、趣味ともいえるインテリア類、更には何か分からない機械類まで色々だ。
マリもパーティションや、先程のセーフティテントを複数、バスユニット、大型の水槽?タンク?、大型の機械類などをとりだしていた。 その中で僕の目を引いたのは、縦横高さそれぞれ4m程もある大きな鉄の固まりだった。
「マリ、その大きな鉄の固まりは何なんだ?」
「ああ、これか。 これは重いぞ? ダンジョンの中といってもな、多分俺たちのステータスでも簡単には動かせんと思うぞ」
「だから、それは何なんだ?」
「知らん。 ミレイにこれを運べと言われたんだよ」
なるほど、単にポーターとしての役目を果たしたというわけか。 それにしても変なものだ。
「それは、サーバーユニットよ。 サロナーズオンライン用とかAI用のね」
「ええと、サロナーズオンラインにはVRゴーグルだけでネットにつなげば大丈夫じゃないですか。 こんな巨大なサーバーなんて必要ないんじゃ?」
「ええそうね。 それは独立型のサロナーズオンラインサーバーよ。 つまりネットにつながって無くても独立に運用できる代物なのよ」
「なるほど、でも何でそんなものを?」
「それはね、主に探索シミュレーション系セクションの利用と、娯楽目的ね。 新しい魔物のステータスを登録すれば攻略の練習にもなるしね」
これって、今は無くても絶対2D版VRルームを持ち込む気だよね。 ま、まあいいか。 色々と設定すれば安全な訓練とかができるならば拒む必要はないだろう。 それにしても……。
「あ、あの。 僕の家財をそんなに雑に扱わないでほしいです」
第一区画には僕のアパートの中の家財を持ち込んでいたのだが、ミレイさん達はそれを脇によけて色々と新しい設備を設置しようとしていたのだ。 その中には僕の秘密のおもちゃ箱や金庫も含まれていた。
ヤバイ! あれを見られたら御終いだ!
僕は全力で駆け寄ってミレイさんがソレに触れる前に僕のアイテムボックスへ仕舞いこんだ。
「ヨシ君。 何なの? そんなに血相を変えて」
「い、いえ何でもありません。 ちょっと個人的な事情がありまして、触ってもらっては危ないので」
「そうなの? 何だったの? 私に見られたら不味いもの?」
くっ、もう成人なんだからそれくらい汲み取れよ。 ぐ、ど、どう誤魔化そう。
「ええと、その、ああ、あれっ? そうそう。 それは呪いのアイテムです」
「呪いのアイテム? まさかダンジョンにそんなものが?」
「違いますよ。 見られたら僕が落ち込むという呪いのアイテムです」
「な、なるほど。 分かったわ。 武士の情けでこれ以上聞かないことにするわね」
「あ、ありがとうございます」
ミレイさんは顔を引き攣らせて苦笑いした。 なんか誤魔化し切れていない気もするが、一応これで何とかなったと僕は思った。
そして僕のプライベートダンジョンの第1区画には、豪華な共通オープンスペースと、各自それぞれが使うユニットハウス、そして男女別々にトイレやバスルームの設置が完了した。 これだともうダンジョンの攻略中に安全にキャンプできるなんていうレベルを超えている。 僕の今までの生活水準よりもずっと快適に過ごすことができる空間になったのではないだろうか。
その後僕らは共通スペースでゆっくりしたあと、サロナーズオンラインの独立サーバでゲームとかを楽しんだりして一日を過ごした。 ちなみにゲームの個人データはネットに繋いだ時にダウンロードされて、独立サーバ中に得たアイテムとは区別して管理される仕様になっていた。