36. オウム
「ドロップ品については、そんな感じで話を進めるとして、次は私たちのダンジョン攻略をどう進めるかについてですね」
レイナさんが議題を進行させた。 だがその前に言わなければならない。
「その前に物騒なオーブを使ってしまいませんか? 基本1個ずつで、マリだけ3個という感じで」
「あ、そうね。 さっさと使ってしまってスッキリいたしましょう」
僕や女子3人はすんなりとオーブを使った。 これで僕のステータスは以下のようになった。
LV 40
HP 179
MP 194
STR 228
VIT 309 + 140%
AGI 288 + 40%
DEX 205
INT 162
MND 167
スキル: 頑健7(ON)、俊敏2(ON)、アイテムボックス2 (7/10)
ユニークスキル: 急所突き、ダンジョン生成、ダンジョン内探知
使ったオーブの数を含めるとLV 61相当になる。
立派な中級冒険者としての実力があるはずだ。 ランクはF-1のままだけど。
マリがオーブ3個を目の前にして動揺している。
「なんだ、マリ。 オーブ使うのが怖いのか? どうせ売れないんだから早く使ってしまえよ」
「そ、そうは言ってもな。 ここに大金があるかと思うとな、恐ろしくてな」
「全くもう、早く使えよ。 早くしないと……、カナさんが泣くぞ?」
「ちょっと。 なんで私が関係あるの? 変なこと言わないで」
「だって、ぽっちゃり系の女子って、オーブが好きじゃないですか。 そんなのを使わないでいるなんて許せなくなりませんか?」
「な、な、意味が分からない。 どういう理屈なのよ。 貴方の女性観は独特すぎて理解不能よ。 それに、私のことを”ぽっちゃり”って言うな!」
「お、おかしいな。 だってお好み焼きTVに出演している、ぽっちゃり系タレントのハリコさんは、オーブが死ぬほど好きって言ってましたよ?」
「TVタレントと私は別なの! ぽっちゃり系女子が全て同じだと思わないでよ。 それに、その場合のオーブって、ダンジョン産のオーブと関わりがあるとは思えないわ」
「おかしいな。 オーブ、オーブ。 あ! そういえばオウムだったかもしれない。 間違えた!」
「……」
「む、ムカつく奴! で? マリちゃんはまだオーム使わないの?」
「カナ、落ち着いて! オームじゃなくてオウムよ。 あ、いえオーブよ!」
「あはははは。 ミレイさんも間違えている~。 僕が間違うのも当然ですね」
「……」
「ハイハイ。 そこまでよ。 マリちゃんも、オーブをちゃんと使ってくださいね。 使ってもらわないと私たちも困ってしまいます。 私たちを困らせないでね」
「お、おう。 わかった」
そう言ってマリは、震える手でオーブを3個使ったのだった。
本当に世話が焼ける奴だ。
「ふぅ~。 何か疲れたわね」
「オーブ使用回数は、マリがこれで3個。 僕らが21個ほどになりますね。 マリはまだまだだな」
「お前たちのほうが、異常だと思うぞ? 普通俺たちのような初心者がオーブを使うことはねーよ」
「マリもオーブ使ったんだから、普通じゃなくなったわけだね。 あはは、お前はもう異常者の仲間入りなのだ」
「……」
「さて、今後の私たちの活動方針なのですが。 ……ヨシさん。 あの”噛みつき石”はどうやって見つけたの? あれを沢山倒せれば、レベルアップも簡単だしオーブも手に入るのだから優先的に倒したいのだけど」
「いや。 僕にもアレが何処にいるかなんて分からないです」
「それにしても、マリちゃんの近くにある”噛みつき石”を、すんなり発見していたようだけど?」
「い、いやミレイさん。 僕は、アレがそう見えたんです。 雰囲気でわかりませんでしたか?」
僕がそれを発見できたのは、ユニークスキルの<ダンジョン内探知>のお蔭なんだけれども、今は隠しておきたい。
「怪しい。 本当にヨシって怪しいところが多いわ。 まあ、そういうことなら見た目で”噛みつき石”かどうか判別できる可能性があるということね。 今はそういう事にしてあげる」
その通りだ。 岩や石を見れば、そしてそれが魔物であれば、”噛みつき石”ということなのだ。 つまり見た目で判別できることと等しいといえるのだ。
「じゃ、今のダンジョンで、当分の間、”噛みつき石”を探しながら探索して行くということでいいわね? 最初はダンジョン攻略なんて無理難題かと思っていたけど、何とかステータスの問題も解決しそうだし、このまま一気に踏破したいものだわ」
「いや、レベルとかオーブ使用回数だけじゃ、踏破できるか分からんぞ。 ステータスの上がり方なんてランダムなんだからな。 運が悪けりゃレベル50相当でも、運の良いレベル20相当の奴にステータスで負けるんだぞ。 それにだ、戦闘は経験が物をいうんだぞ。 ヨシは例外だが、俺たちは恐怖で思うように動けない時があったじゃないか」
「確かにマリちゃんの言う通りだわ。 ちょっと楽観的になり過ぎて判断を誤るところでした。 ではレベル上げはもちろん、慎重に戦闘経験を積んでいくことにしましょう」
方針は決まった。 ”噛みつき石”を探しながら初級ダンジョン――2986ダンジョンのクリアを目指すということだ。 それはいいのだが、彼女らは明日、明後日と学校の関係で都合が悪いらしい。 ならば僕はプライベートダンジョンに籠るとしよう。