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198.  超極小サイズ

 「はぁ~、……」


 それにしても気が重い。 僕は耐えきれずにため息を吐いた。


 サイボーグ化された僕は機能補助AIを使って得ている全情報にアクセスできるので、瞬時に状況がどうなっているかを知ることが可能だ。 

 だからリアルタイムで主要な課題について進展が無いのがわかってしまう。

 そんな中僕等、……いや僕が今できることは、果てしない単純作業のみになってしまっている。

 つまり、アフィアリアの時にも散々やってきた、“チャネル板”作りなのだ。

 こういう単純な作業は安全だが面白いわけではない。


 今回“チャネル板”作りが必要な理由は既知のダンジョンを連結させるためではなく、コアルームへ瞬時に到達できるようにすることが目的だ。 

 ダンジョンを真の意味で攻略するためにはトゥルーコアタッチが必要で、そのトゥルーコアタッチができる人々を危険を冒さずに直接コアへと派遣したいのだ。 コアルームへのチャネル板の設置は異次元収納庫を備えた強力なアンドロイド型AIロボット達が担当する。 勿論コアルームへと到るまでの経路はステルスタイプ探査ロボット達が事前調査を行っている。 派遣対象のダンジョンは下級ダンジョンと中級ダンジョンである。 上級ダンジョンに対応したトゥルーコアタッチ要員は不足している、というか僕等しかいないので改めて養成の必要がある。 要員候補者についてはピーケさんと美沙佳さんとで確保を進めている段階だ。


 暫くの間我慢して“チャネル板”作成作業に従事していたが、ふとエミリが気になったのでそっちの方を向くと、僕と同じく死んだような目つきで仕事をしているのが見えた。  僕がサイボーグ化処置を受けて装置の中で5日間導入教育を受けていた間、エミリはずっと作成作業を続けていたそうだ。 エミリはミミックを使ってプライベートダンジョンの劣化版であるミミックダンジョンを作り出すことができるので単独で“チャネル板”を作ることができる。


 アフィアリアの時は滅亡期限が差し迫り、そんな状況の中でアフィアリアを救済できるかもという期待と焦り、そして緊張感を伴ったモチベーションがあったが、今は違う。

 ステルスタイプの探査ロボット達によるスパイ活動やオリジナル人類のAIによる地球全体の情報システムを(ひそか)に支配してしまっているので、核戦争とか重大なテロの危険性は排除できていると言って良いだろう。 残っている課題は、それらのテロの元凶の調査や、行方不明となっているマリやミレカ姉妹の救出、そして今後必要になってくるはずのダンジョン試練の課題――つまり、エクストラスペースの調査とトゥルーコアタッチの準備である。 それらは全てステルスタイプの探査ロボット頼りである。


「お兄ぃ、ハイクマンとかいう魔物は見つかったの? 倒しに行かないの?」


 作業に飽きたという顔つきで手を止めたエミリが僕に聞いて来た。 だがエミリも分かっているはずだ。 現時点では既に潜んでいると考えられていたダンジョンの調査は完了しているが、ハイクマンらしき魔物は見つかっていない。


「ピーケさんから聞いているだろ? 怪しいダンジョンは全て調査済なんだよ」


「怪しくないダンジョンの調査状況はどうなの? 気になるから教えてほしいな」


「え~と、それってリアルタイムで状況を知りたいってことか?」


「うん、そういうこと」


「そんなこと言われてもな~、僕に聞いて貰えれば教えることはできるけど、気が向いたらおしえてやるよ」


「それにしても今の仕事って単純すぎて面白くないよね~。 せめて自分がやった仕事がどれだけ役立っているかとか、そういう実感がほしいの」


「仕事に飽きたら、何時でもフルダイブタイプのシミュレーターで遊べばいいんじゃないか? そこならリアルタイムで情報も得られしストレス解消になるだろ?」


「う~ん、でもシミュレーターの中にいると仕事ができないし、仕事に戻りたくなくなって、戻る時に凄く辛くなるし……」


「ふぅ、それで一体お前はどうなってほしいんだ?」


「せ、せめて、進捗を確認しながらとか、アニメを見ながらの作業とかにできないかな~と……」



 ま、まあエミリの心情は理解できる。 今の作業は本当に単純すぎてつまらない。 

 僕もせめてTVとかネットを見ながら作業できればと思う。 


 その位なら携帯端末を利用すればいいじゃないか、……って考えたが、両手は作業で使うため操作が不可能だ。

 でも足でなら携帯端末を操作することは可能かもしれない。

 い、いやそれは流石に僕でも避けたいところだな。

 となると、両手と足以外で動かせる所は?

