66. 本音
「貴方、スキルオーブをたくさん使っても魔法系を覚えていないということは、ステータス増強系を結構覚えてたりするんじゃない?」
「ああ、そんなことでしたか。 もちろんステータス増強系を覚えていますよ。 特にVITなんかはかなりのものです」
「その言い方だとステータス増強系を複数覚えているってことなのね」
しまった! ステータス増強系の習得自体も結構問題だったのかもしれない。
さてどうしよう。 誤魔化すか? いや誤魔化す必要があるか? これはいずれ分かることじゃないか?
僕は皆の顔色を窺ってみた。
ああ、これはヘタな言い訳は出来そうにないやつだ。
でも、複数覚えたことが何だっていうんだ?
「ええそうです。 それが何か?」
「本当に簡単に言ってくれるわね。 ステータス増強系は一日の使用回数に関係ないし、限界突破できるし、何より希少なのよ。 まあアイテムボックス程じゃないけどね。 本当にヨシ君って規格外よね」
「そ、そうでしたか。 それは何となく嬉しいですね。 でも皆もこれからたくさん取得するので皆で規格外になりますね」
「えっと、現状だとスキルオーブを安定して取れるのはヨシ君だけよ。 私たちには取得は困難だわ」
「そんなことないですよ。 さっきはマリが止めを指してスキルオーブが出たじゃないですか。 僕は攻撃に参加してませんでしたよ?」
「それは、たまたまよ。 レベル100を超えるあたりの魔物だとたまにドロップすることもあるらしいわ。 噂では初回撃破ボーナス的なのもあるという話だわ。 でも貴方ならそんなの関係なく1日に数個は確実に取得できるんじゃないの?」
「確かに一日で数個は確実にゲットできそうですね。 ですが、それが何になるんです? それで僕はダンジョンで強くなれるでしょう。 ですがそれはダンジョンの中だけの話ですよ? 外へ出ればステータス効果は無くなるから只の人なんです。 もし僕がダンジョンで異常に強いとバレてしまったら、僕は妬みとかで潰されちゃうんじゃないかな」
「それは、……まあそうかもね。 それでも、……ああ、だからね私たちにスキルオーブを使わせたい理由は」
「そうです。 僕の勝手なんですが、皆さんを巻き込みたいんですよ。 僕は最強になる。 それはいいんですが、それだけじゃ駄目です。 周囲に理解者が居ないと駄目なんですよ。 マリとか君たちにもそういうことを期待しているんですよ」
「……やっと貴方の本音が聞けた気がするわ。 でも私としては、……マリちゃんを先に強化して頂戴。 マリちゃんはヨシ君の良き理解者でしょ? マリちゃんが強くなりすぎて怖くなったのなら、次は私たちがその役目を担うわ」
「ちょっと待て。 俺はもう怖くなってるぞ?」
「なんだよ、マリは僕が怖いのか?」
「いや、そう言うんじゃなくてな……」
「マリちゃん。 ここは男らしくドンと行ったらどうなの?」
「お、おう。 そう言われちゃ断れんな」
ははは、やはりマリの弱点は”男らしさ”に拘るところだな。 単純な奴だけど、それはそれで頼りになる。
「じゃ、早速これを」
僕は早速、先ほどのスキルオーブ――強制取得させるのを思い留まった一品、を差し出した。
「!!!」
マリは口では言ったものの、僕が差し出したスキルオーブを見て固まってしまった。 なにを今更と思ってしまうのだが、いきなりだから覚悟ができてなかったのだろう。
「ほら、ほら。 使ってくれよ」
「い、いや。 順番。 そうだ先ずはヨシが使ったら、次は俺が使うことにするわ。 それが筋ってもんだ」
どこがどう筋なのかは分からなかったが、この辺が落としどころなのかもしれない。 とりあえず、マリは僕に次ぐ強者になってほしい。
「ああ、わかった使うよ。……これでいいか?」
スキルオーブを握って使うと何時ものようにアナウンスが頭の中で響いた。
<スキル、<頑健7>を取得しました>
ん? 聞き間違いか? 今、頑健7って聞こえたような。
僕は固まりながらも、すぐにステータスを確認した。
LV 86
HP 2000 + 60%
MP 2000
STR 2000 + 180%
VIT 2000 + 360%
AGI 2000 + 160%
DEX 1959
INT 1627
MND 1811
スキル: 体力3(ON)、筋力9(ON)、頑健18(ON)、俊敏8(ON)、回復魔法3 (50/50)、アイテムボックス5 (6/10)
ユニークスキル: 急所突き、ダンジョン生成、ダンジョン内探知
「ええっ!!」
「ど、どうした?」
僕が驚いたのは、頑健だけが異様に強くなってしまったことだ。
これじゃまるで盾役じゃないか。 僕は戦士がいいのだ!
まぁそれはゲームの世界の話だけど、リアルでも好みは変わらない。
それにしても、このステータスじゃリアルで盾役を担うことになるんだろうか。 盾役ってどのように動けばいいんだ? そんなのは分からないぞ?
僕は盾が敵を引き付けたのを横から殴るのが好きだ。 そう、安全に横から殴りたいんだよ。
「え、ええとね。 ステータス値が上がったんだけど、偏りが酷くて、VITが上がり過ぎてちょと困惑したんだ」
「なんだそんなことか。 ランダムなんだから不思議なことじゃねーな」
「そうね、ランダムなんだから普通よ普通」
「ほんとにビックリさせられるわ。 コイツが奇声を上げた場合はいつも碌でもないから、条件反射で頭がクラっとしたわよ」
条件反射ってカナさん、それは……。 もしかして僕が奇声を上げたらクラっとしてくれるということか? ということは、ミレイさんへ”トイレ”って呼びかけてショックを与えるのと同じ効果が得られるかもれないんだな。
「まあいいでしょう。 唐突な何かが起こったわけではなさそうなので安心しました。 それでは、次にヨシ君がスキルオーブを取ったら、マリちゃんが使用するということでいいですね?」
「ああ、俺に二言はねえ」
「では気を取り直して、”噛み付き小石”の討伐に戻りましょう。 それでいいですね」
レイナさんが話を進めてくれた。 僕としては頑健が上がったことが少し不満だったが、こればかりはどうしようもない。 まぁ贅沢な悩みだ。
でも僕は一応試して見たかった。 本番で使えるかもしれない技術は事前にチェックが必要だ。
「ええっ!!」
カナさんはクラっと来た。 レイナさんもクラっときたようだ。
よし! 完璧だ。
奇声はカナさんとレイナさんに効果があるようだ。
トイレと合体させれば更に完璧だ。
「ちょっとどうしたのよ。 ビックリするわよ」
「あ、その。 そういえばお弁当を食べてなかったなと思って」
「えっ? あら、もうそろそろ15時近くなのね。 おやつの時間……」
「あ! おやつの時間ですよね。 お弁当を開けなくて良かったです」
それから僕らは、セーフティーゾーンでもある第14区画で優雅にお茶を飲んでおやつを食べたのだった。 流石はレイナさんだ。 おやつまで用意してあるなんて、良く気が利くじゃないか。