47. 安く買えてよかった
「それでは、資金関係はそういう事で、レイナのお父さん待ちね。 それでどの位の期間かかりそうなの?」
「そろそろ結果がわかるはずよ。 わかったら皆に連絡するわね。 それから売却金額だけど、任せてくれると助かるわ」
「まあ、お願いするね。 皆、異存があるなら言ってよね」
「異存はないようだから、次行きます。 法人についてですが、レイナちゃんお願い」
「ええ。 問題はプロを雇う資金だったけど、さっきのパーティ資金を使っていいなら問題ないわ。 サロナーズの中でも何とかなるみたいだしね。 オフィスもネットビジネス系の中の仮想店舗で良いみたい。 設定と認証操作だけで簡単だそうよ」
「なるほど。 なら資金使ってやっちゃって。 それでどの位つかうの?」
「ええと100万程度で良いそうよ。 余裕ね」
「了解」
「ちょっと待て。 100万円とかそんな簡単に決めていいのか?」
「私たちを何だと思ってるの? 問題ないわよ。 安心なさい」
「お、おう。 わかった。 なんか俺とヨシが20万で揉めてるのが滑稽に思えてしまったわ」
「じゃ、法人については以上ね。 じゃカナ、攻略について報告おねがい」
さすが、大手クランの幹部プレイヤーだ。 スムーズに議事が進んでいく。
僕とマリは感心して流されるままだ。
「はい。 今後のリアルダンジョンの攻略についてですが、まずは私たち3人で、探索シミュレーション系で疑似的な攻略を試みました。 その結果、少なくとも現状ではレベルが足りないことがわかりました」
「ええと、俺たちが攻略中の初心者ダンジョンの攻略可能レベルは40以上だっけか? 俺は確かにそのレベルにゃ届いてねえが、オーブでブーストしてりゃ届いてるんじゃないか?」
「そのレベルは多分、実レベルよ。 レベル相当じゃないと思うの。 実レベルだと経験値じゃなくて魔物討伐の経験そのものがあるから全く違うのよ。 それに実際に探索シミュレーション系で試すと、私たちでもレベル40でギリギリね。 安全マージンを考えると、人を増やすか、レベル換算で60以上はほしいと思うのよ」
「人を増やせる当てはあるのか?」
「無いわ」
「F-1ランクでレベル40相当の人なんて、そうそう見つからないわよ」
「でもレベル上げをするんだろ? 育てりゃいいんじゃ?」
「ごめん。 その時間はないのよ。 私たちが考えているのは、オーブによるブーストと、サロナーズオンラインの中の探索シミュレーションでの練習、そして実戦よ。 オーブブーストが必要という時点で人を増やすのは困難なの」
「でも、俺はオーブなんて買えねえぞ?」
「そこで、ヨシ君の”噛み付き石”よ。 そこがキーになると思うの」
「あの~、ちょっといいですか?」
「はい。 ヨシ君なんでしょう?」
「ちょっとだけオーブを取って来たので後で渡したいんですが。 どうでしょう」
「えっ? オーブを取って来たの? なら融資なんて必要無かったわね。 オーブを買い取るわ」
「ミレイ様、ありがとうございます。 今は2個だけ買い取ってください。 あとは提供します」
「後は提供するって、……なんか嫌な予感がする」
「そうね、ヨシ君だからね。 それでどの位提供するの?」
「それは、……まだわからないです。 時間があれば今日も取りに行くつもりなので」
「そう、……少なくとも数個は持っているってことね。 もし必要ならオーブ取得に協力するけど?」
さて、どうしよう。 協力してもらうということはプライベートダンジョンの存在を打ち明けるということだ。 いずれは話さなきゃならないが、今の段階では微妙じゃないだろうか。
「ええと、アシスト付の自転車が無いと無理です」
「ええっ? 自転車? オーブ取得に自転車が必要なの?」
「はい。 50km程の距離を数回往復する必要があるので」
「……なら必要ね。 自転車は私たちも買っておいた方がいいの?」
「AI付きじゃないのなら、自転車より自動車やバイクの方がいいけど、免許無いですよね?」
「無いわね。 つまり自転車を買っておけということ?」
「はい。 買えるならその方がいいです。 ダンジョン探索装備も必要です」
「わかったわ。 資金で買っておくわね」
「ええっ? 資金で買うんですか? 僕は自費だったんですけど……」
「ヨシ君。 気持ちはわかるけど、オーブのほうが桁違いに高いのよ? 必要だったらその時補填します」
「は、はい、その時はお願いします」
「じゃ、アシスト付でAI無しの自転車を購入っと。 あれっ? 即納みたいよ? 直ぐに行けるかも」
「ええっ? もう購入しちゃったんですか? 実物も見ないで?」
「一台30万程なんだから、見に行くだけ時間の無駄よ」
「あ、あの僕の自転車は16万だったんですけど……」
「そう、安く買えてよかったわね。 じゃ、何処に集合する? 問題なければ2986ダンジョン前に、……10時でどう?」
僕の抗議は軽く流されてしまった。 まあ、大したことではない。 それよりもオーブ取得に皆が協力することが自然と成立してしまった。 これはプライベートダンジョンのことを話さなくてはならなくなりそうだ。
「急過ぎるような気がするんだけど、それならお弁当とかも用意しておいてください。 僕一人なら午前中だけで帰って来れるけど、皆だと色々とあるので」
「わかったわ。 お弁当と装備、そして自転車を揃えて10時に2986ダンジョン前よろしくね」
「まだ、議題が残っているけど、みんな準備が必要と思うから、後はオーブ取得ツアーが終わってから再開しましょう。 今回のクランミーティングはこれで終わりにするけど、何か言っておきたいことはある?」
少しだけマリが居心地が悪そうにしていたのだが、これでミーティングは終了となった。 結局のところ、今日僕は秘密を暴露することになるのだ。