55. お昼
僕らはオーブ取得ツアーの帰り車の中だ。 ふと携帯端末で時刻を見るとお昼を回っていた。 山の中を歩き、プライベートダンジョンも少しだけ探索したから当たり前だ。
もうお昼か~。 どうりでお腹が減ったわけだよな。
さてご飯を食べようかな。 皆お弁当は持ってきてるよね?
皆はお昼に気づいてないようだ。 食欲がないのだろうか。
今回はいろいろと僕の秘密を暴露したからショックを与えた過ぎたのかもしれない。
でも僕は食欲があるので、お弁当を食べよう。
そう思って、アイテムボックスのリストを見た。
”お弁当”がリストに載っている、そしてその隣に”忘れ物”がある。
ええっ! お弁当の隣に、あのむき出しの”忘れ物”が入っちゃったの?
これって大丈夫か? いや、あの場面では”忘れ物”を袋に入れる暇などなかった。
これは仕方がないことなのだ。 でも……。
ああそうだ。 ”忘れ物”もダンジョンの中では殺菌されているはずだ。
それに干からびている。 ダイジョブだ、イケる。
そう思ってアイテムボックスを開き選択した。
出そうとして気が付いた。
あ! 間違えた。 ヤバイ、ヤバイ。
間違えてお弁当じゃなくて”忘れ物”を出してしまうところだった。
改めてお弁当を選択してアイテムボックスから出した。
なんか気になったので、反射的に真空パックされているお弁当の臭いを嗅いでみた。
ダイジョブだ。 これならイケる。
「ヨシ君。 車の中でお弁当を出したりして、……まさか食べようとしてる? それに真空パックの上から臭いを嗅いでも臭いなんてしないわよ」
「えっ? ミレイさん、もうお昼過ぎたし、お腹が減ったから食べる気ですけど、なにか?」
臭いの件は無視だ。 答える必要なんてない。
「あ、ああ。 そういえばこんな時間か。 どうだろう吉田君、泊里君。 お昼を一緒にどうかな? 今日は大変有益な情報を貰ったから私が御馳走するよ」
カナさん、ミレイさんの顔が急に明るくなった。
えっと。 富裕層の彼女達が喜ぶって、ご飯を食べるにしても怖くなるんですけど。
「どうだい?」
神降さんが僕の了解を求めている。 彼女たちの反応を見たら断れるわけがない。
「はい。 喜んで」
AI自動車は走る。 高速道路へ入り、やがて高速道路のドライブインに停車した。
ん? ここって特別な場所じゃないような気がするんですけど?
そして僕らはドライブインの端の方にある小さな建物へと入って行った。 どうやら会員制の隠された店らしい。
そこは、天然物の海産物を食べさせてもらえるところだった。 だがハッキリ言って、我々庶民には市販の養殖物や似非海産物とさして変わらないように思えた。 舌の肥えた富裕層にしか本物と偽物の違いはわからないのかもしれない。。
神降さんのねぎらいを受けながら、僕らは昼食をいただいた。
お腹が満たされて、ゆったりした雰囲気になったところで、神降さんから質問を受けた。
「ところで、吉田君。 君のスキルはあの場所でしか発動できないかい? あの場所が特別な場所とは思えないのだが……」
隠すつもりなど無い僕は正直に答えた。
「はい。 実績ある場所はあそこだけだったんですが、他の場所でもスキルを発動できるかもしれません」
「ちょっと、ヨシ君。 もしかして私たちってあんな山奥まで行く必要がなかったってこと?」
「カナさん、それは分からないです。 試してないので」
「……」
「もしかして、今この場所でもアレを出現させることができたりする?」
「それは無いと思いますよ。 現に僕の部屋では無理でしたから」
「ヨシ君。 どうやってあの場所を突き止めたのかしら?」
「はい、レイナさん。 ユニークスキル使用には、ある種の制限がかかる場合があることはご存じですよね? それで考えたんです。 ダンジョンって普通どこにあるのかを」
「つまり?」
「ええと、普通のダンジョンは山の急斜面とかに多く発生しているじゃないですか。 それで山の中でスキルを使える場所を探したという訳です。 いや~あそこを探し当てるまで苦労しましたよ」
「な、なるほど。 ヨシ君、良くやったわね。 でもダンジョンって山の中だけじゃないケースが結構あるのよ。 知ってた?」
「もちろん知ってますよ。 海の近くの断崖絶壁のところとかですよね」
「ふむ。 吉田君、実は一般には公開されていないことなんだがね。 コンクリート製の建物の中にダンジョンが発生したという事例もあるんだ。 ダンジョンはある一定の大きさの天然の鉱物やセラミックスに発生する異次元空間だと主張している研究者もいるのだよ。 まあ根拠としては弱いのだがね」
「セラミックスって?」
「例えば陶磁器やガラス、セメント、後はファインセラミックスという電子部品とかに使われるもので、岩石の仲間と言って良いね」
「えっと、じゃあガラスにも僕のスキルが使えるかもということですか?」
「その可能性はあるかもしれないね」
「……」
まさかガラスにもスキルが使えたのだろうか。 そうするとあんな山奥まで行った僕はアホとしか言いようがない。 でもプライベートダンジョンのゲートの大きさは直径約2メートルの円だ。 そんな大きなガラスを人知れず見つけるのは大変なんじゃなかろうか。
「どうだい? 実験してみる気はないかい? 私が所有している事務用オフィスの不動産で、内装がされていない――つまり、内部が丁度コンクリートむき出しのままの物件があるのだが」
僕は神降さんの提案に乗ってもよいと考えた。 もし建物の内部にプライベートダンジョンが作れるのなら大変便利だ。 先ほどのカナさんのような後味の悪いトラブルも回避できるはずなのだ。