38. ご飯は?
自転車を注文してから昼食を取ったが、その間に自転車が届いた。 AI搭載のドローンにより配送される商品だったので、思ったよりも早く手に入れることができたのだ。
そして僕は自転車を持って例の岩肌へとやって来た。 もう午後の3時を過ぎている。 だがしかし、準備は昨日から進めていたので、水、食料は万全だ。 嵩張るが寝袋まで準備してある。
「ダンジョン生成!」
僕は岩に手を置いて呪文(笑)を唱えた。
そして前のようにモヤモヤが現れて、それは半透明な膜、ゲートへと変わった。 中へ入ろうとしてハタと気づいた。
そこに置いてある手荷物に手が微妙に届かない!
そう、僕は荷物をそこに置いてからダンジョンを作ってしまったのだ。
ゲートから手を離せばダンジョンは崩壊してしまう。 荷物には手が少し届いている、だがあと少しだけ何かが足りなくて引き寄せられない。 そうして10分ぐらい足掻いたが、結局は諦めてしまった。 数十秒の手間を惜しんで10分も無駄にしてしまったのであった。
ため息をついた後、僕はゲートから手を放して荷物を手繰りよせた。 プライベートダンジョンは僕がゲートから手を離したことで崩壊が始まっている。 だがまだゲートはまだ消えていない。
お、これは未だ入れるか?
そして僕は荷物を持って中へ飛び込んだ。
すると奥の方から高速で迫ってくる迫力ある壁に押されて外へ放り出されてしまった。
痛った~。 あほか僕は!
全く、こんなことになるんだったら、ひと手間をケチらずに早めに<ダンジョン生成>を使えば良かった。
気を取り直して、プライベートダンジョンを作り直そうしてハタと気づいた。
荷物が無い!
あれっ! 確かダンジョン崩壊の時にダンジョンの中へ持ち込んでいた物は吐き出されずに消えると聞いたことがある。 そして僕の荷物は吐き出されていないかもしれない。
ま、まさかっ!
僕は周囲を見渡したのだが、水や食料を入れたバックパックは勿論、購入した自転車、そして武器まで消えている。
な、何ということだ! 僕の今までの努力は無に帰したのかっ!!
慌てて最後の希望であるアイテムボックスを開いてみる。 そこには例のエネルギー石や携帯端末などが無事収まっていた。 僕は少しだけ安心した。
そして僕は気が抜けたように岩にもたれかかり、小声でぼやいてしまった。
「はぁ~ ダンジョン生成も気を付けないとならないことが沢山あるんだな。 なんというかガッカリだよ」
すると僕のもたれかかっていた岩に、例のモヤモヤが発生し始めた。
な、なるほど。 その気が無くても岩に手をつけて”ダンジョン生成”って言葉に出すだけでプライベートダンジョンは発生するのか。 まあ良い勉強した。
僕はゲートができるまで待った後、中へ入って一旦休むことにしたのだった。
中へ入って気づいたことがある。
あれっ? こ、これは?
そう、そこには消滅したと思っていた、大事な荷物が残っていたのだ。
急いで、荷物を確かめる。
ご飯は?
だ、大丈夫だ。 腐ってないし劣化もしていない。 ダンジョンに入った時点で殺菌されているから腐らないのは普通なのだが、崩壊したダンジョンへ再度入るなんて人類史上初めてなはずだから気になってしまったのだ。
それで、武器は? 自転車は?
まあ、大丈夫だった。
はぁ~。 しんどい。 でも少し安堵したよ。
プライベートダンジョンでは、中に残してきた物品はそのまま保持されるのだ。 それは僕が退出してからも同じであることが判明したということだ。
思わぬアクシデントで、精神的に疲弊した僕なのだが、気を取り直して自転車に乗り、魔物のいないストレート型ダンジョンの第1区画から第2区画のスライムゾーンへと移動を開始した。
第2区画までの距離は4km程度だ。 歩いても良い距離なのだが、自転車に乗ればかなり快適だ。 スピードもずっと出るから時間もかからない。 バックパックの重みも気にならない。
そうして順調に第2区画前のゲートまで到着した。 一旦自転車から降りてゲートをくぐる。そしてスライムゾーンの第2区画を自転車で移動し始めた。
僕の探知にスライム達が引っかかるが相手するだけ無駄なので当然無視だ。
例の”噛みつき石”が無いかどうかは目視と探知で確認している。 しかし第2区画には”噛みつき石”は居なかったのだった。