61. ゲームと現実
翌日ホテルの中で僕は目が覚めた。
昨日のパーティプレイは最高だったな~。 久々に清々しい気分で朝を迎えることができたよ。 斬撃で丁度いいぐらいにダメージを出すことが出来て仲間と一体になれたのが良かったのかもな。 本気で突き攻撃を使っちゃったら、あの最強のヤバイ奴と同じって認定されちゃったかもだから危なかったけど。
それにしても、このままだと現実でも僕は最強になってしまいそうな気がするよな。 これじゃ憎悪を受けて孤独になった前のゲームアカウントの僕と同じ道を辿ってしまいそうになってるじゃないか。 今の信頼できそうな仲間をパワーレベリングをしてでも僕と一緒に戦えるだけ強くなってもらう必要があるな。 でも焦っちゃだめだ、ゆっくりと、ゆっくりと進めるんだ。
僕はホテルの朝食を取った。 電子化メニューを見ると価格が書いてないので、これはヤバイ奴なんじゃと思ったが、空腹にまけて注文してしまった。 もし高額だったらパーティ資金から融資してもらえば良いだけだ。
シャワーを浴びて携帯端末をチェックすると、マリからメッセージが入っていた。
短文で一言、”アイツ等に付き添って買い物に行くから例の件は午後からでお願い” とのことだった。
う~んこれは、マリの奴は早速ポーター役として狩り出されたということだな。 大方設置型トイレとかの購入に付き合わされたんじゃないかと思う。 あのような可愛い女子達に囲まれるだけならいいのだけれど、現実はコンビニ君扱いだろう。 まあ気の毒なことだ。
さて暇になってしまった、どうしよう。
こういうときにはとりあえずサロナーズオンラインだ。 しかしホテルでVRゴーグルとかをレンタルするのは味気ないから、昨日の2D版VRでVIP版でもやってみよう。
僕はホテルを出て、昨日のビルの2D版VRルームへ入った。 2D版VRルームは、いつでも利用できる契約になっているはずなので利用しないと損なのだ。 貧乏人根性丸出しと言われても否定できないのだ。
ログインすると、ニュース欄が表示された。 いつもなら無視なのだが昨日の余韻が残っている僕には余裕があった。
ヘッドラインを見ていき、ダンジョン関係の記事に目を向けた。 内容は、ダンジョンの攻略に失敗し犠牲者となった冒険者数とか、放置ダンジョンの中で魔物が多量発生して侵入禁止措置がとられたとか、めずらしい鉱物が発見されたとかいろいろだった。
その中でも僕が興味を持ったのは、大規模なダンジョン探索についてだ。 それは国のダンジョン攻略隊とトップ冒険者が合同で、国内の最大級ダンジョンである0023ダンジョン――通称阿修羅上級ダンジョンを攻略予定という話だった。
総勢1000名近くがダンジョンに潜り、危険な魔物を間引くというのだ。 強い魔物でダンジョンが溢れてしまうと、それだけで魔物を倒しずらくなってしまい、エネルギー石などの資源確保に支障をきたすからだそうだ。 こういう討伐はしばしば行われるようだが、今回の規模は今までで最大とのことだった。 まあ、今の僕には関係のない話だ。
ニュースを見終わった後で気づいたのだが、視界の端にピコピコと注目項目が表示されていた。 手の甲のボタンを操作して選択する。
「チュートリアルを開始しますか?」
いきなり問われたので、即座に保留にした。 何のチュートリアルだか知らないが、当分チュートリアルはパスだ。
落ち着くために、自宅ハウスで暫く音楽を鑑賞し、それも飽きたのでクランハウスへ飛んだ。
面白そうな何かがないかを物色してやろう。 映画とかなら何かパッケージが置いてあるかもしれない。
そう思ってハウスを物色していると誰かが転移してきた。 レイナさんだ。
「ヨシ君、何やってるの?」
「ええと、色々と物色を」
「……」
レイナさんの視線に冷たさを感じた。
まずい! これは誤解を与えてしまったかもしれない。
「あ! 違います、違います。 そうじゃないんです。 暇だから映画とか見たいなと思ってパッケージソフトを探してたんです」
「ふぅ~、そうだったのね。 私はまた……。 ええとパッケージソフトとかはないわよ。 QAQオンデマンドTVで全てカバーしてるのよ」
そうだったのか。 QAQを契約してるのか。 新作から旧作まで全てカバーで見放題ってやつだ。 それは維持するのにかなりのゲームマネーが必要なのだが彼女達にとっては問題ないのだろう。 なにせ彼女等は、あの”疾風の白狼”のサブアカなんだから。
「でも映画を見るのはちょっと待って欲しいの。 ミレイたちが帰って来たみたいなのよ」
「そうですか、でもダンジョンは午後からの予定ですよね?」
「その予定でしたけどね、私たちも時間が空いてしまったのよ。 それでね、もしよかったらゲームでパーティプレイを一緒にやってみない?」
おお~。 僕は初めてパーティに誘われてしまった。 これは嬉しいかもしれない。 う~ん、どうしよう。
「昨日カナから聞いたんですけど、ヨシ君は戦士で覚醒したんだって? あ、これはゲームの話ね。 そしてレベルが100になったんですってね」
「ええ、昨日は良いゲームでした」
「それでね、私とミレイも、それがどうなのかを見てみたいのよ。 どう?」
「は、はい、喜んで」
やはり断るなんてトンでもない。 こんな良い話に乗らないなんて考えられない。
そして暫くしてマリ達が転移してきた。
僕はジョブを一般市民から戦士レベル100へと変更し、装備もLv100用へと一新した。 本当はアカウント共通のストレージにしまってあるボスドロップ品の剣とかを使いたかったのだが、いろいろと問い詰められるのが面倒なのでプレイヤーの製作品を装備した。
「お、ヨシ。 装備一新したのか。 製作品で固めるなんて金持ちだったんだな」
「ああ、金策は得意なんだよ」
「そうか、俺にもいろいろと教えてくれ」
「まさか、マリはゲームでも貧乏なのか?」
「クッ、まあ、そうなんだ。 いつか一発ドカンと当ててやりてーよ」
「だからマリは金策がヘタなんだよ。 金策は、努力と根性と忍耐だ」
「ヨシ君。 それは違うわ。 金策は、情報と人脈、そして財力よ」
「イヤイヤ、ミレイさん。 それは庶民の発想じゃないです。 それにそれってリアルの発想なんじゃないの?」
「ゲームでも同じなのよ? その辺がわからないならヨシ君もまだまだ勉強が必要ね」
そうか、もしかしたらそうなのかもしれない。 でも財力はともかく僕に人脈とかは無理なんだよな。 まあリアルでは彼女達が頼りになりそうなんだが。
「さて、準備が整ったようだから申請するわよ」
またもや6人でのインスタンスバトルだ。 僕やマリ、カナさんは前と同じジョブ、ミレイさんは白魔導士、レイナさんは赤魔導士だ。 盾役は1名補充することになる。
そして戦闘が始まった。 最初は様子見から入り、直ぐに全開での戦闘になった。
ミレイさん達の動きは非常に洗練されていて流石は”疾風の白狼”と言ったところだ。 マリもかなり上手だし、僕は覚醒戦士(笑)なので、凄い勢いで攻略が進み、1時間未満で終わってしまった。 そしてこのサーバの新記録を大幅に更新しまったのだった。
盾役さんも上手な人だったのだが、こんなのは初めてだと非常に感激していた。
やはり仲間とのプレイは最高だ。 リアルパーティでもこうであってほしい。 僕は改めてそう思ったのだった。