76. 第15区画
ゲートを潜り第15区画へ入った。 ストレート型ダンジョンでここまで深層があるダンジョンは聞いたことがない。 日本にあるストレート型ダンジョンは精々10区画位までだったはずだ。
恐る恐る前へ進んで行く、見通しの良いストレート型ダンジョンのはずだが、この区画は微妙に右に曲がっていてずっと先までは見通せない。 それにセーフティゾーンよりも奥なので魔物が急に強くなるとのことなのだ。
暫く歩いて行き、遠くに黒い大きなものを見つけた。 どうやらそれは動いていないようだ。
これはしかして大岩よりも大きな”噛み付き石”を見つけてしまったか?
僕は少し期待したのだったが、その期待は空しく崩れてしまった。 そいつは動いて僕の方へ向かってきたのだ。 だんだんその魔物の外観が明らかになってきた。 バッファローみたいな牛のような奴で、頭の部分が赤い。 こんな奴はサロナーズオンラインの探索シミュレーションでも見たことが無いし、僕の知る限り冒険者用の魔物カタログにも載ってない。
お? これはもしや新種か?
僕は早速携帯端末を取り出した。 新種なら動画に撮ってネットにアップすれば儲かりそうだ。 いやもうお金の心配は必要なさそうなのだが、新種なら魔物カタログに載せて他の冒険者のために貢献できる。
僕は携帯端末を構えて動画を撮ろうとしたのだが、それどころではなくなった。
バッファローみたいな魔物は僕に迫ってくる。 結構大きい。
えっ? これって大きすぎない? ちょっと、待て、待て、待って。 これは巨大すぎだ。 そして思ったより移動速度が早い。
僕としたことが周囲に大きさを比較するものが無かったためにコイツの大きさを見誤ってしまったようだ。 その魔物はバッファローのような姿で頭の部分まで3メートルもあるような巨大なサイズだったのだ。
撮影は中止だ。 僕はそう決断して携帯端末をアイテムボックスへ戻して、右手にツッツキ君、左手には緑色の剣を握った。 そしてその魔物の弱点らしき位置を探ってみた。 その結果、迫りくる大型トラックのようなバッファローの弱点は頭部の額部分にあるようだった。 だが問題はその高さだ。 その弱点の位置は床から約3メートル弱の位置にある。
なんということだ! これじゃ、ツッツキ君が届かないじゃないか!
僕は少したじろいた。 そんな僕にかまわず迫る来る大型トラックサイズのバッファローは途中から凄い加速をみせた。 それでもAGIとSTRの高い僕には速さ的に脅威でない。しかしこれに跳ね飛ばされたらどうなるだろう。 それも何となく大したことにならないような気がするが、初見の敵は怖いので用心に越したことは無い。
そのバッファローにちょっとした脅威を感じながらも僕は第15区画の入口側へと逃げることにした。 そしてバッファローに追いつかれる直前で僕は反射的に横へよけた。
するとそいつは僕の脇をそのまま通過していき、ダンジョンの入口側の壁へ激突した。
ゴォン。
何か嫌な音がして、そいつは動きを止めて倒れ込んだ。
消えていないところを見ると気絶しているだけで生きているようだ。
「……」
まさか、コイツって、あのイボイノシシと同じような猪突猛進型か?
僕はそいつに駆け寄って行き、頭部へ登って弱点へとツッツキ君を突き立てた。
ごつっ。
結構な手応えがあったが、一発では倒せない。
ごつっ。
ツッツキ君で再度弱点を突くことでその魔物を消滅させることが出来て、その魔物からはエネルギー石と、オーブ4つ、そしてエムレザー2枚がドロップした。
こいつは中々の強敵だったと言えるだろう。 ”噛み付き小石”どころじゃない防御力を持っている。 だがそいつは致命的な弱点を持っている。 跳ね飛ばされる寸前で避けるだけで壁に激突して気絶してしまうので攻略は簡単かもしれない。
なんだ、驚かせやがって。 結局僕の相手になんかならない奴だったな。 まぁこの第15区画もボーナスステージの第二弾と言っていいな。 オーブを4つもドロップするんだから”噛み付き石”と同じレベル帯の魔物のはずだからドロップ素材は高級品のはずだ。 それにたくさん倒せば、低確率でスキルオーブすらドロップするかもだしな。
とりあえず、この新種のバッファローのような魔物を呼び名を決めねばならない。 う~ん。 頭が赤いから赤頭? いやそれよりも赤バッファロー、それも言い難い。
赤牛、レッドウルフ、レッドカウ、レッドモンキー、レッドミレイ。
色々と考えた末、僕はこいつの名をレッドカウにすることにした。
よし、それではこの区画のレッドカウを殲滅してやろう。
僕は第15区画を奥の方へと走っていった。 ちなみに自転車は第14区画に駐輪したままだ。 第15区画に踏み入れたのは様子見だったからで、それに自転車の速度ではレッドカウに対応できそうにない。
暫く行くと5頭の群れを見つけた。 群れている場合は”釣り”をして1匹ずつ討伐するのが基本だ。 僕は投げるためのスライムのエネルギー石を取り出そうとして気が付いた。
しまった! さっき売却する素材と一緒に、あのコンクリート部屋へ置いて来ちゃった!
まあ、無い物は仕方がない。 気を取り直して”噛み付き石”のエネルギー石を投げつけてみるかとも考えたが、何か後で拾いにくるのも面倒だし、もったいない気がする。
それならばやることは一つ、”絡まれ釣り”だ。
つい先日、初めてのミレイさん達とのパーティプレイで、ヤスリカマキリを釣った方法をレッドカウに試すことにした。