45. 大丈夫だ
翌朝朝食を済ませて、すぐにサロナーズオンラインへログインした。 本当はもう少しプライベートダンジョンでオーブ集めを楽しみたかったのだが、パーティプレイについての打ち合わせがあるのだ。
それにしても早めにログインしてしまったようだ。 ゲームでパーティやクエストをこなすにしても時間が微妙だ。 それで、僕のアイテムストレージの中の整理を実施することにした。 前のアカウントと共有ストレージ設定にしたのでアイテムの数は非常に増えてしまっており、訳がわからなくなっていたのだ。 整理を始めようとしたところで、唯一のフレであるマリがログインしてきた。
フレならばログインの有無は分かる。 フレ登録は相互の了解が必要だが、片方がそれを解くとフレ解除される仕組みになっている。 僕は前のアカウントの全フレを切っていた。 未ログイン者の自動的フレンド解除機能――つまり引退機能を発動させたので相手を気遣っているのだが、きっと不愉快に思っているフレも多いだろう。
要するに前のアカウントも含めて僕の現在のフレはマリだけなのだ。
「おはよう。 マリにしてはログイン遅かったな」
そういうと、途端に僕のハウスの表にマリが転移して来た。
「お、おう。 ヨシ、お前こそ何時もよりログインが早くねーか?」
「やることなくてさ。 昨日は大変だったけど」
「そういえばゲームに来なかったし、授業もサボってたな。 何やってったんだ? まさか”噛み付き石”関係じゃないだろうな」
「マリが鋭いなんて、ちょっと意外だけど、”噛み付き石”を倒してたのは間違いないさ」
「くっそ。 羨ましいぞ。 一匹倒せば1000万円超の見込みだからな」
「でも売れないし。 あ、そうだマリ。 100万でどうだ?」
「何のことだ。 金なら貸さねえぞ」
「いや違う。 ”噛み付き石”のエネルギー石を、1つ100万で買わない? 即金で」
「お、おま。 そんな暴利すぎるだろ」
「じゃ、90万。 これ以上はちょっと」
「違う、逆だ。 600~3000万で売れるはずの品を100万って、まるで俺が弱みに付け込んで暴利を貪る悪徳商人みたいじゃね~か。 せめて500万って言ってほしかったぜ」
「じゃ、500万で!」
「お前、俺がそんな金持っていると思うか?」
「じゃいくら持ってるんだ?」
「20万……」
「い、いやマリ。 それは余りにも悪辣というもんじゃないかな」
「馬鹿。 誤解するんじゃね~わ。 金ないから買えないって話だ。 俺を何だと思ってるんだ」
「暴利を貪る悪徳商人とか?」
マリは顔を引き攣らせた。
しまった、しくじってしまったか!
僕も狼狽えて顔を引き攣らせた。
「……」
「まあ、冗談はさておき、何でお前はそんなに即金が欲しいんだ?」
マリは人格者だ。 この重苦しい場を水に流してくれたのだ。
「そ、それは当然、未来の1000万より、今の100万だからさ。 金欠なんだよ。 買いたいものがあるんだ。 ご主人様に”おあずけ”されている犬の気分なんだ」
金欠なら低レベルの魔物素材を売ればそれなりの金額になりそうなのだが、その素材の出所を聞かれるのが怖い。 う~ん、ソロでもいいから2986ダンジョンに潜って取ってきたことにすべきだろうか。 けれど今はその余裕がないのが問題だ。
「まあ、分かるがよ。 それにしても俺に相談するなよ。 もっと金持ちに相談しろ」
「お前しか信用できないんだよ」
「俺しかって。 お前俺がそんな善人に見えるのか?」
「えっ? マリって悪人だったのか?」
「……」
「何か、俺疲れたわ」
「この前も、それ言われた気がするよ」
「ん? 誰に言われたんだ?」
「ミレイさんかな? カナさんだったかな?」
「なるほど。 それならいい。 大丈夫だ。 安心しろ」
「マリ、何言ってるんだか分からないぞ?」
「……ともかくだ。 金については、レイナさんあたりに相談してみよう。 担保で借りることができるとか。そんなようなことを言ってなかったか?」
「ああっ! 確かにそうだった。 忘れてた! 危うくマリに騙されるところだった」
「なんで俺が騙すんだよ!」
「だって20万でって言ったじゃないか」
「だからそれは、金がねえって話じゃないか。 まさかお前20万でも売るつもりだったのか」
「あ、ああ。 おかしいか?」
「……お前のそういうところな。 本当に、危なっかしいわ。 まあでも大丈夫だ」
「僕のことをディスってないか?」
「そんなわけねえぞ。 ちょっと人より変わっているだけだ。 俺は理解しているつもりだ」
「……そうなのか」
「おっと、ちょっと待て。 彼女らがログインしたみたいだ。 ……俺のハウスで待ち合わせだそうだ。 転移してくれ」
「わかった」
僕はハウス転移機能(フレ限定)を使ってマリのハウスへ転移したのだった。