50. ポーター
4人は袋を受け取り、その中身を見て硬直した。
これは予想通りで嬉しい。
このように人が驚く場面を見るのは至福の時と言っていいだろう。
「あ、あ、あ、こ、これって……」
ああ楽しい、生きてて良かったと実感できる。
あの冷静なレイナさんまで混乱しているよ。
富裕層め、ざまぁみろってところだ。
「何だい、レイナその袋に何があったんだい?」
気になった神降さんがレイナさんの袋を覗いて、息を飲むのが感じられた。
「……」
「……」
皆は暫く沈黙したままだった。 そろそろ皆を現実に引き戻してもいい頃合いである。
「え~と。 早く使っちゃってください。 もうじき車が目的地に着いちゃいますよ?」
「こ、これは流石に予想外でした。 こんなに多くのオーブを一度に見たことはないわ。 本当にこれを私たちに使えというの?」
「そうですよ。 それが約束だったと思います。 対価を求めているわけじゃないですから。 それに今からのオーブ採取ツアーのためにも、そして安全のためにも、使ってもらわないと困ります」
「吉田君。 この袋にはいくつ入っているんだい?」
「84個ずつですね。 マリの袋には端数分だけ多く入れてあります」
「レイナ。 どうするの。 これ全部使うの? 時価にして一人あたり2億円近いわよ?」
耐えきれずにミレイさんが、レイナさんに判断を仰いだ。 困った時のレイナさんなのだろう。
「お父様。 どうしましょう」
レイナさんもお父さんに話を振った。 困った時の父なのだろう。
「う、うん。 そうだ、吉田君。 これは全部”噛みつき石”からのドロップ品なのかい?」
「はい。 オーブを2個しか落とさない奴からのドロップが殆どですが、間違いないです」
「ということは、エネルギー石もそれだけ持っているという事かい?」
「はい。 勿論です。 ここでお渡ししておきましょうか?」
「い、いやそれはさすがに止めておこう。 オーブとは金額の桁が違うかもだからね。 後で私の組織の担当にお願いするよ」
「わかりました、そうします。 でも僕だってそんな危険物は早めに処理したいです」
「ああわかった。 了解だ」
そう言って、神降さんは直ぐに携帯端末を操作した。
余裕の大人が少し慌てているのが微笑ましい。
「マリ、男なら使ってみろよ。 まさかミレイさん達に遅れをとってもいいのか?」
それではと、マリを挑発してみた。 彼の性質上、僕の期待に応えてくれるはずだ。
「お、おお。 使ってやるぜ。 こんなものに恐れてたまるか!」
僕に挑発されてやけになったマリが、オーブを使い始めた。 本当に期待通りの反応だ。
その袋の中にはスキルオーブも混ざっているんだが、気づかずに使ってしまうのではないだろうか。 ふっふっふ、お前も僕の側の人間になってしまえ。
マリが使い始めたのを確認して、ミレイさん達も覚悟を決めて使い始めた。 そして僕の指定した座標に車が到着する頃に全員がオーブを使い切ったのだった。
「ふぅ。 しんどかったぜ。 頭の中に未だメッセージがガンガン鳴り響いている気分だぜ」
「そうよね。 思ったより、しんどかったわね」
「それでマリ、ステータスを確かめて気づくことはない?」
僕はマリがどんなスキルを取得したのかに興味があった。 メッセージに気づかないのだから大したスキルではないのだろう。 まあ、それならそれで笑ってやろう。
「おお、すごくステータスが上がってる。 あれっ、スキルにアイテムボックス7ってのがあるぞ? これは一体……」
「えええっ?」
予想外のマリの一言に僕は不覚にも驚かされてしまった。 まさか僕のアイテムボックスより大きなのを一発で引き当てるとは思わなかったのだ。
おかしい、これはおかしいのだ。 アイテムボックスはそれ自体、スキルの中では希少な部類のはずである。 考えてみれば、僕はアイテムボックスのスキルを3回ゲットしている。 さらに今回はマリがゲットしたのである。 これは確率的に偏っているのではないだろうか。
「ねえ、マリちゃん。 さっき”アイテムボックス7”って聞こえたけど、聞き違いかしら」
「いやレイナ。”アイテムボックス7”で間違いねえ」
「ということは、容量が1000立方メートル(一辺が10mの立方体相当)の化け物級アイテムボックスの所持者になったってこと?」
「俺に聞かれてもわかんねーよ。 それよりも、おいヨシ、お前こりゃどういうわけだ?」
マリが僕を睨んで問詰めた。
「あ! すまん。 スキルオーブも一つ混ぜたのを言っておくの忘れてた~~」
「おまっ、わざとらしい言い訳はよせ! ……くっ、やっちまったことは仕方ね~か。 ……で、これはどうやって使うんだ?」
見た目可愛らしいマリは正真正銘男である。 そして切り替えが早く潔い。 言葉遣いはアレだが、こういうところは見習いたいところだ。
「面倒だから、自分で確かめてみてくれよ。 あ、一日あたりの使用回数制限があるから気を付けてね。 はっはっは、これでマリは、ダンジョンのポーター役として就職先には困らないな」
「お前、やったことに責任もってくれよな。 それに俺はポーターにはならねえぞ」
マリはそう言ったのだが、ポーター役の専業はともかく兼業は避けられないだろう。 もうお前はこちら側――バレれば妬まれる側の人間だ。
マリよ、悪いとは思うが、友として僕とその苦しみを分かち合ってくれ。