77. 大事故
僕は走って行き、レッドカウ達の前でアピールしてから入口側へと引き返していった。 思惑通りレッドカウ達は僕を見つけて追いかけてきた。 僕は逃げる速度を上げようとして焦った。 この区画だけ床と靴の相性が悪いのか、僕の足が滑って空回りしてしまったのだ。 それに比べてレッドカウの体重は僕と比較にならないほど重いし足の裏に何やら床を捕まえる機能が備わっているような感じだ。
や、ヤバイ追いつかれる。
僕は大きな弧を描いて走る方向を少しだけ変えた。 レッドカウ達も僕に追従して走る方向を変えて旋回してきた。 イボイノシシはほぼ直線にしか走れないが、レッドカウはこの辺の運動機能には優れているようだ。
マズイ、不味いぞ。
僕はダンジョンの14区画側の壁へ向かっていたのだったが、反転して減速を始めた。 足は滑って摩擦で熱くなってきている。 レッドカウたちは凄い速度で迫ってくる。 そして間一髪というところで横へ避けることができた。
スドドドドドン。
レッドカウたちが続けざまに壁に衝突して気絶していった。
僕はため息をついたあと、一匹ずつ丁寧に止めを刺していった。
さてどうする? さらに第15区画を奥へ進むか?
まだ時間的にミレイさん達は”噛み付き小石”を倒し切れていないはずだ。 そう思った僕は奥へ進むことにした。
第15区画を奥に進んで行くと、今度は20匹程度いるレッドカウの大群と遭遇してしまった。
さてこれはどうしたものか。 先程のように絡まれ釣りしか方法が無いように思えるが、20匹、いや23匹か。 これは迫力があるだろうな。 まあ、でも先程も何とかなったのだからやってみよう。 僕はVITが高いから最悪跳ね飛ばされてもきっと痛い思いはしないはずだ。
例の如く走ってレッドカウの群れの前を横切った。 そして僕を認識したレッドカウたちの群れが僕を追いかけてくる足音が聞こえた。 後ろを見ると16匹程が付いて来ているようだ。 僕は区画の端から端までを使って走る方向を大きく旋回させた。 そしてもう一度残りの7匹の前を素通りしてからスピードを上げた。
例のごとく僕の足は加速に耐えきれず滑ってしまうが、何とかレッドカウたちのスピードよりも少しだけ速い。 そして第15区画入口の壁が迫って来たので、僕はブレーキ操作にはいった。
僕の足は床を滑りながらも減速している。 そしてレッドカウたちは一段とスピードを増して迫ってきている。 そしてそのレッドカウ達の集団は横に広がりを持っていて横幅は10m近くにもなっている。
あれっ? こ、これは。 群れの横幅が10mもあったんじゃ、横に避けきれないじゃないか。
焦ってしまった僕は閃いた。
そしてレッドカウたちが僕に衝突する直前で僕は上へとジャンプした。
ズドドドドドドド……。
眼下で凄い数の大型トラックのようなレッドカウたちがダンジョンの壁へと次々に激突していった。 その様子は映画の大事故のようなシーンだ。
僕は事が収まった後、気絶しているレッドカウに一体ずつ順番に止めを刺して回った。
そして僕の思惑通り、スキルオーブを2つだけドロップした。 やはりオーブを4つもドロップする魔物は低確率でスキルオーブもドロップするらしい。
ふぅ、何とかなったな。 これでレッドカウの攻略方法はほぼ確立したな。 ははは、どんなもんだ。 最近じゃ新種の魔物の攻略法なんて聞かないし、そもそも新種の魔物の報告も非常に少ないよな。 これは快挙だ。 やったやった、どうだ、ざまあみろ。
……。
ま、現実はそんなに甘くないか。 これを公表したら僕の持つスキルとかも問題になって今後が大変になる恐れがあるからな。 迂闊には報告できない。
さてそれではどうしよう。 マリ達が第14区画の攻略を完了されるにはまだ時間的に余裕がありそうだ。 じゃあ更に先へ進んでみようか。
そう考えて僕は第15区画の奥へと走った。 そして見つけたレッドカウの集団は15匹程度、そしてその向こうには第16区画への壁が少し見える。
よし、やってやる。
意を決してレッドカウの集団へと突っ込んでいった。 そして絡んで付いて来た集団を第16区画側のダンジョンの壁へぶつけてから討伐した。
まあ、攻略方法が確立しているから簡単な作業だ。 だがレッドカウが想像以上に速いスピードで動くし、何と言っても防御力が高い。 僕に簡単に倒せても、カナさんのあの攻撃でも止めを刺すのは困難だろう。
僕はこれで引き返すことにした。 第16区画を覗いて見たい気もしたが、一旦覗いてみたら攻略してみたくなってしまうのが怖かった。 結局この区画で倒したレッドカウは44匹だった。 スキルオーブも3個手に入り、エムレザーは確定ドロップらしく44枚も得られた。 それに対して武器防具は、青い盾一つだった。