24. 武具店
「ぬ、盗みなんて、何て人聞きの悪いことを言うんだよ。 ミレイさん、偶々だよ。 その辺のオークを倒したら偶々ドロップしたんだよ。 今時オーブごときに盗みを働くなんてリスクが高すぎるよ」
「オークがドロップしたのというのは本当なのですか? 確かその確率は、……数千とか数万分の1ぐらいじゃなかったかしら? それはそれで奇蹟ですわね。 つい先ほどもその奇蹟が起こりましたけど……」
レイナさんまで僕を疑っているのか? まいったな、ますます窮地に追いやられている気がする。
「おい! ヨシ。 お前、いつダンジョンへ潜ったんだよ? 昨日の今日じゃ行く暇なんかなかったじゃねーか?」
「マ、マリ。 昨日は残業したんだよ。レンタル武器や防具の返却まで時間が残ってたから……。 それにちょっと戦闘的に消化不良だったんだよ」
「怪しい……。 どう見てもおかしくない? オーブが手に入ったら何故売らなかったの? 売っておけば大金が手に入ったのよ?」
「そ、それは。 ……こんな初心者がソロでオーブを手に入れてしまったら不自然だから、怪しまれるのを恐れてしまってその場の判断でつい使ってしまったんだ」
「怪しい……。 やはり嘘ね。 表情に出てるわよ貴方」
や、ヤバイ。 女の勘か! 表情の微妙な変化を読み取られたかっ。
「す、すみません。 ご指摘通り、オーブを使ったというのは嘘です。 ちょっと可愛い女子たちに囲まれてたので、いい恰好をしようかと……」
「ふん! まあ、そういう事ね。 それなら理解できるわ。 全くこれだから、もてない男は面倒なのよ」
「グッ。 カ、カナさん。 それはあんまりです」
本当にあんまり(泣)なのだが、僕のVITと防具の件については煙に巻けただろう。 それにしても、今回は痛い目にあったものだ。
「カナ、言い過ぎよ。 オーブについては、今後考えましょう。 私たちは定期的な収入があるから十分買えるけど、 貴方たちには厳しいのよね。 このパーティで万一オーブが出たら、貴方達に使わせてあげるわ。 弱いメンバーがパーティにいるアンバランスになってしまうから、私たちだって困るもの」
「いや、しかしだな、オーブって200万円を超えるんだぞ。 そんなもん簡単に使えねーって」
「僕も、今度オーブが出たらマリに使ってもらってもいいかなと思うよ。 マリは弱いしね」
「なんだとコラ! そんなこと言うならゲームで助けてやらねーぞ。 強さについては、お前だって同じ条件だろうが!」
「い、いや悪い悪い。 ほら、僕は多くの魔物に止めを刺しているからボーナスが入るのさ。 レベル上げ的には僕が有利だと思うのさ」
「なんか、ヨシが余裕ってのが気に食わねーが、わかった。 もしオーブが出たら、まず俺が使わせてもらうわ」
そして武具店のオジサンが帰って来た。
「ほれ、こんなんでどうだ? 防具は、防御値は+250程で低いが新品だぞ。 それから武器なんだがな、何というか突き専用というのがあったぞ。 正直使い物にならないと思ってたんだがな。 試しに使ってみるか? 防具は40万、武器は、……そうだな6万でいい。 ただ武器は全く切ることには向かないから、小剣をつけてやるよ。 小剣は12万だな」
そう言ってオジサンは僕に武器を見せてくれた。
何というかメイン武器は剣というよりは、短い槍といった感じで、剣先だけは鋭いものの、刃は全くついていなかった。 小剣は長さ40cm位のもので、形は普通の剣と変わらなかったが、普通の剣は刃渡り1m程あるのが普通なので、それと比べると随分短かった。
これらは武器はダンジョン産であることは間違いない。何故なら金属のような光沢があるにもかかわらず、まるでカーボン製の剣のように軽くゴムのように柔らかかかったからだ。
「武器なんですが、……こんなのが有ったんですね。 初めて見ました。 これってダンジョン産なんですよね?」
「ああ、そうだよ。 その突き専用のような武器は、何でもボスドロップ品なんだそうだ。 ただし使える人というか使いたい人が居なくてな。 流れ流れてここに辿り着いたってわけだ。 まあ趣味で収集するにしても、余り恰好が良い物でもないから人気が無くて余り物って訳さ。 さて、それでどうする?」
「う~ん。 確かに僕の戦い方に合っているような気がするんですが、何か不安です」
「ま~ その不安は分かるよ。 まあ先の尖った棍棒みたいなもんだと思っていれば、少なくとも初級レベルのダンジョンでなら十分役に立つと思うぞ」
「わかりました。武器はこれを貰います」
「まいど~。 もし合わなかったら持ち帰ってくれ。 半額で引き取るからな」
「はいそうします」
武器は決まった。 次は防具だ。
防具については選択肢が一つしかない。 それはまあ仕方がないところだろう。
「防具はこれでいいです。 サイズ合わせをお願いしたいのですが、これって調整機能付きなんですか?」
「ああ、新品だからな。 もちろん調整機能はついてるよ。 一度調整すると専用防具になってしまうがな」
「わかりました。 それでお願いします」
僕はその場で防具を調整してもらい、念願の自分の武器と防具を手に入れた。
女子3人組は、僕のことなんか放っておいて、店内の武具を見て何等かおしゃべりをしていたようだし、マリも何かを考えているようで、僕の武器や防具には興味を示さなかった。
二次会ともいえる武具店見学パーティもその場で解散となり、僕はすぐにアパートに帰宅したのだった。