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196.  提案

 いやまだだ。 

 僕が不覚にも誤魔化されたなんてあり得ない。 僕はちゃんと状況を理解している。



「それではピーケさんに質問ですけど、オリジナル人類の科学力を持ってすればダンジョンの、そのエキ、いやエクストラスペースとかを見つけるのは簡単だったんじゃないかな? それともオリジナル人類は発見後の戦いとかに敗れたってことなのかな?」


「吉田様、我々はダンジョンを自然現象と(とら)えていたのございます。 我々の価値観ではダンジョンは生身の人間には危険すぎました。 危険を冒してまで生身の人間がダンジョンに立ち入り、魔物をその手で倒すなど論外だったのです。 生身の人間が関与しないとなると、当然トゥルーコアタッチもできないので試練の道標(みちしるべ)となるメッセージ石板すら発見できません。 結果、我々オリジナル人類は試練の存在すら知ることなく破局を迎えてしまったのです」


「な、なるほど。 オリジナル人類の顛末については理解できたけど、例えばアフィアリアのケースでは、ピーケさんはエクストラスペースの発見に関与できたんじゃない?」


「はい、もちろんでございます。 そのエクストラスペースの発見のために私もあらゆる手段をつくして尽力しましたが発見には至りませんでした。 以上から発見には生身の人間の関与が必須なのではないかと考えております」


「……それって、僕等は、えっと3万を超えるダンジョンを回らないとダメってこと? そんなの無理じゃないかな」


「もちろん私も事前調査を行います。 生身の人間にできて、我々AIロボットに無理なことの代表格としては、ユニークスキル取得とトゥルーコアタッチです。 ユニークスキルについては、アフィアリアにおいて発見済の103種類のスキルの中で、エクストラスペースを発見するのに関連するスキルがあるかはハッキリしておりません。 またトゥルーコアタッチに関しては、ダンジョン攻略を地道に進めていくしかございませんが、どの惑星のケースでも人材確保が一番の課題でございました」



 ピーケさんの発言によって僕は絶望を感じた。 ユニークスキル探しとトゥルーコアタッチのための人材確保。 両者とも大変そうだし、特に上級ダンジョンの攻略については僕とエミリ、ミレイナ姉妹と美沙佳さん、そして中佐しかトゥルーコアッタッチ条件をクリアしていない。



「うげっ、ってことは、……僕等は結局どうすれば?」


「一番優先してほしいのは、“チャネル板”の量産でございます」


「えっと、何で?」


「今は私に準拠した異次元収納庫システムを備えたアンドロイド型AIロボットの量産を続けておりまして、同時にステルスタイプ探査ロボットを進めております。 探査ロボットにはお仲間の行方調査、テロ集団の監視及びハイクマン対策として既知ダンジョン内部の調査、それから新規ダンジョンの発見を目的に行動させます。 アンドロイドAIの方にはユニークスキルオーブの確保と、ダンジョン攻略を担当させたいと考えております」



 何か盛沢山でわけが分からなくなりそうだ。 

 今までの説明の経緯から考えれば、以下のようになる。

 第一にテロによる戦争誘発への危機、それに関係しているハイクマンのような疑わしき魔物の存在への対策を行う。

 第二に仲間達が行方不明になってしまっていることへの調査を行う。

 第三に今後の事を考えてのエクストラスペース発見への準備を行う。

 ピーケさんは、これらをアンドロイド型AIロボットや、ステルスタイプ探査ロボットを量産して同時進行で対応に当たらせるつもりなのだ。


 ということは……。



「あれっ? もしかしてこうなると僕等は当面やることが無かったりする?」


「吉田様には先程申した通り“チャネル板”の量産をお願いしたいのです」


「だからどうして?」


「量産するアンドロイド型AIロボットには異次元収納庫を実装します。 そしてその収納庫で“チャネル板”をダンジョンのコアルームまで運ぶのです」


「えっ? ピーケさん達も“チャネル板”を運べるってこと? 超科学技術で作られた異次元収納庫ってそこまでアイテムボックスと互換性があるのか……」


「はい、特別な技術を施すことで最近可能になりました」


「ちょっと待って! 異次元収納庫ってその中に人も入れるんだったよね? ってことは異次元収納庫の中の“チャネル板”へアクセスすれば、収納庫の中に出れて、さらにそこから外へ出ることも可能ってこと?」


「はい、その通りでございますが、制限もございます」


「制限って何?」


「ダンジョンの中か、その近くでないと、“チャネル板”への出入口がアクティブにならないのです。 こればかりは私の技術でも対応不可能です」



 これは残念としか言いようがない。 結局“チャネル板”を使っての瞬間移動はダンジョン近傍でしか実現できないってことだ。



「それでは第一陣の行動を開始します」


 ピーケさんが宣言したと同時に、ピーケさんの側に直径1m程の黒い球体が発生した。

 なんだこれは? と観察する間もなくそれは消えてしまった。


「今のは何?」

「今のは?」


 僕が問い掛けると同時に母もビックリしたようにピーケさんに質問した。

 ピーケさんは先ず母に向き直った。


「今のは幻影でございます。 ちょっとした立体投影機を使った余興ですね」


 それから僕の方に視線を移した。


「手始めに10万匹のステルスタイプ探査ロボットを解き放ちました。 それらは近隣諸国へと向かわせました。 それから吉田様にはプラベートダンジョンを介して私のダミーと美沙佳様を向かわせていただきたいと存じます。 探査のための移動に要する時間ロスをなるべく少なくしたいのです」


「それから美沙佳様。 米国側のダンジョン、シエラネバダダンジョンの近くに“チャネル板”を設置した拠点を作りたいので、ご協力ください。 月面へも立ち入りたいのであちら側と交渉もお願いしたいと存じます」


「え、ええ。 何か凄いことになってきた気がするけど、私にできることなら協力を惜しみません」


「美沙佳様、ありがとうございます」


 それから改めてピーケさんは母へと目を向けた。



「お母様、お母様は未だこの病院での退院手続きが残っております。 私の配下を一名残しておきますので、手続きを済ませてください。 その際、私たちのことは内密にお願いします。 でないと退院に支障が生じてしまう恐れがありますので」


「え、ええ。 ピーケさん? わかりました。 それで退院したらこの状況を正確に説明していただけるんですか?」


 ん? この状況の正確に説明って何のことだ?

