52. ダンジョンへ入る
僕の片手が触れている岩肌にはダンジョンへのゲートが出現している。 その事実を見せたことにより、いよいよ僕の秘密スキル説明会のクライマックスに突入だ。
「こ、これは何?」
「ミレイさん。 見て分かりませんか? ダンジョンの入口、つまりゲートです」
「吉田君、これは君の言う<ダンジョン生成>のユニークスキルで作ったダンジョンなのかい?」
「はい、神降さん、その通りです」
「ヨシ、これがお前の秘密の全貌なのか?」
「マリ、そう思ってもらっていいよ」
皆は今見ているものがダンジョンの入口らしいことを頭の中では分かっているようだが、いまいち信じられてないように見受けらた。
「他に質問はありませんか? 無ければ中にご案内します」
そう言って僕は僕の作成したプライベートダンジョンの中へさっさと入って行ったのだった。
中に入って暫くまっていたがなかなか皆が入って来ない。 ダンジョンの中から外をみると何やら話あっているようだった。 そして一番先に中へ入って来たのはマリだった。
「お、おい。 ここは本当にダンジョンなのか? 彼女らは不信に思っているぞ? 変な空間へ連れ込まれるんじゃないかってな」
「あ~。 マリしか入って来ないのは、そういう事か~。 でもさ、ダンジョンだって異空間みたいなものだろ? う~ん、僕って信用ないのかな~。 まあいいや、とりあえずマリにだけ概要を説明しとく?」
「ちょっと待て。 その前に一度出てから戻ってくるわ。 俺が無事であることを伝えなきゃならん」
「なるほど、いってら~」
マリはダンジョンの外へと出て行った。 まあ、彼女たちの不安も理解できる。 よく考えれば僕だってどうにかして安全を確かめてから入るべきだったと思うくらいだ。 マリはそういう意味は勇敢であるし僕を信頼してくれているのだと思う。 マリは初めて戦う魔物に臆する傾向はあるものの、経験を積んで慣れてしまえば頼りなる奴になるはずだ。
今はお金が大事だが、僕はこのままダンジョン攻略を進めていきたいと思うようになってきている。 今後ダンジョンの攻略を進めて行けば、いずれサロナーズオンライン探索シミュレーションにも出てこないような本当に初見の魔物にも出会うかもしれない。 そういう時にマリを始めとした仲間と一緒なら頑張れる気がするのだ。 そのためには早く仲間を育てるしかない。 極めて自分勝手な考えだとは思うがマリにも彼女達にも僕と同じ考えになってほしいのだ。
「お待ちどおさま。 彼女等も入りたいと希望したんだがな、あの親父さんに止められてたわ。 まあ大事な娘とその親友だからな仕方ないところだな。 それでな、安全なダンジョンであることを理解してもらうために携帯端末で動画を取ってくるように言われたよ。 本当にダンジョンなのかをそれで判断したいんだそうだ」
中々慎重なことだ。 それでも考えて見れば12年前に突然ダンジョンが出現した時も当初は慎重に対応した。 安全が実証されていない未知のものに警戒を怠らないのは当然だと思える。
「分かった。 じゃ奥まで行こう。 この第1区画、……録画開始したか? じゃ改めて説明するね。 僕のスキルで作ったこのダンジョンはストレート型ダンジョンで……」
僕はダンジョンの説明を行った後で、マリを連れて第2区画へ進んで行った。 そこはスライムゾーンなので一応マリに討伐してもらい、エネルギー石をゲットしてから外へ出たのだった。
「あ、マリちゃん、ヨシ君。 帰って来たね。 マリちゃん、それでどうだった?」
「……カナさん。 リアルで”マリちゃん”呼ばわりはしてほしくないぜ。 ヨシはともかく、他の奴らにこれを聞かれたらヤバイわ」
「そうなの? ……悲しいけど、仕方ないわね。 マリち……マリ君。 それでどうだったの?」
カナさん、随分素直に引き下がったな。 マリには”ちゃん”付けが似合っていると思うのだが、まあパーティ内だけ”ちゃん”付けで、他のメンバーがいるときには君付けにするってことでいいか。 僕も彼女らに仲間として認められてきているってことだしな。
それにしても”マリちゃん”って彼女達に言われても違和感が感じられないのが怖いかもしれない。 僕もマリのことを”マリちゃん”って呼んでみるべきだろうか。 その方が親しみを感じてくれるだろうか。
「マリちゃん、教えてやってくれよ。 僕が作ったダンジョンは安全だってさ」
「お、おま。 お前まで”マリちゃん”っていうな! 怒るぞごらぁ」
マリに凄まれてしまった。 まあ、実物が実物だから全く迫力はないのだが、この感じだと僕が”マリちゃん”って呼ぶのは止めた方が良いみたいだ。 それにしてもなぜミレイさん達なら許されるのだろう。 その辺が釈然としない。
「まあまあ、マリちゃん、ヨシ君は悪気はないと思うわよ。 今までの態度を考えて見ればわかることよね。 それよりダンジョンはどうだったの?」
「ああ、本当にダンジョンだったぞ。 ほれ、こいつが動画で、倒したスライムのエネルギー石がこれだ」
どうやらマリは、神降さんがいても彼女たちになら”マリちゃん”って呼ばれることを許容したようだ。
そしてマリは動画を彼女等、特に神降さんによく見せて説明してくれた。
それに納得した彼女等はやっと僕のプライベートダンジョンに入ってきてくれたのだった。
ダンジョンに入ってからは改めて簡単な説明を行い、マリのアイテムボックスから自転車を出して全員でセーフティーゾーンの第1区画を走り抜けた。 ゲートをくぐり第2区画へ入ったが、スライムは見学だけに留めて先の区画へと進んでいくことにした。 道中に”噛み付き石”がいたら討伐するつもりだったのだが第2区画では見つからなかった。 そして第3区画に入ってほどなくして”噛み付き石”を見つけたのだった。
ストレートダンジョンの第3区画に不自然に置かれた石。 それが”噛み付き石”であることは誰が見ても分かると思う。 何しろノミネズミ以外に何もない広大な広間に石が落ちているのだから明らかに変なのだ。
「はい、”噛み付き石”を発見しました。 早速倒しますね」
そう言って、一突きで”噛み付き石”を討伐して見せた。 そいつは何時ものように、エネルギー石とオーブ4つをドロップし、パーティメンバーのレベルが上がったようだった。
「お、おお。 こんなに簡単に高品質のエネルギー石とオーブが手に入るのか……」
神降さんは驚いた後に、少しだけ目を輝かせたように見えた。
「じゃ、先に進みましょう。 この第3区画はノミネズミゾーンですが、次の区画はゴブリンゾーンです」
僕のプライベートダンジョン説明会は順調に進んでいったのだった。