34. 弱点は算数
レイナさんの提案には全員が賛成したので、僕たちはダンジョンを出た。 そしてダンジョン管理センター近くの特別個室を借りてサロナーズオンラインのゲームへログインしたのだった。
VRゴーグルとVR手袋着用してのログインだ。 話し合いだけなら普通のリアル部屋を借りればいいのにと思うのだが、彼女たちはなぜだかオンラインゲーム内での打ち合わせにこだわった。
そして僕らは、レイナさんの個人ハウスに招かれた。 マリも女性のアバターになっているので、僕以外の4人は女性だ。 つまりハーレム状態なのだ。 これはイイ。 こういう機会を増やさなければならない。 僕は密にほくそ笑んだのだった。
ハウスのリビングで方針会議が始まった。 レイナさんのリビングは豪華だ。 流石はレイナ様だ。 ゲームマネーも不自由してないようだ。 まあ僕だってあちらのアカウントで、……考えないでおこう。
「さて、それでは、”噛みつき石”の件を踏まえて、今後の方針の話し合いを始めましょう。 パーティを組んだばかりで、ちょっと図々しいとは思うのですが、秘密を共有してしまった今となっては致し方ないものとして話を進めましょう」
レイナさんが会議を仕切ってくれるようだ。 彼女は信用できそうだ。 カナさんやミレイさんは、こういっちゃなんだが危なっかしい。
「異論はね~よ。 ヨシさえよかったらな。 まあ、ヨシのことだから一人じゃ何もできないだろう」
「お前、僕のことを侮っているようだな。 まあ、そのうち僕の偉大さに畏怖する時が来るさ」
「ははは、その時が楽しみだな!」
「はいはい。 おふざけはソコまでね。 それにしてもヨシ君って、何かと謎が多いよね」
「そうね、”噛みつき石”を倒せるなんて、そしてそれがオーブを4つもドロップするなんて。 こんなことが世間に知られたらパニックになるはずよ。 それでドロップ品はどうすればよいのかしら? オーブだけで8個もあるし」
「えっとですね。 僕としてはパーティなんだから均等分配がいいと思います。 要望としては、マリを少し優先的に強化したいところですが……」
「あんたはそれでいいの? この”噛みつき石”って、現状あんたしか倒せそうにないのよ? それにオーブって、一個220万ほどするのよ? 貧乏人には大金よ?」
「お、俺は、もちろん強化してくれるならありがたいんだが、オーブ使うなんで贅沢すぎると思うんだ。 8個だと総額……。??」
「……」
「マリ、お前の弱点は算数か!!」
「馬鹿言うんじゃね~。 ただ、混乱しているだけだ。ふざけろよ」
「落ち着いてください。 この件はヨシさんにかかっていると思うの。 ヨシさんの提案で全員が得するなら、それでいいと思います。 それにお金についてはドロップした2個のエネルギー石でも結構な金額が期待できるのではないかしら」
「じ、実際どの位の金額になるんだ? そんなもの売って大丈夫なのか?」
「金額については分かりませんけど、オーブを4つも落とす魔物なら平均的には1つ1000万円ぐらいにはなるかもしれませんね。 少なくとも500万ぐらいにはなるんじゃないでしょうか。 売り先の問題は、……そうね、お父さんに相談してみても良いかも。 私たちが直接ダンジョン管理センターに持ち込むと後で色々と問題になりそうよね」
「レイナの親父って、そんな頼りになるのか? どこのお偉いさんなんだよ」
「マリって、そんなキャラだったのね。 ゲームの中じゃ猫かぶって可愛いのに。 私のお父さんは、オークションの管理者もやっているのよ。 出所が分かっていれば、匿名での出品も大丈夫だと思うわよ」
「そ、そうか。それなら安心だな」
「レイナさん。 もしかして僕が個人で持っているエネルギー石も出品可能ですか? 8つあるんですけど」
「……」
「まさか、あんた。 それって全部”噛みつき石”のエネルギー石なの? 私たちに内緒でいつの間に」
「内緒って、このパーティに入る以前の話に決まっているじゃないですか。 そうでなければ、いきなりパーティ中に”噛みつき石”を見つけて攻撃などしないですよ」
「それはそうね。 でも8つって……。 あんたどんだけ変なの? まさかオーブも沢山持ってたりするの?」
「勿論オーブも持ってます、というより使っちゃいましたけどね。 オーブなんてまた手に入りそうだし。 オーブを売却するといろいろと疑われるし」
オーブについてはプライベートダンジョンでも手に入りそうだし、マリに使ってもらって鍛えようかと思っている。 経験値についても、今回のようにパーティプレイで皆を育てられるなら、それはそれで良いかと思う。 パーティボーナスが入るので止めを刺した者の経験値取得はソロの場合と大差ないのだから。