67. 私はやった
さて僕はマリ達の戦いを継続して見学している。 とりあえず僕が手を出すのは、おあずけだ。 今までのところマリ達は一体あたり約10分ほどで倒している感じだ。 だがどうやらマリだけが止めを指せているだけで、女性陣が攻めあぐねているのは明らかだった。
やはり剣の品質が影響しているのだろうか? だとしたら武器を交換して実験してみるのも手じゃないだろうか。
「ちょっといいですか? ミレイさん」
「何? ヨシ君。 何かアドバイスとかくれるの?」
「あの、実験に付き合ってほしいんですけど……」
「ヨシ君から頼まれる実験って、ちょっと怖いんですけど……」
「ああ、大丈夫ですよ。 武器の効果を検証したいだけです。 この剣を使ってソロで戦ってみてくれませんか?」
「あ、そういうこと。 それなら……。 緑色の剣ね、これってヨシ君のサブウエポン?」
「そうですよ。 あの”噛み付き大岩”からのドロップ品です。 恐らく僕が持っている剣で最高品質じゃないかと思ってる一品です」
「そう、あの大岩の……。 やはり怖くなってしまったかも」
「いやだな~、ミレイ様らしくないじゃないですか。 ミレイ様だったら、ほら、あの、う~ん」
「何を考え込んでるの?」
「女王様だったらこういう場合どんな態度に出るんだろうかと考えたら、意外に想像できなくて……」
「私のことを、女王様って言わないで! どうしてヨシ君はそうなの?」
「だって第一印象が強烈だったので、そのイメージが頭から離れないんですよ」
「クッ、あの時は確かにちょっと調子づいていたと思うわ。 今思えば、あの時貴方にやり込められて、……目が覚めたから良かったと思うわ。 それでも女王様はダメ!」
「わ、分かりました、じょ……ミレイ様」
ミレイさんは、渋々緑色の剣を受け取り、マリ達とは別の”噛み付き小石”に攻撃を仕掛けた。
カッ、カッ、カッ、ガツッ。
驚いたことにものの4分程で、”噛み付き小石”を仕留めてしまった。 そしてお約束というか、いつものに加えてスキルオーブを1つドロップしたのだった。 やはり初回撃破にはボーナスがありそうだ。
「あっ!」
「えっ!」
ミレイさんも僕も驚きを隠せない。
いやいやミレイさん、スキルオーブはともかく、そんなに早く倒しちゃマリが可愛そうじゃないか?
ほんとにそれだけ早く倒せるかは、あと一、二回は実験が必要だけどな。
「ミレイさん、おめでと~」
「あ、ありがとうございます。 ヨシ君のお蔭です」
「いや、武器のお蔭だと思いますよ? 僕は手を出してないし」
「……ま、そういう事にしておくわ」
「じゃ、そのスキルオーブ使ってみてよ。 何を取得するか楽しみだな」
「ええと、今度はマリちゃんの番なんじゃないの?」
何を言ってるんだろう。 この後に及んで、まさかスキルを覚えるのが怖いとでも言い出すのだろうか? 自分が倒して得た戦利品は自分で使うのが原則だ。 少なくともこのプライベートダンジョンのパーティではそう決めていたように思うが僕の勘違いか?
「お、おいミレイ、俺とヨシの約束はあくまでヨシか俺がドロップさせたスキルオーブだけが対象だぞ?」
「でも……」
「ミレイ、マリちゃんの言う通りよ。 多少怖くても使わなければ駄目だわ」
「レイナ、……わかったわ。 使ってみる!」
ミレイさんは表情を引き締めてでスキルオーブを使った。
その結果、得たスキルはアイテムボックス6だった。 これは容量100立方メートルのアイテムボックスだ。
「「「「 えええっ!!! 」」」
僕たちは驚いて思わず奇声を発してしまったのである。
そしてカナさんとレイナさんがクラっとしたのが見えた。
「マ、マリ、ギリギリだったな。 何とかお前のポーター役の地位は保たれたみたいだ」
「お、おい。 俺はポーター役じゃないっていってんだろ!」
「でも、朝方はミレイさん達に呼び出されてポータ……」
「ちょっと、ちょっと待って! ミレイにもアイテムボックスって何? もしかして、このプライベートダンジョン?で出たスキルオーブを使えばアイテムボックスを獲得できる確率が高いってこと?」
「カナさん、落ち着いてください。 それは前回報告したはずです。 アイテムボックスの取得確率が明らかに高そうだと」
「あははは。 私はやった。 私は遂に夢のアイテムボックスを取得したのよ。 あははははは」
ミレイさんは喜びに満ち溢れて我を忘れている。 そんなに嬉しいことなのか?
あまりの喜び様に僕は少し引き気味に驚いたのだが、考えて見れば当たり前のことだ。 スキル自体が希少であるし、数あるスキルの中でもアイテムボックスはダンジョンの外でも使える例外的なスキルの一つなのだ。 衣装ケースやお弁当、おやつ、縫いぐるみ、切手、トイレに至るまで容量が許す限りのアイテムを持ち運びできるし隠してもおけるのだ。
「ヨシ君。 私にもその緑色の剣を貸していただけるかしら?」
いつになくレイナさんが真剣な表情で僕にお願いしてきた。 ミレイさんのアイテムボックス取得に触発されたのかもしれない。
「ええ、どうぞ。 ミレイさん、いいですよね?」
レイナさんはミレイさんから緑色の剣を受け取ると、付近にある小石の前で剣を構えて目をつぶった。 どうやら剣に集中しているらしい。 そして目を見開くと剣を”噛み付き小石”に向かって振りかざした。
カッ!
惜しい!
あと5cmほど右側であれば小石に剣を当てることができたはずだ。 当てたから倒せると決まったわけではないが、当てないと倒せないのは確実だ。 頑張れレイナさん。
カッ! カッ! カッ! カッ!
レイナさんはなかなか小石に剣を当てられていない。 偶に当たってもカス当たりのようで倒せるようには思えなかった。 それなのに情熱は覚めてなかった。
そして、7分程でまともにヒットした時に”噛み付き小石”はエネルギー石とオーブ2つ、そしてスキルオーブをドロップしたのだった
うわっ、クリーンヒットで一撃か!!
僕は驚いたのだが、よく考えてみれば何回も空振りやカスあたりを繰り返していたので苦労はしていただろう。 レイナさんの剣技はクリーンヒットは困難だが当たれば大ダメージを与えるようなギャンブル性が高い技なのかもしれない。 通常の戦闘では相手は動くので、実用性は皆無なのだが今回のような動かない敵に対しては有効だったのかもしれない。 だが今後技を磨いたりDEXが上がればかなりの戦力になるはずだ。
「では使ってみますね」
そしてレイナさんは震える手でスキルオーブ握り躊躇なく使ったのだった。
得たスキルはアイテムボックス5。 僕と同じサイズつまり容量10立方メートルのアイテムボックスだった。
「きゃ~やった~!!」
何時も冷静なお嬢様タイプのレイナさんが、歓声をあげて飛び上がって喜んだのだった。