62. 彼女達の事情
ゲームを終えてサロナーズオンラインからログアウトした。
さてこれからが本番だ。
僕たちは昼食を取り、約束通り僕らは旧VRルーム――コンクリートむき出しの部屋へやって来た。
全員戦闘装備を着用しているが、VRヘルメットだけは外している状態だ。
「ダンジョン生成!」
そして早速プライベートダンジョンの中に入り、移動用の自転車を取り出していざ出発というところで、僕は提案してみた。
「ところでコレなんですが、誰か使います?」
「えっと、それってもしかして、スキルオーブ?」
「ええミレイさん、昨日ドロップした奴ですよ。 自分だけ強くなっても、本当に手強い敵とかだとヤバそうじゃないですか。 そういう場合にはパーティプレイが必要だと思うんですよ。 それにステータスも飽和するから尚のことスキルが重要だと思うんです」
「飽和って、ヨシ君はそれを誰に聞いたの? 一般的にはそれはスキル上限っていうのよ? 実際はステータスの上限のことなのだけど、ある事情でスキルの上限という用語で定着してしまったのよ。 ……でも、あれだけオーブ取得できて使えるヨシ君なら、当然ステータスに上限があるのは分かったということね」
うぁ、スキル上限って、ステータスの上限のことだったのか~。 スキルとステータスは間違えやすいんだけど、これはいくら何でもあんまりだ。 だれだそんなのを定着させた奴は。
「はい、上限に達してますよ。 5ステータスだけですけどね。 気づいたときにはビックリしましたよ」
「……」
「それはそうと、このスキルオーブ使います?」
「わ、私は困るわ。 オーブはともかくスキルオーブは駄目。 それは普通流通してないのよ。 私たちはレイナさん経由で特別に手に入れたのよ。 それもかなり頼み込んで」
僕は皆に順番に視線を移していくと皆が首を振った。
「でも、昨日マリは使ったじゃないか。 もう慣れてるだろ?」
「お前っ、俺は騙されて使っちまったんだよ。 お蔭で今日は荷物持ちだったんだぞ」
「ははは。 それは、ポーター役として当然だな。 でもさ~、一度あることは二度あるって言わない」
「言わないわ! それは二度あることは三度あ……」
僕のAGIはスキルの効果もあってダンジョン内では常人の50倍程度ある。 僕は本気の速度で、ゆっくりとマリにスキルオーブを握らせれた。 そしてそのまま彼の手を上から包み込むようにしてオーブを潰そうとして、思い直した。
いや、駄目だ。 流石に二度目の強制取得はヤバイ気がする。 いくらマリでも、いくら良かれと思ってやっても、了解なしじゃ不快に思われるだろう。
「あ!」
同時に僕は何かを思いついたように奇声をあげてみた。
「な、なんだよ。 ビックリするじゃないか」
「そうよ、ヨシ君。 また何やら不穏なことを閃いたの?」
「いえ、閃いたような気がしたけど勘違いでした」
よし、マリは僕の行動に気づいて無いようだ。 恐らくマリと僕のAGI差は10倍はあるはずだ。 僕が何をしようとしたかなんて気づかないでくれたに違いない。
よかった、危うく唯一の友達を無くすところだったかもしれない。 これからは思いつきで動くのはできるだけ控えるようにしよう。
「それでスキルオーブはどうすんだ? 俺は使わないぞ」
「”二度あることは三度ある”は正しいけど”一度あることは二度ある”は間違いだよね」
「ヨシ君、なに意味不明なことを言っているの? スキルオーブはヨシ君が使ってね。 そんな貴重なものを私たちが使ったら本気で両親に怒られてしまうからね」
「……」
「う~ん、でも変だな。 なぜミレイさん達はそんな貴重なスキルを既に取得しているのかな? なんか言っていることが矛盾しているように思えるんだけど」
「……」
「それは、…………だからよ」
「えっと聞こえませんが?」
「それはカッコよかったからよ。 スキルを取得したのは中学生の頃なのよ。 あの時はどうしてもスキルがほしかったのよ。 若気の至りね」
「あ、ああ。 つまり中学二年生位で罹る病ですね。 ミレイさんのそれはわかります。 でもご両親は随分と甘いですよね、そんな貴重な物を子供に与えるなんて」
「え、ええそうね。 あの時は三人で大騒ぎして、……子供だったのよ。 今では反省しているし、義務感も使命感もあるわ」
「義務感?」
「スキルを取得した者の義務よ。 世のため人の世のためにダンジョンの攻略に協力するのよ」
「……」
「ええと、まだ病は治ってないですよね?」
「……」
「ええっ? ま、まさかレイナさんまで?」
「え、ええ。 義務感が有るのはその通りです。 そしてそのために冒険者として活動をしたいのです。 そしたら両親達からストップがかかって、期限内に初心者ダンジョン攻略することが条件になったんです」
「あれっ? それはゲーム絡みかと思っていたんだけど……」
「ええ、そうです。 それもそうだし、これもそうなの」
「つまり、嘘は言ってないけど、全部は教えてくれてなかったってことか」
「そうなのよ。 ごめんなさいね。 恥ずかしくって言えなかったのよ」
「あ~なるほど」
「……でも、レベルが無い状態でスキルを得ても無意味なのに、何故中学生でそんな?」
「それは、……中学のダンジョン見学の時に偶然レベルを取得してしまって、……それで欲しくなったのよ。 もしかしたら私たちはそういう運命なのかと思って……」
「まさか今でも?」
「恥ずかしいけれど否定できないわ。 そして最近は、やはりそういう運命だったのかと思い始めているの。 ヨシ君、君が私達にそう思わせてしまったのよ」
運命とか言われると恥ずかしいというか、責任重大でちょっと困惑してしまうが、一応彼女達の事情は理解できたような気がした。 どうやら彼女達も僕と少し似た考えを持っているんじゃないかと思う。 でもそれならば強くなることには貪欲になるべきじゃないかな。
しかし彼女達との付き合いは未だ浅いからマリのように強引にスキルを取得させるのは不味いだろう。 まあそれは時間を掛けて説得してみることにしよう。
僕は仲間と一緒に現実のダンジョンを攻略したいと思う。 昨日のゲームの、あの充実感を現実でも味わいたい。 そのためには先ずパーティの強化が必要なのだ。
マリは、……まあお前は完全に僕らに巻き込まれた形だな。 それもまた運命なのかもしれない。