23. どれだけセレブなんだよ
中古武具店までは、AI電気自動車をチャーターして向かうことにした。 普通のAI電気自動車は、チャーターしても公共交通機関なので料金はかからない。 もちろん贅を尽くした高級車などは料金がかかるのだが。
そしてマリの推薦する中古武具店へとやってきた。
パーティは一旦解散となったのだが、何故か女子3人組まで付いて来てしまった。
防具店の前で自動車を降りて、僕らは店の中へと入っていった。 店の中は雑多というよりは展示場という雰囲気で、高級品が多く展示されていて明らかに店主の趣味の店という感じだ。
実際にこのような個人が実店舗で商売をしている例は少なく、気軽に実物を見て触れることができるのは大変良い機会だ。 有名メーカー製の武器や防具などの量産品は、サロナーズオンラインの店舗で購入するのが普通である。 メーカー品のような規格品は、細部まで設計通りに3D映像化できるからだ。 そのような3D化されてオンライン店舗にある品は、周囲を気にせずにオンライン上で手に取ってじっくりと見ることができるだけでなく、弾力性とかも確かめられるし、リアルキャラに着せて動いてみることも可能だ。
ちなみにリアルキャラとは、自分の実際の姿を3D映像化したキャラで、これはアバターとは別に個人に1キャラだけ限定で所有が許されている。 いかなる理由でもリアルキャラの複数所持はネット規制法で認められていない。 そのリアルキャラは市役所などの公共機関で3D化サービスを受けることで登録可能だ。 尤も3D化にはピタっとした下着姿で全身スキャンを受ける必要があるので、リアルキャラを作らない人もいる。
もちろんアバターに着せる服装や装備もサロナーズオンライン上で販売されている。 サロナーズオンライン上で一つしかない高価商品から、量産品まで多様な品ぞろえがある。 服装や装備はリアルマネーが必要な場合や、ゲームマネーやゲーム内の報酬で手に入れる場合もある。 このような事情は2020年代のネットゲームと大差ないと言っていい。
僕が購入しようとしている中古防具や武具は、ダンジョン管理センターからのお下がりだったり、冒険者が直接店に依頼して売りに出しているもので、サロナーズオンライン上のネット販売と同時販売されているものだ。 中古品のネット販売品はリスクがあるので、一般的にはあまり売れ行きが良くないはずだ。 僕のような貧乏人はリアル店舗に足を運びアドバイスを受けながら選ぶのが無難だ。
僕はマリに促されるままに店の奥へと入って行き、武器を大事そうに磨いているオジサンに引き会わされた。
「叔父さん、中古武具を買いたいっていう冒険者仲間を連れて来たぞ」
「お、快(マリの名前)か、お前はまた随分お仲間を引き連れて来たな。 でも見たところ本当の客はそちらの冒険者だけなのか?」
「え? なんで分かるんですか?」
「そりゃまあ。 そちらのお嬢さん方は、どう見たって快の紹介で装備を買うような風情に見えないからな」
「そうですか。 それで僕の予算は50から60位なんですが、それで何とかなりますか?」
「ああ、中古品はピンキリだからな。 高いものなら500以上、安いものなら一式で10ぐらいからあるよ。 ただし、耐久性もピンキリでな、数回しか使えそうにない代物や、新品同様な物までいろいろだな。 それで、君はどんなのがほしいんだ?」
「えっと、防具は性能が低くてもいいから長く持つやつがほしいです。 武器は、う~ん。 切れ味とかよりも、耐久性が高いものが欲しいです。 僕は突きを多用する方なので」
「なるほど、どちらも耐久性重視ということだな。 ちょっと待ってな。 いくつか持って来るから」
そしてオジサンは、店の奥へと消えていった。
「ね~ヨシ。 貴方ってオーブも使ったことないでしょ? 防具ぐらいは少し無理してでも良い物を使った方がいいと思うの」
「ミレイさん。 僕はオーブを使ったことあるし、レベルもそこそこ上がってるから素の防御力は少し高めなんだ」
「 「 「 「 えええっ? 」 」 」 」
「ステータス見えるでしょ? 攻略にはVITの値が防具込みで400は欲しいのよ?」
「えっとね。 僕が使ったオーブはVITを上げるやつで上限に近い19%も上がったんだよ。 だから防具の性能は少な目で十分なのさ」
もちろんこれは嘘である。
「くっ、リアルな運で負けたのね。 私なんかオーブを20回程使ったってVITはまだ100よ。 酷いわよね」
「……20回って、どれだけセレブなんだよ。 どう見ても僕のほうが惨めだよね。 それにまさか、スキルも持ってたりして?」
「ええ、私たちはスキルを持っているわよ。 私は治療5ね。 レイもカナだって1つずつ持ってるのよ」
「ちょっと待て。 お前らオーブとかスキルとか、新人の冒険者にあるまじき話をしてないか? 俺なんかオーブなんて見たことすらねえぞ」
「そういえば、さらっと流してしまったけど、何で貴方がオーブを使うことができたの? まさか盗品……」
し、しまった。 オーブを使ったのを暴露したのは拙かった。 さてどうやって言い逃れしようか。