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5. 間違えた!

 周囲を見回すと、AさんとBさんが凄い剣戟(けんげき)を繰り広げているのが見えた。 正直言ってVRゲームの中の戦いかと思えるほど高い技術を有しているのが明らかだ。 それに比べるとE君とF君はへっぴり腰状態で低レベルの戦いだった。 僕の技術はE君やF君には負けないと思えたが、AさんやBさん達には遠く及ばないと思った。 

 それにしても講習段階ではE君とF君が普通なんじゃないだろうか。 とても本物に近い模造剣を初めて扱うにしてはAさん、BさんそしてCさんは異常にうますぎる。


 僕らの前に教官がやって来た。


「CさんD君。 どうやら模擬試合の決着がついて止めてしまったようだが、こんなに早く終わったんじゃ練習にならないんじゃないかな。 HPがゼロになってもリセットすればやり直せるから、もう一度対戦してみてください」



 そんな教官のアドバイスに対してCさんは不満を隠そうともしない。


「ええっ! 教官。 私、こんな奴じゃ相手になりません。 コイツをAさんかBさんと交換してもらえないでしょうか?」


「う~ん。 Cさんはこの手のシミュレーションに慣れているようだね。 もしかしてVIPサロナーズオンラインでもやっていたのかい?」



 教官のその発言にCさんは少し考えるように間をとってから答えた。


「……ええ、その通りです。 講習とかは省略したかったのだけど、そういう例外は許されないみたいなので、仕方なく講習を受けることにしたのです」


「そうですか。 ならば、D君を指導すると思って相手してやってくれないか? AさんやBさん相手では、日頃のゲームと同じになってしまって新鮮味に欠けるんじゃないかな?」


「……わかりました。一応手加減して指導してみます」



 VIPサロナーズオンラインというのは、今回のように全身にセンサ付きのスーツを着て遊ぶサロナーズオンラインの上級オプションだ。 専用のシミュレーションルームやAIロボットなどが必要なことから非常に高額なため、一部の富裕層だけにしか使われていないのが現状だ。 

 要するにAさん、Bさん、Cさんは富裕層で、普段から今回の講習と同じ環境でゲームをしていたということのようだ。 それにしてもVIPサロナーズオンラインか、……やはり全身タイツスーツを着てやるんだろうな。



 僕たちはそれぞれのHPを100%に戻してから再戦を始めることにした。


 ガン、ガン、キン、ガン、キン、キン



 僕へ指導したらどうかという教官の言葉を実践するかのように、最初のうちCさんが受けに徹する形で模擬戦がスタートした。 しかし途中から受けるだけの指導に我慢ができなくなったようで、Cさんも時々手を出してくるような展開へと変化した。 そして10分近くが経過した頃には前回と同じように一方的な戦いとなり、僕のHPはあえなくゼロになってしまった。


「貴方、しっかりしなさいよ。男子なんでしょ?」


「すみません。 ゲームと違って剣をうまく扱えないので戸惑っています。 もう少し練習すればマシになるかもしれない」


 これは正直な感想だった。 明日は筋肉痛になってしまうかもだが、少しずつ剣を取り回すコツがつかめてきているように思えたのだ。 要は力の入れどころを見極めることと、それにそぐわないゲーム特有の動きを排除することだ。


「わかったわ。 もう少しだけ練習に付き合うことにするわね。 でも上達しないようだったら次で終わりだからね。 流石に同じレベルのままだと嫌になるわ」



 そして僕らは再び模擬戦闘を開始した。

 少し慣れて来たのか、前回よりも上手く対応できるようになっているはずだ。 そして僕が上手くなったのを感じてか、Cさんはすぐに僕を指導する立場を捨ててしまった。 


 もう少し手加減を続けてくれてもいいんじゃないだろうか。 Cさんって負けず嫌い? それとも夢中になると我を忘れるタイプなんだろうか。 女王様で熱中すると我を忘れてしまうタイプか、……ちょっと怖いが悪くない。


 僕のHPは次第に減って行き、やがてゼロになる寸前のところまで追い詰められてしまった。 そして疲れのためかバランスを崩し左側に大きくよろけてしまった。


 マズイ! ここまでか!


 そう思ったが僕がよろけるのを予期できなかったCさんの攻撃はスカってしまい、Cさんも僕同様にバランスを失ってしまった。

 僕は追い詰められて焦っていたので、苦し紛れでCさんの胸に向かって剣の突きを放った。


 ヤバイ! 間違えた!


 ある理由から僕はゲーム内で剣の突きを使うことを封じていた。 もしかしたら現実でも同様な効果があるかもしれないと考えて、今回の講習では突きを封じて臨んでいたのだ。


 案の定、僕が突き出した剣を不運にもよけきれなかったCさんは、カウンター気味に僕の突きをまともに受けてしまった。


 ガッツン。


 僕の手に大きめの手応えが伝わってきた。

 そしてCさんを見ると、その一撃でHPがゼロになってしまっていたのが見て取れた。


 ゲームの中での僕の突き攻撃は、時々クリティカルを発生させることがある。 

 それに調子づいた僕はやりたい放題暴れまくり有名プレーヤーになることができた。 だがやがてそんな僕を利用しようとする者が現れ、(うと)ましく思う(やから)が僕をチート呼ばわりなどして嫌がらせをするようになり散々な目にあった。 最終的に耐えられなくなってしまった僕はサロナーズオンラインの運営と交渉して、特例的に別のアバターを使うことを許可されて現在はそちらでプレーしている。 アバターを変えても僕の突き攻撃の効果は変わらないようだったので、戦闘では意識して突きの使用を封じていたのである。


 なんか嫌な予感がする。 トラブルになる気がする。 どうしよう。

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