61.5 秘密会議(女子視点)
私達は、ヨシ君とのゲームを終えてから、ログアウトせずにクランハウスの私の個人部屋に集まっていた。
「どう? ヨシ君って異常に強いのがわかったでしょ?」
「そうですね、私が知る限りではアイツに次いで最強だと思うわね」
「レイナ、アイツって、あの最悪な?」
「そうです。 アイツです」
「なるほどね。 それでカナ、ヨシ君のアバターが強いのは良く分かったけど、何でそれが問題だと思ったの?」
「ええとね、ヨシ君ってリアルで<急所突き>を持っているのよね。 そして何か必死で誤魔化しているようだったけど、ゲームでもその能力が使えるようなのよ」
「どういう事?」
「ほら、今日のあの攻撃、連携とかなんとか言っていたけれど、どう考えても嘘がみえみえじゃない」
「まあ、カナもそういうのが分かるようになったのね。 これは進歩だわ」
「れ、レイナそれは無いんじゃないの? 私だってかなりのもんよ」
「……」
「つまりカナの言いたいのは、ヨシ君はゲームでも<急所突き>が使えて、それを何とか隠そうとしているってこと?」
「そういうことよ」
「それってまさか?」
「そのまさかが問題ってことよ」
「イヤイヤ、ヨシ君はあの通り、お人良しなところが隠しきれてないし、お金に不自由している気配があるのに、オーブを私達に分け与えたり強欲どころかその反対じゃない。 とてもアイツと同じ人物とか思えないしあり得ないわ」
「そうなのよね。 そこのところが不思議なんだけど」
「ミレイ、カナ。 これは話して良い事かわからないけれど、絶対に口外しないと約束してくれるならば秘密情報を教えてあげるわ」
「レイナ、何それ。 興味ある~」
「レイナ、駄目よ。 カナはおしゃべりで迂闊なところがあるから秘密を漏らすのは危ないわ」
「ミレイ、ひど~い。 私だって大事なことは必死に守ることはできるのよ。 ミレイの秘密だって守っているでしょ?」
「あぅ。 それは確かにそうだけど、それとこれとは……」
「何? ちがうとでも?」
「い、いや。 カナは本気になれば秘密を守れると思うわ」
「……」
「わかったわ。 話すわね。 絶対に口外しないでくださいね。 口外したら、ミサカ姉様に怒られますからね」
「ええっ? ミサカ姉様がらみなの? それは聞かない方がいいような気がしてきたかも」
「いえ、ミサカ姉様が如何とかじゃないの。 アイツが実際に如何なのかってことなのよ」
「レイナ、どういうこと」
「以前私達のクランがどうしても行き詰ってアイツに手助けを依頼したことが有ったわよね」
「ええ。 あれでクラン資金の大部分と宝剣を取られたって話ね。 確かに見事な腕前だったけど、それが何?」
「実は違うらしいのよ」
「ええっ? だって私だってあの討伐には参加したのよ? アイツが居たからあの討伐が成功したのは間違いないわ」
「いえ、そうじゃないの。 クラン資金と宝剣の話よ。 実はクラン資金は少ししか受け取らなかったのよアイツは」
「そんなバカな。 クランが法外な負担をしたっていうのは公然の事実よ。 誰だって知っていることだし、他のクランでも同様なはずよ?」
「ええ、表向きはね。 あくまでも表向きはそういう事になっているわ」
「なぜそんな。あり得ない」
「どうもあの要求金額って、”お断り金額”だったらしいわ」
「なに? つまり、法外な金額を要求して、依頼を断ろうとしたってこと?」
「そういう事みたい」
「なぜそこまでして? あっ! まさか依頼が殺到してってこと?」
「そうなのよ。 どうもそういう事だったらしいわ。 それでもその法外な金額を払う意思を示したクランには加勢することにしてたらしいのよ。 それも一回限りの限定でね。 次からは本当に法外な金額を取り立てるってことらしいわ」
「そんな随分お人好しな。 えええっ? まさかそんな」
「そうよね。 ヨシ君と余りにも共通点が多いわよね。 それに最近アイツはログインしてないって噂だし、マリちゃんの話だと、ヨシ君のアバターと行動始めたのはそんな昔のことじゃないらしいのよ。 さらに言うとヨシ君のフレってマリちゃんだけの可能性が高いらしいのよ」
「うぁっ。 それってビンゴじゃん。 どうするの。 これってどうする?」
「カナ、落ち着いて。 もしヨシ君がアイツだったとして、それが何? リアルとゲームとは違うだろうし、少なくもリアルでは無害だし善良すぎて危ういぐらいだわ」
「ミレイその通りよ。 これもミサカ姉様から聞いた話ですけどね。 アイツは随分多くの女性アバターに粘着されて、有ることない事めちゃめちゃにされたようよ。 それに極めつけはリアルの家まで特定されてネットで晒されたらしいわ」
「うげっ、実は悲惨な奴だったんだ」
「それでね、私は思うの。 このままでいいのかしらってね」
「ん?」
「このままヨシ君を放置すると、リアルでも破滅が待っている気がするのよ」
「それは流石に、……あり得るところが怖いところね」
「それでね。 提案なんだけれど」
「そうね、レイナ。 私も同意見よ。 ヨシ君は私達で守るべきだわ」
「えっと。 守るってそんな。 私達より年上だし、男だしそんなの許容してくれるとは思えない。 そんなの傲慢なことだわ」
「もちろん私達が守るってのは秘密よ。 それどころか、それを悟らせてもいけないわ。 今までは怖いから冷たく接していたけれど、 今後も雑に扱うように見せることが必要だと思うの。 そうすればいい関係を保ちながら彼を守ることができると思うの」
「でも、ミレイ。 私達に守ることなんてできると思う?」
「それは、必死になればできると思う。 親のコネだって、疾風の白狼の人脈だってなり振りかまわず全力で使えばいいのよ。 特にミサカ姉様なんか絶対に頼りになると思うわ」
「ええっ? まさかミサカ姉様にまで頼ることを考えてるの? そ、それは。 まあそこまでの覚悟があるなら確かに守れるかもね」
「この件については、まだハッキリとは決めないでおきましょう。 ですが、この方針を前提にして行動するのだけは間違ってないと思うの。 少なくともヨシ君を私達のパーティ以外と関わらせないようにコントロールした方が良いと思うわ」
「ええそうね。 それにヨシ君と行動をともにすれば、私達の念願も叶うかもしれないしね」
「そうね。 そうしましょう。 で、ヨシ君には悪いけれど、あまり慣れ慣れしくしないようにしましょうね。 ミレイ、特に貴方は気を付けた方がよいと思いますよ?」
「えっ、えっ? 何のことかしら?」
「ふぅ、とにかく、接し方は、今まで通り、害がない範囲で雑に扱ったほうが良いわね。 みんなよろしいわね?」
「ええ」
「わかったわ」
「あ、そろそろお昼ね。 ログアウトしてご飯にしましょう」
そして私達はログアウトして、昼食をヨシ君たちと食べたのだった。