73. 強化ガラス
その後、神降さん――アイラさんは用事が済んだので次のミーティングに参加するために転移していった。 ビジネスのためにリアルキャラ(自分の実際の姿を3D化して特別に認証を受けたキャラクター)に変更するらしい。 やはりビジネスの場では信用が大事なのでサロナーズオンラインで正式に認証されたリアルキャラを使うのが普通なのだ。
僕はやっと1440万円もの大金を手に入れることができた。 今は未だその実感は薄いが、今までの苦労を思うとやっと報われた感はあった。 そうして少しの間安堵感に浸っていたが気づいてしまった。
あ、そうだ。 送金しなきゃ。
思い出した僕は慌ててサロナーズオンライン上で家族へ500万円の送金手続きを行った。 これで僕が一人でもちゃんとやっていけることを報告できたはずだし、喜んで貰えるだろう。
あと手に入れた残りのお金の使い道だが、装備の更新、特に防具の更新が気になっている。 ログアウトして、マリのオジサンが経営する武具店へ行こうかと思ったが、その前にミレイさんから話かけられた。
「ヨシ君、相談があるんだけどいい?」
なんだろう、まさか昨日のアニメに関することか? そう思ってワクワクしたのだが違った。
「これからなんだけど、私たちにこれからもヨシ君のプライベートダンジョンを使わせてほしいの。 こんなに簡単にステータスを上げることができるならカンストまで持っていきたいわ」
「ああ、そんなことでしたか。 もちろんいいですよ。 ただし僕がいないと入れないしマリも一緒でお願いします」
「ああ、俺も一緒に入って活動させてもらうぜ。 お前のプライベートダンジョン――ストレート型ダンジョンは中々快適だからな。 それで強くなれるんだったらこれ以上のことはないぜ」
そこで僕は気づいてしまった。
「あっ!」
「ど、どうしたの? またなんかヤバイこと?」
「神降さんにエネルギー石以外の素材を買い取ってもらうのを忘れてたっ!」
「なるほどそうね。 エムレザーとかいらない武器とか沢山あるものね。 私も忘れていたわ。 でも先にヨシ君にそれを指摘されるなんて、ちょっと、……く、悔しいわ」
お? ミレイ様が悔しがっている。 これはまた嬉しいぞ。 アニメの時よりも嬉しいかもしれない。 僕ってやはりいい性格をしているよね。 まあそれは仕方ない。
「悔しいですか? う~ん、僕はそれほど悔しくないな~」
「……」
ミレイさんはなぜか微妙な顔をしてため息をついた。
「ミレイ、とりあえず、低レベルのエネルギー石も含めて、集めた素材を確かめてみない? 結構な量があるはずだわ。 素材の出処を問われると困るから、お父さん経由で売却するのが妥当だと思うわ」
「僕はそれに賛成です」
「じゃあ、ログアウトして、あの部屋、――コンクリートむき出しの部屋へ集合ということにしましょう。 それに既にアレも届いていると思うのよ」
そして僕たちはサロナーズオンラインをログアウトし、2D版VRルームを出て上の階の”むき出し部屋”へ集まった。
そこで僕は少し驚いてしまった。 その部屋にはかなりの量の色々な物が運び込まれていたからだ。 アレって言うからお弁当とかダンジョン探索に必要な小物かと思ってしまったのだ。 部屋に置いてあるこれらは一体なんだろう? これってレイナさん達が購入したもので間違いないのだろうか。
「あの~この大きな資材みたいなのは一体なんですか?」
「あらっ? マリちゃん、ヨシ君に言ってなかったの?」
「あああ、ヨシ悪い。 忘れてたわ。 これはな、資材だ」
……マリ、僕は”この資材はなんですか”って聞いたんだぞ? それに対して”これは資材だ”って答えはどうかと思うぞ。
「マリ、だから僕はこの資材は何だって聞いたんだよ?」
「ああそうだな。 ミレイ、これって何なんだ?」
マリ、お前という奴は……。
まぁマリもやればできるじゃないか。 そのボケは少しだけ僕にダメージを与えたよ。
「マリちゃん、それは話したはずよ。 それは建築資材よ」
「ああそうだな。 ヨシ、これは建築資材だ」
「……」
これは駄目かもしれない。 マリには詳しいことを知らせれていないようだ。 ならば直接レイナさんに聞いてみよう。
「レイナさん、この建築資材は一体何ですか?」
「ヨシ君それは、……ヨシ君にちょっとお願いしようかと思って購入したのです」
「えっ? お願いってなんですか? まさかここを改装して僕に住んでほしいとかですか?」
「ヨシ君がここに住むって、 ……それはそれでいいのかもしれないわね。 でも違うのよ」
「そ、そうですか。 住んでもいいのか。 でもホテル住まいの方が快適かな~」
「……」
「ええと、ヨシ君はコンクリートの壁にプライベートダンジョンを作れるわよね? それなら他のセラミックス素材にはどうなのかしら? そこの建築資材で確認してほしいのよ」
おお~、これは僕がが一本取られてしまったな。 考えてみればコンクリート以外のセラミックス?でもダンジョンが作れる可能性があるわけだから試さない手はないな。
「な、なるほど、わかりました。 それで最初はどの資材で試してみましょうか?」
「そうね、一番単純なこの強化ガラスで試してくれるかしら」
「わかりました」
僕はその強化ガラスが横たえてある場所まで行ってスキルを使ってみた。
「ダンジョン生成!」
恥ずかしいが、仲間にスキルを使ったことを知らせた方がよいと思って声にだして叫んでみたのだ。
すると、例のもやもやが強化ガラスの上に発生し、ゲートへと変わったのだった。