51. 実演
ちょっとした混乱はあったが、僕たちを乗せた自動車は無事に目的の山の入口の道路までやって来た。 ここから先は徒歩になるのだが、自転車もあるので荷物が多い。 早速ポーター(笑)の出番だ。
「マリ、さっそく活躍の機会が来たぞ。 女子の荷物を預かってやれよ。 ここからは徒歩で山の中を進むから手荷物が多いと面倒で大変なんだ」
「アイテムボックスを使えってことか? だけど使い方がわからん」
「マリ、アイテムボックスは開けて閉めると回数カウンターを一つ消費するんだ。 だからアイテムボックスを開けている間に荷物をまとめて一回でアイテムボックス内に放り込まないと、すぐに制限回数に達して使えなくなっちゃんうんだ」
「お、おう」
最初は僕が持ち運ぶ予定だったのだが、いい機会なのでマリに練習させてみることにしたのだ。 何事も慣れは必要なのだ。
マリは女子達から依頼された自転車やバックパックなどを次々とアイテムボックスへ取り込んでいった。 武器やVRヘルメットなどの防具はもちろんお弁当や使途不明な物品まで全てだ。 マリのアイテムボックスの容量は非常に大きいのでAI自動車ごとでも収納可能だ。 ただしAI自動車は道路から離れるとAIが停止し自動車も動かなくなる。 そればかりでなく警報も発せられるので収納することは絶対にできない。
3人のJK達は手ぶらになった。 僕もマリも手ぶらだ。 しかしダンジョンへ潜ることが前提だったため頭以外はエムレザーやダンジョン素材を用いた簡易防具を装着している。 それに対して神降さんはビジネススーツ姿だ。 ダンジョンへ行くことを想定していたはずなのに奇妙だと思ったが、レイナさんとの会話を聞く限りではビジネススーツといってもエムレザー加工品のようで、下手な防具よりも強靭とのことだった。
山の中を進む準備が整ったので、僕の携帯端末に表示された位置を、皆にも知らせた上で移動を開始した。 手ぶらなので余裕の行軍である。 そして1時間ほど歩いて、例の岩に囲まれた場所に辿りついたのだった。
「ここが、目的地です。 まあここ以外の目的地も探せばあるんでしょうが、実績のある場所はここです」
「なんだそりゃ? 単に岩に囲まれただけの場所じゃねーか。 お前何か企んでやがるな?」
マリはそう言って僕に詰め寄るのだが、男にして可愛いタイブのお前が凄んでもちっとも迫力ないんだよ。 言葉使いだけじゃ伝わらないことがあるんだ、もっと自覚した方が良いと思うぞ?
「まさか、貴方達、私達をこんなところに連れ込んで何をする気だったの?」
か、カナさん。 それはあんまりな言い方だ。 まるで僕らが悪者みたいじゃないか。
それに車の中で山奥に行くって事前に教えてあげてたよね。
「まあ、カナさん落ち着いて。 僕が今から実演しますから見ていてください。 その前に少しご説明します」
「吉田君。 ここに来たのは必要だったからなのかい? まさかこの場所に例の”噛み付き石”が出没する可能性があるのかい?」
「いえ、そういうのとはちょっと違います。 では、うおっほん。 本日はお日柄も良くこの良き日を迎えられたことを大変喜ばしく思います。 えーと。 なんだったかな」
「ヨシ君、今更そういうボケはいいから、早くして!」
ミレイさん。 もう少し懐を大きく持とうよ。 心に余裕があると人生は楽なはずだよ? それに僕はボケてないんですけど(泣)。
「まぁその~。 これは僕のユニークスキルに関することになります。 僕のユニークスキル第二弾は、<ダンジョン生成>ってやつです。 これはですね……」
僕はうっかり岩に手を添えてしまっていた。 そのためプライベートダンジョンのゲートが現れる前のモヤモヤが出現し始めてしまっていた。 僕は素知らぬフリで慌てながらも手を岩から放した。
「ええとですね。 これはですね……」
「ちょっと~。 今の何? ヤバそうな何かが出現しそうな気がしたけど」
話の腰を折ってくれるなミレイさん。 ここへ来るまでに考えたおいたスピーチが台無しだ。 こうなったら仕方がない。 何時もの通り出たところ勝負で説明するしかない。
「待つことが苦手なミレイさんのために、実演から入ります。 ダンジョン生成!」
僕は恰好を付けて、岩に<ダンジョン生成>スキルを使ってみた。 少し恥ずかしいが声に出してスキルを使えば皆にも分かりやすいと思ったのだ。
例のモヤモヤが発生していく。 そしてそれが次第に形になり、ダンジョンの入口――ゲートへと変貌を遂げた。
彼女達とマリ、そして神降さんは、その様子を茫然とした顔で眺めていたのだった。