 ……顔とか首や胴体か。 


 首や胴体を(ひね)ったりすればスワイプと同じ操作になるとか……。

 でもそれじゃあ、顔の方が自由度が高いな。

 目をパチパチさせたり視線を変えたり、鼻や耳をヒクヒクさせたり、口や唇を……。

 いや、口や唇はダンジョン生成のために発声しなきゃだから無理だな。



「お兄ぃ、次々に変顔を繰り出して何が楽しいの? また何か良からぬ実験とか企んでる?」


「企んでるって人聞きが悪いことを言うな。 折角人がこのつまらない仕事から脱けだすための手段を考えてるってのに」


「えっ? その考えた手段ってのが変顔なの?」


「あ、アホか。 そんなわけないだろ? 手段を模索してたってだけだ。 考えた手段じゃないわ!」 


「……お兄ぃにしてはつまらない発想だったね。 もっと極端な、例えば自動化作業とかを目指して考えてみても良かったんじゃ?」


「自動化か……。 体と意識を自動的にプログラムできれば可能かもだな。 ってまさかお前!」



 エミリが突然笑顔になった。

 こ、コイツも僕と同じことを閃いたって訳か?



「そういえばエミちゃんには無理かもだけど、サイボーグ化された今のお兄ぃなら意識をプログラム的に自動操作できるんじゃない? それにシミュレーターとの接続性も高いんでしょ? ならば思考加速して……」


「ちょ、ちょっと待てエミリ。 それは不公平ってもんじゃないかな。 サイボーグ化された僕だけに作業をさせようって腹黒いこと考えてないか?」


「でもお兄ぃにとっても、その方が楽になるんじゃない? あくまでも自動化が可能ならの話なんだけどね」


「……」 



 釈然としないが、確かに僕だけに限って言えば楽になりそうだ。

 そう思って色々と試行錯誤をした結果、意識の自動化は無理だったが思考加速を用いることは可能であることが判明した。 意識の自動化が不可能だった件についてはCPUとOSの関係から考えると当たり前なのかもしれない。

 元来シミュレーターで使っている思考加速はダンジョンの中でのみ可能でステータス依存だった。

 そして僕のステータスは1000に達した人の更に250倍ほどになっており、それがスキルにより加速される。 その結果、楽々と今までの1000倍以上の速度でスキルの使用と発動ができるようになり、それに連動して手や足など動かすことが可能であることが判明した。 そして“アイテムボックス”の代用としてピーケさん達の異次元収納庫を活用して補助してくれることで今までよりも“チャネル板”の生産効率が2000倍ほどにあげることができたのである。


「お、お兄ぃ。 これって全然楽になってないんだけど……」


 この思考加速とスキルの連動効果は、今では完全に僕の一部となっている機能補助AIを活用して導き出した成果だが、一旦その原理が明らかになってしまえば後は睡眠学習によりエミリにも教えることが可能だった。


 エミリのステータスは高々僕の1/8に過ぎないが、思考加速を使うことで今までとは比較にならないくらい生産スピードが向上した。

 つまり僕だけが働くということにはならなかったっていう訳だ。

 僕としてはエミリも巻き込むことができて多少は満足だ。


「そうだよな。 結局“チャネル板”を作る個数が増えただけで、僕たちの作業時間は割愛してるわけじゃないからな。 エミリは嫌になったんならサボってもいいんだぞ?」


「い、いや。 エミちゃんは作成する個数はお兄ぃに敵わないけど、せめて仕事する時間だけは勝ってやるんだ」


 本当にエミリはウザいやつだ。 変なところで真面目というか、兄への対抗心が強いというか。 

 でも僕はエミリに付け入る隙を与えたくないと思っている。

 そんなわけで結果的に見れば、“チャネル板”の作成量は爆増したのだが、兄と妹の間の意地の張り合いによって仕事自体は決して楽にはならなかったのである。




 そして死んだような目つきで、永遠とも思える何日かを繰り返したところで僕の頭の中で突然アラームが鳴り響いた。

 アラームは外部から収集している情報に大きな変化が出た時に発報するように設定してあったものだ。 そして一向にそのアラームが発報しない状況にイラついた僕はその発報アラームの音量を極限まで大きく設定してしまっていた。


