49. スキルの秘密
そう、僕が”噛みつき石”を倒せる理由は<急所突き>によるものだ。 これについてはその威力を知っている生き証人がいる。
「”噛みつき石”を倒せるかについては、僕の持つ第一のスキルの秘密に関わります。 ミレイさんが良くご存じなので聞いてください」
「ちょっと、ヨシ君。 私に振るのは間違いなんじゃないの? 私には倒せる理由なんてわからないわ」
「ほら僕の突き攻撃の威力を身をもって知っているじゃないですか。 その体験談をお話してもらえれば、納得していただけるかと思いますよ?」
「あ、ああ。 もしかして、あの”痛い”攻撃のこと?」
「はいそうです。 格上にも発生するクリティカルです」
「それなら、……確かに私は身をもって体験したわね。 あれは痛かったわ。 本当にクリティカルだったのね」
「はい、リアルでもクリティカルが発生する可能性も考えて、できるだけ突き攻撃は控えていたんですが、あの時はつい体が勝手に動いてしまったんです。 幸い本気の突きではなかったので、エムレザーを貫くまでは至らなかったようです」
「こ、怖っ。 私って実は危険な目に遭ったってこと?」
「本気の突きは封じていたんですが、ミレイさんのHP、あ、これはシミュレーション上のHPなんですが、そのHPがゼロになった時はヒヤリとしましたよ」
「でもその後で突きの実験したでしょ? あの時は痛くなかったじゃないの」
「めちゃくちゃ慎重に手加減しましたからね。 実は少し不安だったんですが、打ち込みたい場所を絶妙にはずして更に手加減したのですからね。 そこまでやればクリティカルを発動させなくて済んだんだと思いますよ。 それにクリティカルなんて僕が本気でも100%発動させるなんてことはできませんし」
「ふーん。 それで、何で貴方はクリティカルを発生させる技術があったの?」
「それは、……元々僕には、<急所突き>というユニークスキルが備わっていたからですよ」
「えっ? 元々? ユニークスキル? そんなことがあるの?」
「……」
「ユニークスキルとは文字通りこの世に存在する唯一のスキルと言われているね。 通常はユニークモンスター、つまりこの世で唯一の魔物を倒して得られる特殊なスキルオーブを使うことで取得できるということは君たちも噂では知っているだろう?」
神降さんがユニークスキルについて解説してくれた。 その位のことは彼女等も知っていてあたりまえだ。 だが問題は僕を信じてもらえるかどうかだ。
「それでも実際にユニークスキルを持っている冒険者となると私でも噂でしか聞いたことがないね。 ましてや生来から持っているなどとは聞いたことがないよ。 まあ生来かどうかは別にしても、実際にユニークスキル持ち冒険者に会えることができたのは光栄だと思うよ」
なるほど、僕のように最初からユニークスキルを持っている冒険者はいないかもしれないということか。 僕以外の冒険者が持っているユニークスキルがどんな能力なのかには興味があるが、今の僕たちには関わりのないことだ。
「ちょ、ちょっと待って。 ヨシ君がユニークスキル持ちだったというのは百歩ゆずって信じるとして、何故ヨシ君は講習前にそれを知っていたの? もしかして剣道とかやってて事前に知っていたの?」
拙い。 これには正直に答えたくない。 剣道とかそういう嘘ではすぐにバレてしまうだろう。 そしたら追及の手が激しくなってしまうかもしれない。 今は何とか煙に巻いてしまうことができないだろうか。 ……いや、ミレイさんとカナさんはともかく、レイナさんや、神降さんに僕の言い訳が通じるとは思えない。 さてどうしたものか……。
「あの、そんなことよりも、僕の用意したプレゼントのオーブを見て貰えませんか?」
そう言って、アイテムボックスから、オーブの入った袋を4つ取り出した。 つまり僕は話題を変える作戦を試みることにしたのだ。 皆に大きなショックを与えてこの場を切り抜けるつもりなのだ。
「……答えない気ね。 で、その袋がプレゼントなの? 結構大きいし、今どこから取り出したの?」
全員の目が僕に張り付いた。 僕はすかさず第一の爆弾を投下した。
「当然アイテムボックスから取り出したに決まってるじゃないですか。 そんな当たり前のことを聞かれてもどう答えて良いかわからないですよ」
「 「 「 アイテムボックス? 」 」 」
「えっ? ”アイテムボックス”を知らないですか? 結構有名なスキルだと思うんだけどな~。 もしかしてあまり知られていないスキルだったのかな~」
「ちょっ、待て。 そんなスキルは俺だって知ってるわ。 皆が憧れる代表的なスキルじゃねーか」
「そっか。 知ってたか~。 知られているスキルで良かった~」
「……」
「イヤイヤイヤ、知ってる知らないの話じゃないぞ? なんでお前がそんなスキルをもってるんだよ」
「マリ、それは愚問というものなんじゃないか? スキルオーブを使ったからに決まってるだろ?」
「ああ、そうだったな。 ……いや、俺が聞きたいのはだな……」
「分かってるよ。 何時どうやってスキルオーブを取ったのかだよな? それは僕のプレゼントを見れば大体推測できるんじゃないかな」
そう言って僕はオーブの入った袋を4人に手渡したのだ。