21. おかし~でしょ
途中携帯端末を忘れたことに気づいて引き返したため、ちょっとだけ到着が遅れてしまった。
ダンジョンの前には、泊里(マリ)が待っていて、少し不機嫌そうな表情で僕に文句を言って来た。
「おい、お前おせーんだよ。 何してたんだよ?」
「わ、悪い。 忘れ物を取りに戻ってたんだよ」
マリの奴は今日に限って何で不機嫌なんだ? 一応言い訳はしてみたけれど、普段は軽く流してくれていたのに。
「まあ、分かった。 それはいいが、ちょっと状況が変わっちまったんだ」
「どうしたんだ? 後輩が来れなくなったとかか?」
「いや、その反対でな。 3人に増えちまったんだ、しかも3人とも女子だ」
「ええっ? マリって女子と交流があったの?」
「いや、それは微妙に違うな。 俺が使っている女子アバターの知り合いだ。 リアルも女だと思われてたってわけだ」
「ほほ~。 それでどうなった? 僕やお前が男でも大丈夫って話になったか?」
「ああ、それでも大丈夫ってことになった。 とりあえずソイツ等を紹介するから、早くセンターの中へ入ろうぜ」
僕はマリの後について行った。 そしてそのセンターの中で3人組の女子と引き合わされた。
はぁ~ なんてことだ!
僕はため息をついて首を垂れてしまった。 これは最早お約束と言って良いベタな展開だ。
「ちょっと、選りによって何でここに貴方がいるの? おかし~でしょ。 マリちゃんは許せても……」
「アハっ、私達は余程君と縁があるのね」
「おい、お前らは、縁のある知り合いだったのか?」
「ちょっとマリちゃん。 変な言い方はできるだけ止めてね。 そいつと知り合いって言えば、知り合いだけど、講習でちょっと一緒だっただけの関係なのよ」
「……」
「なるほどな。 それじゃとりあえず自己紹介するぜ。 私――俺はマリ2367こと泊里快だ。 よろしくな。 それから」
「ああ、僕はヨシ2864、吉田幸大です。 マリとはリア友です」
「……私は、カナ2694、本名は、陰陽神奈です」
「ちょっと、カナ。 それいいの? 本名まで言う事なかったんじゃないの?」
「あっ! ……でもさ、やはり礼儀として名乗っておいた方がいいと思うの。 仮にもリアルダンジョンで一緒になる仲間だからね」
「……」
「私は、レイ856、本名は、神降嶺衣奈です。 よろしくね」
「……私は、ミレ564、本名は、沙美砂美鈴です」
ミレイさんは、女子としては背が高く細身で凛々しいタイプ、 カナさんはちょっと平均より背が低めのぽっちゃり体型で活発な可愛いタイプ、 そしてレイナさんは落ち着いた感じで清楚なお嬢様といったタイプだ。 この前会った時も思ったけれど、三者三様で中々イイ感じだ。
それにしても今教えてもらったアカウント名は、あの”疾風の白狼”で使っているアカウント名と違うじゃないか。
「アレっ? それってまさかサブアカ?」
「ちょっ、待ちなさい。 それは言っちゃダメ!」
「……すみませんでした」
「ヨシ、なんだよ。 教えろよ」
「いや、ごめん。 こればかりは本人の承諾が無いと……」
「無いとどうなるってんだよ」
「アカウントが危ないかもしれん」
「ええっ? そんなヤバイ奴なのかコイツ等」
「マリちゃん、ヤバイとかコイツ等とか言わないで! 私達にアカウントをどうこうできるわけないでしょ?」
「いや、貴方達が実力行使したら、僕らの評判なんて簡単に地に落とせますよね?」
「……」
「ふふふ、そんなことにはならないと思いますが、ヨシさんはもう知ってしまっていますね。 それならある程度は話しておいた方がよいかもです。 ミレイ、カナ、いいですね?」
「レイナがそう判断するなら、私は構わないわ」
「しょうがないな~、ミレイとレイナがそれでいいなら文句はないかな」
「いったい何なんだよ。 俺は恐ろしくなってきたぞ?」
「それではお話しますね。 さっきの私たちのアカウントは、サブアカウントなんです。 それはよろしいかしら?」
「お、おう」
「本アカウントは、……結構有名なのです。 ……今はそれだけで勘弁してもらうと助かるわ」
「あ、ああ。 よくわからねーが、とりあえずわかった。 だけど何故ヨシと知り合いなんだ?」
「それは、講習で一緒だったからです。 それだけのはずです」
「ヨシ、それって本当か?」
「ああ、本当さ。 あとミレイさんとは先の実習でも一緒だったよ」
「「ええっ?」」
「ん?」
「まさか、ミレイが実習で世話になったって方って、ヨシさんでしたの?」
「ちょっと、レイナそんなこと言わないで!」
「ああ、お世話をしたって言っても、僕はただトイ…」
「あ~、あ~、あ~、何でもないわ。 レイナ、カナ、何でもないからね」
「……わかったわ、ミレイ。 それ以上は聞かないでおくわ」
「レイナ、ありがとう」
「……」
「なんだかわかんねーが、早くダンジョンへ魔物狩りに行くとしようぜ。 ヨシ、とりあえず装備と武器をレンタルして来い」
「ああ、わかった」
「マリちゃん。 マリちゃんはその言葉遣いを改める気ないのね。 私は悲しいわ」
レイナさんの気持ちは少しだけ分かる。 ゲーム内のマリは猫をかぶっていて僕以外には丁寧語が基本だった。 だが今のマリの言葉遣いは多少粗暴な感じで素が出てしまっている。 実物はちょっとヒョロくて可愛いタイプの男なのだから、それに違和感を感じるのは無理からぬことなのかもしれない。 ただ本人は可愛いとか言われてしまうことを大分気にかけているようで、言うと本気で怒られたりするから注意が必要だ。
そんなわけで、僕、マリ、そして”疾風の白狼”の女子3人組、ミレイさん、レイナさん、そしてカナさんとでパーティを組んでダンジョンへと入って行った。
スライムゾーンとノミネズミゾーンでは、3人組に討伐の練習をさせてみるつもりだったが、ソイツ等では彼女らの練習台にはならなかった。 恐怖さえ感じなければ彼女等の戦闘能力は十分高いのだ。
そして、ゴブリンゾーン。
レイナさんとカナさんが少し遅れをとったようだが大きな問題はなかった。
イボイノシシゾーン。
僕がお手本を示し、次にミレイさんがやってみて、レイナさん、カナさんも十分対応できた。
そして僕らは本日のメインイベントとして考えていたオークゾーンへとやってきた。