65. 誤差の範囲
レイナさんが、すかさずマリに問いかけた。
「マリちゃん、どんなスキルを覚えたのかしら?」
「ん? 看破8って奴だな。 こいつは何だ?」
「それはレベル90未満の敵のステータスやスキルを見破れるスキルです。 高いスキルレベルのを連続して取得するなんて、マリちゃん運がいいわね」
「マリ、良かったな。 ただ、またアイテムボックスだったら面白かったのにな」
「アイテムボックスなんてスキルはそうそう取得できないし、スキル重複進化の対象かどうかも分かってないわよ」
「ええとミレイさん、僕のアイテムボックスは重複進化しましたけど?」
「ええっ? アイテムボックスを重複させたの? というかできたの? そんなこと聞いてないわ」
「言ってなかったからね。 僕は2回も重複させてるんだ。 ”噛み付き石”が原因なのか、このプライベートダンジョンなのか、それとも両方なのかは知らないけど、何となくドロップが偏ってる気がするんだ」
「どう偏っているの?」
「ええと、先ず攻撃魔法系が出てないし、INTやMNDの強化系スキルも取得できてないんだよ。 普通は攻撃魔法系が多く出るって聞いていたんだけど」
「これもあまり知られていないことだと思うんだけど、ダンジョンでは攻撃魔法系のスキルが出ることが圧倒的に多いって聞いたわ。 ……でもヨシ君が自力でそういうのを知ったってことは、……ええそうね。 当然よね。 スキルもたくさん取得したということなのね」
「それ程でもないと思うよ? 数えてないけど延べ10個ほどじゃないかな」
「は、ははは。 まあヨシ君だからね。 当然といえば当然ね」
ミレイ様が僕を呆れた顔で僕を見つめた。 なんだか恥ずかしいような嬉しいような悲しいような気がするのが不思議だ。
「それにしても、魔法以外のスキルオーブが出やすいなんて、これって凄いことなんじゃない? もしもステータス補正とかが出たら、スキルの上限を突破できるじゃない」
「ええと、スキルの上限とは?」
「なに? 知らないの? スキルの上限っていうのはね、ステータスの上限の事よ。 私のお父さんが馬鹿だから言い間違えて、そのままになってしまったのよ」
「カナ、言わなくてもいいことを言ったわよ、今」
「あ!」
「もう、カナは口が軽いというか迂闊というか。 この前も”疾風の白狼”について見事にバラしちゃうし、本当にカナは他のパーティとかと一緒にさせない方がいいわね」
「……カナはお父さんの性格に似てしまったのね」
「お父さんって? まさかトップ冒険者のグループにいるっていう人?」
「そうよ。 口が軽くて時々カナに秘密情報を漏らしてしまうらしいわ。 カナも気をつけなさいよね」
「冗談よしてよレイナ、ミレイ。 お父さんと私が似ているなんて、怒るわよ」
「まあまあ、仲間割れは良くないですよ。 それでスキルの限界つまりステータス限界って何なんですか?」
「それは、……ヨシ君なら分かってるはずですね? ステータスはいくら頑張っても1000を超えられないのよ。 ヨシ君は既にステータスが全て1000になってるんでしょ? だからオーブに執着がないのではないかしら?」
僕は衝撃を受けてしまった。 ステータス限界というのはステータスの飽和値なのは理解できたが、まさかその値が1000だとは思わなかった。
僕のステータス限界は2000になってるんですけど、これって僕が突然変異種ってこと? それとも限界突破には何等かの制約があって、僕はそれをクリアしたってことなのか? 制約によるとすると今の限界も突破できる可能性もあり得るってことか?
「あ、えっ、そ、そうです。 僕のステータスは5つほど飽和――限界に達してます」
「あら? まだ全部じゃないのね。 ちょっと意外だったわ。 それじゃヨシ君もオーブを使った方が良いのじゃないかしら? 私にだってそろそろ、その限界に近いステータスがあるのよ?」
「僕の残りのステータスは、すべて限界値に近いからオーブを使わなくてもレベルが上がれば何とかなるかな~、なんて思ってたんです」
「あらそう。 でも使った方がいいわよ?」
「でもなんか勿体ないような気がして使えないんだ。 それよりも今は皆のステータスを上げた方が戦力増強になるんじゃないかと思ってさ。 ところで皆のステータスはいくつぐらいなんだ?」
「私のステータスは500~600と言ったところかしら。 こればかりは運が作用するから……」
「おい、俺のステータスは全て400~500台なんだが、これって如何なんだ?」
「マリ、それは誤差の範囲だ。 どうせ順調に行けば今日中にステータス限界に達するステータスが出てくるさ。 そこからカンストまでは時間がかかるしな」
「それはそうね。 このままオーブを集められたら、今日中に限界値に達するステータスが出始める見込みね。 そしたらステータスアップの効率は落ちるわね」
「な、なるほど。 俺のステータスはお前らと誤差の範囲だったのか」
「……」
「そういうことで、”噛み付き小石”の討伐を再開してはどうでしょうか」
僕は提案してみた。 早く皆のステータスを限界まで上げてしまいたいのだ。
「待ちなさいヨシ君。 話は終わってないわ」
「なんでしょう?」
ミレイさんが僕を真剣な顔をして何かを問いたいようだ。 なんかちょっと怖いが、ミレイ様はそんなところがとても魅力的だ。
でも何が聞きたいんだ? 僕には心当たりがないな。