82. 攻略許可証
僕はAI自動車に乗って、攻略対象の初級ダンジョン――2986ダンジョン前までやって来た。 そこには既にマリ達が待っていた。 傍らには大きなリュックが2つ置いてある。
「おはようございます。 皆さん早いですね~。 まだ、……まだ?、まだ待ち合わせ時刻から10分しか経ってないですね。 ………………す、すみませんでした!」
僕は何故か待合せに遅刻してしまったようだ。 全く心当たりがないが、遅刻は遅刻なので素直に謝っておいた。 ここで抵抗を試みても実益がない。
「ヨシ君。 おはようございます。 今日はよろしくお願いしますね」
レイナさんは、優しく対応してくれた。
「じゃあ、そこのリュックを持ってくださいね。 攻略には2、3日掛けなければ不自然だし、ダンジョンに入るまではポーター役のフリをしてもらえると嬉しいわ」
レイナさんは優しくなかった。 僕をポーター役の刑に処したのだ。 そんな厳しい現実に僕はため息をつくしかなかった。
「あの、これってアイテムボックスに入れちゃダメなんですか?」
「ちょっとヨシ君。 スキルについては人のいるところで話しちゃだめです。 それにこれは偽装なのですよ? 今日はダンジョン攻略を申請するからそれなりの準備を見せる必要があるのです」
納得と諦めを感じながらリュックを持ち上げた。 めっちゃ重い。 こんなのダンジョンの入口まで持っていくだけでも大変じゃないか。 それに2つもあるなんて。 なんてこった!
「あ、あの。 これ、めっちゃ重いんですけど、手伝ってもらえたりしないでしょうか」
「ヨシ君。 私たちのような、かよわい女性にポーター役は無理よ。 少なくともダンジョンに入るまではね。 そう思うでしょマリちゃん。 男の子が持つべきよね」
ああっ! ミレイさんはまたも僕のことを、”子”って言った。 悔しいが今は我慢すべき時か?
「おお、もちろんだ。 ミレイ、俺にまかせとけ」
くっ、マリは男であることの弱みに付け込まれてしまったようだ。 彼女達のいい分も正当な所が有るので、こうなったら僕も男として引き受けざるを得ないだろう。
僕とマリはリュックを1個ずつ持って、彼女達の後について行った。 まあ僕はそれなりに体力もあるので厳しいが大丈夫なのだが、マリにはそのリュックはだいぶ重くて無理かとも思えた。 それでもマリは歯を食いしばって頑張って運んでいた。
それから僕らは攻略目的でダンジョンへ入る申請を出しにダンジョン管理センターへと向かった。 攻略目的の場合には事前申請が必要だ。 事前申請して許可されないとダンジョンコア近くで冒険者のタグを認証させても攻略した扱いにしてくれないのだ。 これは軽装備で気軽に攻略してしまおうとする初心者を排除するための安全対策だ。
僕らを代表してミレイさんが申請書を書き提出した。 そして待機していると管理センターの職員が僕達の前にやって来た。
「ええと、貴方達が今回ダンジョン攻略の申請を出した方たちですね?」
「はいそうです。 私達5名が攻略に挑みます」
「そうですか。 ……ええと、全員がF-1ランクですよね。 それどころか、ついこの間実習を終えてF-1ランクを取得したばかりですね。 この攻略は許可できませんね」
「ええと、私達はVIPサロナーズオンラインで十分に訓練を積みましたし、この間の実習ではイレギュラーにスポーンしたオークファイターも倒しています。 そして多くのオーブを使ってステータスのブーストも行ってます」
「ええと、オーブブーストですか。 ……オーブはかなり高価ですよ? 失礼ですが、そこの2名の装備を見る限り、オーブブーストができるとは思えないですね」
まあ、この職員の判断は真っ当だよ。 僕とマリの装備は明らかに中古とわかるボロい装備だからオーブなんて手に入れるだけの財力はない思うのだろう。
ミレイさんはこの指摘を受けて困惑しているようだし、ここは僕がサポートしてあげよう。
「ええと、オーブってこれのことですよね?」
バックパックから出すフリをしてアイテムボックスからオーブを10個ほど取り出して見せて見た。
「こ、これは。 ……確かにオーブのようですね。 貴方がどうやってこれを?」
「ああ、それですか。 それはですね。 実は僕とコイツにはある大富豪がパトロンになってくれてましてね。 多大な援助を受けてるんですよ」
「そ、そうなんですか? でもなぜそんな恰好を?」
「それはカッコいいからですよ。 この装備の見た目はかなりボロいですけどね、実は凄く高性能なんですよ。 アンティークカーなのに最新式のエンジンを積んでいるみたいなギャップが堪らないいんですよ。 貴方はそういうのにロマンを感じませんか?」
「ろ、ロマンですか」
おっ? この職員はかなり僕にビビリ始めているな。 もう一押しだ。
「そうです。 ロマンです。 男のロマンですよ。 なぁ、マリも男のロマンを感じているんだよな?」
「お、おう。 当然だ。 男はロマンを追い求めるもんだぜ」
「……」
「わ、わかりました。 装備とオーブブーストの件は理解しました。 ですが、ダンジョン攻略には経験も必要なんですよ? 誰か高ランクの付き添い人がいれば安心できるのですが……」
くそ~。 上手くいったと思ったのにな。 付き添い人か~。 どうやってでっち上げるかな。 これは困った。
「あの~ちょっとヨシ君。 私に任せてくれる?」
「えっ? カナさんに?」
いやいや、カナさんはこのメンバーの中では一番背が低くてポッチャリしているから冒険者のイメージから一番かけ離れているんだよ。 説得なんてできそうにないけど、任せて大丈夫なんだろうか。
「ええと、職員さん。 この攻略推薦カードでどうでしょうか? 私のお父さ、……いや保証人が発行してくれたものです」
「攻略推薦カードですか。 それでは認証させてもらいますね」
職員の方は、攻略推薦カードを携帯端末で操作した。 そして驚愕の表情を浮かべた。
「あ、あの。 失礼しました。 まさかあのトップクランのメンバーからの攻略推薦だとは思いませんでした。 これなら大丈夫ですね。 わかりました許可しますので少々お待ちください」
そして職員の方は奥へ帰って行った。
「ねえ、カナ。 その攻略推薦カードってどうやって手に入れたの?」
「簡単よ。 お父さんをちょっとお酒で接待して、酔った所で少しだけ便宜を図ってもらうようにお願いしただけよ」
「それって、カナ、酔わせて騙したってこと?」
「まあそんな感じね。 アイツの扱いは慣れたもんよ」
「……」
そこへ職員の方が帰って来た。
「皆さん。 これが攻略許可証です。 ……ですが、やはり細心の注意で挑んでくださいね。 危なくなったら躊躇せずに引き返してくださいね」
「はいもちろんです。 ありがとうございました」
結局、カナさんの攻略推薦カードが決定打となり僕らは初級ダンジョンの攻略を認められた。
カナさんの接待か~。 ちょっと受けてみたい気もするけど、本当に騙されそうで怖いな。 まあでも今回はカナさんのナイスプレイに助けられたな。