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22/202

22.  パーティプレイ

「ミレイさん、オークはもう怖くないですよね」


「ええ、私はお蔭様で慣れているから大丈夫よ」


「じゃ釣って来るから、オークの後を追いかけて一匹ずつ抜いて倒していってね」


「ヨシさん、釣るってまさかゲームのようなマネをするということなのですか?」


「え? そうですけど?」


「ちょっと~。 リアルでもそんな手が通用するの?」


「前回もそれで上手くいったんだよ。マリそうだよな?」


「ああ、それで上手くいったよ」


「ええ~? 信じられない。 正直怖いから止めてほしいかも」


「まあまあ、カナ、レイナ。 信じられないのも理解できるけど。 ヨシ君が敵意を確保してくれるから大丈夫なはずよ。 とりあえずやってみましょう。 駄目だったら逃げればいいだけよ」


 一応パーティ内の合意が取れたので、外から持ち込んだ石を投げてオークを釣り、僕がマラソンすることになった。  

 岩陰に隠れるようにしてオークの群れに慎重に近づき、一匹だけ群れから離れたところで石を投げてソイツの顔に当ててやった。 ソイツは瞬時に僕を見て襲って来た。 不味かったことにその様子を見ていたオークが2匹いた。

 

 3匹同時に釣れてしまった結果になったが、マリもいるし実習で慣れているミレイさんもいたため、焦ることなく僕がマラソンしている間に一匹ずつ抜いていき簡単に討伐できた。

 2回目からは見ているオークがいないことを確認して釣ったので、安定して1匹ずつ釣ることができた。 そうやって特にマラソンなども必要とせずに、アッという間に残る14匹を討伐し、僕らはそこにいるオークの群れを殲滅させてしまった。


「なんか、こう、張り合いがないっていうか、手応えがなかったわね」

「カナの言う通りですね。 ゲームとほぼ同じで思ったよりも恐ろしくなかったわ」


 レイナさんとカナさんは当初この戦法に消極的だったのに、最後にはずいぶん余裕ができていた。 このゾーンにはまだオークの群れが多数あるはずだが、狩り尽くすのはマナー的に良くないということで、オーク討伐はこれで止めにして、さらに奥を目指すことに決めた。


 情報によれば、次は虫ゾーンで、ヤスリカマキリ、スズメバッタ、ドクドク蟻などが群れで出現するようだ。


 僕を先頭に奥へと進んでいき、ヤスリカマキリの大群を見つけた。

 ヤスリカマキリは人間の身長と同程度の大きさの大カマキリで実物は思ったよりも迫力があった。 携帯端末に保存してあるデータベースを調べる限り、その攻撃力は僕らがレンタルしている防具でも結構ダメージを食らうぐらい高いとのことだ。 ただし目が良くないようで、眼前にいる対象だけに闇雲に鎌を振り回すだけの相手なので攻撃を避けるのは比較的容易とのことだ。


 ヤスリカマキリの群れは30匹程度。 流石にむやみに突っ込むのは危険なため、僕がまた釣りに出ることになった。


 ヤスリカマキリは目が悪いので、5m以内まで近づかなけば気づかれない。 逆に言うと5mまで近づかないと釣ることができないのだ。 僕はカマキリに近づいていき、5m以内へ躍り出てからカマキリを誘いだした。 いわゆる”絡まれ釣り”という釣り方を試したのだ。 そしてパーティメンバの所へ引っ張ろうと思ったが、5mより離れると追って来なくなるし、近づきすぎると攻撃を受けそうになるので思ったよりも苦労してしまった。


 やっとのことでパーティの近くへと引き込んだが、今度は誰も攻撃してくれなかった。 僕以外の全員が、カマキリの大きさに委縮(いしゅく)してしまっていたのだ。 仕方がないので、僕はマラソンを止めてソロで戦闘を開始した。


 ヤスリカマキリは僕へとにじり寄り、僕からみて左の鎌を振り下ろそうとするが、僕はさらに左側によけた。 そして丁度鎌を振り下ろし切ったタイミングで、ヤスリカマキリの懐へ入り、剣をそいつの首へ突き立てた。 

 これで首が半分切れた状態になったが、ヤスリカマキリの生命力は強いらしく倒れなかった。 僕は気を取り直して、今度は右側から同じことをやって首を完全に斬り落として決着をつけた。


「えっと。 皆なぜ戦わなかったの? こんなの鎌さえ気を付ければ楽勝だよね?」


 誰も答えなかった。


マリ(泊里)、そういえば昨日、一匹もソロで戦わなかったな? 次は戦ってみるか?」


「よ、ヨシ。 お前よく怖くないな。 こんな化け物が相手なのにお前は勇気ありすぎだろう」


「そうよ。 あなたは変よ。 これってリアルなのよ? 失敗すると怪我するのよ? 下手すれば死ぬことだってあるのよ? 何でゲームのように普通に動けるの?」


「だって、ほら。 アイツ等はサロナーズオンラインゲームのAREEダンジョン5層のヤスリカマキリと一緒じゃないか。 それにダンジョン系シミュレーションのモブはリアルダンジョンの魔物と同じ動きになるように設定されているって聞いていたよ? 逃げるのは簡単そうだし問題ないと思ったのさ」


「ああ、そうだったな。 それにしたって、これは現実なんだぞ? もう少し怖がったほうがいいような気がするがな」


「だって、皆で釣って来て戦うって決めたからやったんじゃないか。 釣って来たのに誰も手を出さないから僕がソロで戦うしかなかったんだよ」


「まあ、そりゃそうなんだがな」


「じゃわかったと思うんで、マリ、次はお前が釣って来いよ。 怖くなったら5m以上引き離せば追ってこなくなるから危険はないよ」


「ええっ? 俺がか?」


「ああ、釣ってきたら確実に僕らが抜いてやるからさ」


「うっ、わかったよ。 じゃ行ってくるわ」


「あ! ちょっと待って。 ここまで引っ張るのは、すっごく大変だから少し前へ出よう」


 僕らは戦闘場所を前に移して、一匹ずつ釣っては狩ってを繰り返した。 慣れて来たところで釣り役を交代制で行い、最後には釣り役がそのまま倒すというのもやってみた。 そうやってヤスリカマキリの大群を無事殲滅できて、34個のエネルギー石とオーブも一つ得ることができた。 レベルの低い通常魔物からオーブが出るのは非常に稀なことなのでこれは幸運だったと言わざるを得ない。


 その後さらに奥へと進もうかとも考えたが、今日は十分稼げたし、僕以外のメンバーには少し疲労が見え始めていたのでそのままダンジョンを出ることになった。 ちなみに本日のパーティプレイではレベルは上がらなかった。


 センターで換金したところ、本日の稼ぎは一人あたり57万円ほどにもなった。 オーブが出たことが大きかったのだ。 これで僕は中古の武器と防具を買えるようになったはずだ。

 

 駆け出し冒険者が使う低品質のエムレザー製防具の防御力はVITにして+300だそうだ。 スキル頑健7のお蔭で現時点で僕の防御力は十分強くなっているが、未だそんなことはパーティにも話せない。 けれど多少性能は落ちても防具は安物で十分だ。

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