8. フリーズ
「それではAさんとBさんで、出てくるスライムを倒してください。 分かっているとは思いますが、非常に弱い敵なので恐れず戦ってみてください。 シミュレーションのスライムは所詮実態のない虚像なので手応えとかは無いことをご承知おきください」
「「 はい 」」
AさんとBさんは、スライムへ悠々と歩いていき、すぐに3匹いたスライムを倒してしまった。 それに不自然さは感じられなかった。
「では、CさんとD君お願いします」
「「 はい 」」
僕らもスライムまで余裕を見せながら歩いて行き、剣を振り上げて倒そうとした。
だが、その時、僕はまた閃いてしまった。 こればかりはどうしようもない。
「あ! そうだ!!」
「な、何? またTV番組のことを閃いたの?」
「えっと、スライムで試してみたいことがあったんだ。 こうして蹴るとスライムにも効果があるのかなっと」
僕は答えるやいなや映像に映るスライムを蹴とばしてみる動作をした。
するとスライムはサッカーボールのようにダンジョンの壁に向かってすっ飛んでいき壁にぶつかって分裂した。
驚いたのはその後で、分裂したスライムが跳ね返ってきたのだ。 そして反対側の壁にぶつかってまた分裂して跳ね返ってきた。
僕らはそれを茫然としたまま目を見開いて見続けていたが、何回目かの跳ね返りの後で、やっと我に返った時、見たこと聞いたこともないような数のスライムが無数に跳ね回るまでになっていた。 そしてそれは、後数回でシミュレーションダンジョンを埋め尽くしてしまうかもしれない。
「ストップ、ストップ~。 シミュレーションストップ、コード4434!」
教官が慌てて叫び、一瞬にしてダンジョンの映像はフリーズしてスライムは空中に静止した。 本当の数はわからないが、分裂して次々に増えてしまったスライムの数は千体を超えている気がする。
「いったい、何故こんなことが……」
教官は目を閉じて下を向き額に手をやった。 そしたらCさんが僕に指さして訴えてきた。
「こ、コイツがいきなりスライムを蹴飛ばしたんです」
うっ、言われてしまった。
こ、これは、何か言い訳する必要があるかもしれない。
考えろ、考えるんだ。 そして言い訳をひねり出せ。 僕は必死に考えを巡らせた。
「えっと、あの、その。 そのスライムがCさんの悪口を言ったことにムカついたので懲らしめてやったんです」
「ええっ? スライムって話せるの?」
Cさんが聞いてきたがこれは愚問だ。 スライムが話せるわけがない。 もしかしてCさんって女王様系だけでなく、アッチ系だったりもするのか?
「いいえ。 話せないと思うよ。 なんというか、この格下風情が! というような悪口を言ったような気がしただけさ」
「……」
「あ、貴方、言うに事欠いて、か、格下とか! わ、私を何だと思って……」
しまった。
言い方がマズかったか!
Cさんは震えてしまっているようで最後は涙声になっていた。
「あ! 違った。 そ、そうだ! 剣で突くなんて卑怯者!っていうような悪口だった!」
「……」
周囲を見回すと、どうやら全員が僕を非難するような目で見ていると感じられた。
なんとかこのスライムであふれ返ってしまった窮状を切り抜けようと試みたが、どうやら僕は失敗してしまったようだ。
「D君。 言い訳は必要ない。 どのみちこれは魔物討伐シミュレーションのバグだと思う。 この状況は君のせいでもなくて、恐らく君のような行動に対する十分な対策が取られていなかっただけだと思う」
よかった。
僕のせいにされたらどうしようかと恐れていたのだが、教官の言葉に救われた。
「……それで、こんなバグがあるシミュレーションでは危険だから、とりあえず今日の講習は一旦中止せざるを得ないね」
「「「「「 えええっ!! 」」」」」
僕らはあまりの結末に驚いて一斉に大声で叫んでしまった。
その後僕はCさんに先ほどのやり過ぎを謝罪したが、Cさんは震えているだけで僕に一言も答えてくれなかった。