「ぐ、ぐえっ!」


 僕はそのアラームによって殆ど倒れ込む位のダメージを受けた。 勿論フィジカル的なセキュリティー機能によってそのダメージは致命的とは言えないまでには軽減はされていた。


「お兄ぃ、どした? 突然の心筋梗塞?」


 相変わらずエミリの発想は斬新だ。 そんなわけないと即座に否定したかったが、アラームの内容確認の方を優先させることにした。


「エミリ、僕は大丈夫だ。 外部状況に変化が出たみたいだから、ちょっと確認する時間をくれ」


「わかった。 後でちゃんと教えてね」


「いや、知りたければフルダイブタイプのシミュレーターにログインして自分で状況を確認してくれ。 僕はちょっとピーケさんと善後策を講じることに専念するよ」



(ピーケさん、これってどういう事?)


 僕はエミリとの会話を早々に切り上げてピーケさんとの内部通信へと切り替えた。


(今までの常識を覆すようなこんな形態のゲートが存在しているとは予想できませんでした。 外部からは不可視で且つゲートのサイズが直径1mm程度と超極小サイズだなんて、あまりにも特異すぎでございます)


(これって偶々(たまたま)発見してしまったんですよね。 というか今までの探索方法では見つけることが不可能だったんだね)


(ええ、その通りでございますね。 こういうケースがあるということを念頭においたダンジョン調査ではありませんでしたから、今度からはこういうケースにも対応する必要がございますね)



 深海域に存在するダンジョン探索のために放たれていたステルスタイプ探査ロボットが偶々この特異なゲートを発見してしまったのである。 あまりにもゲートが小さく不可視で視認も困難なため、発見自体が困難であるし、昆虫に模した探査ロボットはサイズ的に内部には入り込めない。


(とりあえず一次調査として、直径1mm以下のゲートに差し込めるセンサを搭載した探査機を現地に向かわせます。 そして新しいダンジョンを発見するために、ゲートセンサ機能を強化した探索ロボットの開発が急務でございます)



 センサ機能を強化した探査ロボットの開発自体は1日程度で完了できる。 しかし問題は今まで作った膨大な数の探査ロボットが無駄になることと、センサ機能を強化した探査ロボットはサイズ的に小鳥ぐらいになるためステルス機能が弱くなる。 それに勿論ゲートの内部に侵入するなんて全く持って不可能だ。


(このゲートを特殊マイクロゲートと名付けたいですがピーケさんはそれでいい?)


(依存はございません。 それでその特異ゲートの中への侵入でございますが)


 ぴ、ピーケさん。 僕は特殊マイクロゲートって言ったんだよ? それを特異ゲートとか言い換えるってどういうこと?


(特殊マイクロゲートは特異なゲートの一種と考えられますので)


 あっ、思考遮断を忘れてた。 僕はすぐに思考遮断を行い、僕の考えを勝手に読まれないように処置を施した。


(ま、まあそれならいいけどさ)


(ゲートへの侵入は独立組み上がり方式の探査機を使用するのが最適かと存じます)


 独立組み上がり方式の探査機とは、部品が勝手に結合していき組み上がっていく探査機のことで、ここの部品はかなり小さくできることが特徴である。 今回の場合、個々の部品サイズの断面積を直径1mm以下に留める必要がある。


 (とにかく、再調査のための探査ロボットの増産と、ゲートの中を調査するための探査機の開発が優先だね)


 とりあえず僕等はその特殊マイクロゲートを観察するために現地に赴くことにした。 ただし現地といっても深海なのだから生身の体では無理だ。

 こういう場合にはフルダイブ型のシミュレーターに入って、現地に向かわせる専用のAIロボットを操作することになる。 あえて生身の人間がリスクを冒す必要などないのだ。


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