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27/202

27.  一夜を過ごす

 魔物のいないダンジョン? そんなダンジョンなんて存在する意味はない。 魔物を倒せないと素材が得られないからだ。 もしかして僕の<ダンジョン生成>スキルは役立たずなのか?


 ちょっと焦りながらダンジョンを奥へと進み、最初の半透明ゲートをくぐって、第二区画の通路を観察した。


 すると奥の方にかすかな物が見える。


 魔物か?


 僕は期待して駆け寄っていった。 それはスライムの群れだった。


 よ~し、スライムがいた。 良かった。 僕のスキルは役立たずではなかった。 

 一番最初に出会った魔物がスライムなので、初心者レベルのダンジョンなのかもしれない。

 討伐でエネルギー石などがドロップすれば役立つダンジョンとして確定できる。

 それでは試しに討伐してみるとしよう。


 そして気がついた。 武器や防具を持って来ていないことに。

 これは流石に失敗だった。 ダンジョンが生成できるはずなのだから魔物討伐も視野にいれておくべきだった。 これは武器を取りに帰るべきか? だけど手ぶらで帰るのは何かもったいないような気がしてきた。 今は夜だし、すぐに帰れないし。 

 

 僕のVITとSTRであれば、スライムなら素手で殴っても討伐することもできるかもしれない。


 試しに蹴ってみるか?


 いやしかし、あの講習で蹴とばしたスライムがどうなったかを思い出してみると、スライムを蹴とばすことはとても恐ろしい。 あれはシミュレーション上のバグなのだから現実にはあり得ないとはいえ、もし増殖したらどうする?


 僕はしばらくの間蹴るべきかどうかを悩んでしまった。 結局未知への興味という誘惑に逆らえず、とうとう一匹だけ蹴ってみることにしたのだった。


ぼふっ。


 恐る恐る蹴ってみたが、スライムは僕の蹴りでは潰れなかった。 そして壁に向かって弾んで飛んで行ってしまった。 ここまでは想定内だ。  

 壁に到達したスライムはそのまま弾んで戻って来た。 シミュレーションのように分裂して増殖しなかったのは幸いだ。 だが問題はそれからで、そのスライムが別のスライムに衝突して合体していったのだ。


 うん? シミュレーションと逆だな。 これなら安心か? もっと蹴ってみるか?

 いや、ここは我慢してちょっとだけ見守ろう。


 そう判断して暫く観察していると、スライムが合体を続けて次第に大きくなっていくのが分かってしまった。


 えっ? これってやっぱりヤバイ奴?  そういえばスライムの種類によっては巨大化して強くなる奴がいたはずだ。 これがそのケースなら武器を持たない僕には危険な相手となってしまう。


 よし逃げよう!  


 そう決断したと同時にスライムについては今後は武器でしか攻撃しないことに決めた。



 そして僕はダンジョンの入口付近に戻ってきていた。  外は暗いが一度外へ出て、プライベートダンジョンを消滅させてから、もう一度生成してみることにした。 


 ダンジョンを再度生成して、中へ入った。


 さて、あのスライムはどうなっただろう?

 

 僕は興味に駆られて第2区画のスライムゾーンまで行ってみた。

 そこで見たスライムは、……普通だった。


 よかった。 プライベートダンジョンは一旦出ることで状態をリセットできるようだ。 


 大体の状況は把握したので、今度は山の中での徹夜の準備だ。 そして僕は考えた。 外で野営するよりも、魔物の居ない第1区画の方が安全なんじゃないか?


 ダンジョンの中は明るい。 それはダンジョンの壁から弱い光が出ているからだ。

 普通ならばその光を目指して、虫とかが入ってきそうなのだが、ダンジョンへは何故だか人間しか入れない仕様となっている。 過去に無理やり猫を持ち込もうとした人もいたらしいが、猫は激しく抵抗し暴れた挙句、1分ほどで死んでしまったそうだ。 もちろん猫ばかりでなく、犬も、その他、虫や微生物でさえダンジョンの内部では生きていけなかった。 例外は人間の体内にいる微生物などで、それらは死なない。 このダンジョンの仕様は、人間がダンジョンの中でレベルアップできることとも関係していると考えられている。

 ちなみに外から持ち込んだ物は漏れなく殺菌されてしまうから腐ることはない。 そのことからダンジョン探索ではお弁当や生鮮食料を多量に持ち込んで長期間活動することが容易になっていた。


 僕は今ダンジョンの中の入口付近にいる。 ダンジョンの中にいれば、獣に襲われることもないし、虫に刺されることもないので安全だ。 お腹が空いたし喉も乾いているが、夜の山を歩くのは危ないので、結局僕はダンジョンの入口で横たわり寝ることにした。



 翌日ダンジョンの中で目が覚めた。 結局ダンジョンの中で安全に一夜を過ごすことができたのだ。 ダンジョンの外はすでに明るくなっていた。


 ダンジョンから外へ出て携帯端末に電源をいれると、いきなり着信を示す通知が数件表示された。 ダンジョンの入口などにある半透明なゲートは電波を通さないので、貧乏性の僕は携帯端末の電源を切っていたのだ。 


 着信チェックは後回しにすることにして携帯端末に地図を表示させて、現在位置をマークすると直ちに下山を開始した。 周囲は明るいので危険な所を避けるのは簡単で、1時間ほどで昨夜駐車した場所へと辿り着けた。 それからAI自動車に乗り込んでアパートに帰ると、すぐに食事をしてやっと落ち着けた。


 改めて携帯端末の着信を見ると、すべて泊里からの連絡だった。 その最新着信を開くと、今日の予定についての相談だった。 今日もダンジョンへ行きたいから返事を寄越せとの内容だった。

 

 普通ならあれだけ稼げたのだから喜んで誘いを受けていたところだ。 だが僕としては、あの<ダンジョン生成>で作ったダンジョン、すなわちプライベートダンジョンが気になって仕方がない。


 う~ん、どうしよう。


 僕は悩んだ挙句、バックレることにしてしまった。

 一応言い訳だけはしておこうとしてメールに返信した。


「昨日から体調が良くなくて休んでいます。 今日も一日休むけれど明後日ならダンジョンへ行けると思います」


 そんな内容を打ち込んでから、ダンジョンへ入るための準備を整えた。 装備と武器、バックパックには食料と水、そして携帯トイレなどなど。 念のために携帯端末に接続できるサロナーズオンラインのようのVRセットも持っていくことにした。


 僕は期待に胸をはずまながらAI自動車に乗って再び例の山の例の岩へと向かった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ダンジョンに連れ込んだ猫が死んだんですか。どのような死だったのでしょうか?
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