 まさか母は薄々僕等の異常行動について気が付いていたとでもいうのか?

 それでいて僕等の邪魔をしないように気を使っていた?

 ま、まあ、どちらでもいい。

 とにかく母は全快したし、今後のこともピーケさんの配下?が面倒を見てくれるに違いない。


 その後ピーケさんが、別のAI個体を召喚し、それを病院に残しててから僕等は病院を後にした。



「吉田様、エミリ様、美沙佳様。 こちらでございます」


 そして僕等は、病院の近くのマンションの一部屋へと案内された。

 部屋に入ってから僕はピーケさんの説明を待った。


「こちらは、瀬生(せお)ダンジョンの拠点として使います。 先程の説明中にネットにて賃貸契約を結びました。 この部屋のこの一角はダンジョンから100m以内に位置しますので、先ずここに“ルーム板”を設置願います」



 僕は、その一角にアイテムボックスから“ルーム板”を取り出して設置した。 このマンションはダンジョンの外とはいえ、ピーケさんの言う通りダンジョンからギリギリ100m以内だったようで少しだけ設置には時間を擁したが無事設置することに成功した。

 その後“ルーム板”の中に“チャネル板”を設置後、プライベートダンジョン経由で、今度は自衛隊ダンジョンへと戻った。 そしてその自衛隊ダンジョン近くの自衛隊宿舎の一室を借りてから、そこを自衛隊ダンジョンの拠点とした。

 そんな調子で、今まで僕が攻略したダンジョンの近くに出来るだけ多くの拠点を作るべく行動を開始した。 最終的には、始まりの2986初級ダンジョン(僕のアパートの近く)、6963中級ダンジョン(瀬戸内海のダンジョン)、1232中級ダンジョン(通称武蔵ダンジョン)、小菅ダンジョン、阿修羅ダンジョン、花岡ダンジョン、そしてシエラネバダダンジョン(米国)に拠点を設けた。 米国ダンジョン攻略隊の初級ダンジョンについては色々と面倒に巻き込まれる恐れがあったので除外している。


 僕等の本拠は、シエラネバダダンジョンから月面へ出た先にこっそりと設置した“ルーム板”の中に決定した。 

 その“ルーム板”は月面から出た先のシエラネバダダンジョンの壁に入口側をダンジョンの壁に向けてくっ付けるように設置して、外からは侵入不可でダンジョンの壁と区別がつかないようにしてしまい、完全な隠れ家になっている。 またその“ルーム板”は2重構造になっていて、内側の“ルーム板”の下側にはピーケさんが周囲の重力を1Gに変えるための重力制御装置を設置していた。

 本拠ルーム内の内側には、多数のルームを作り、その内部の壁には直接他の拠点と繋がるチャネルがある。 


 それらの拠点作りを行っている間も、ピーケさんはアンドロイドAIやステルスタイプ探査ロボットを生産し、生産能力向上のために工場づくりも同時に進めていた。 元々の製造装置はピーケさんの異次元収納庫の中に複数設置されている2段階目の異次元収納庫の中に存在していた。 今度はそれを持ち運びが可能な“ルーム板”の広大なルーム空間で工場へと発展させたのである。

 やがてその工場から、つまり“ルーム板”の中からピーケさん型のアンドロイドAIが続々と出てくるようになった。 容姿的には全て端麗な個体ばかりだが、それぞれ区別がつくように工夫されている。 そのアンドロイド達は僕とエミリが作成した“チャネル板”を持って、各方面へと旅立って行った。



「ピーケさん、アンドロイドAIロボットは最終的に何体ぐらい製造するつもりなんですか?」


「少なくとも当面15000体以上製造したいと考えております。 多ければ多いほど今後の活動に有利なのですが、あまり目立ちすぎると要らぬ(うわさ)が広まりかねないですから、外で行動する人数はその位に抑えておきます」


「うーん、僕が思うに、みんな見た目が抜群だから目立つんじゃないかな。 もっと普通の人に似せた方がいいんじゃないかな」


「今回の任務で派遣するアンドロイドは基本一人で行動するので、容姿については良い方が色々と融通を利かせてもらう上で有利なのです。 それに変装すればいくらでも容姿を落とすことは可能ですからね」


「でもさ~」


「私のポリシーとして、どうしても必要な場合を除いて容姿については妥協できません。 AIロボットにも心があるのです。 いくら鉄の精神を保有させているとはいえ、他のAIよりも自分が劣っているという感情を生じさせるのは好ましくありませんので」


「えっ? 心があるの?」


「ええ、心は生存本能から生じ、その個体の行動原理を形作るのです。 これは機能補助AIと融合すると良く理解できます。 吉田様も機能補助AIと直接情報を共有してみませんか? なにかと便利ですよ?」


「共有? どうやって?」


「かつて私が有機生命体だった頃のように、マイクロコンピューターを生体内に埋め込んで、今回の場合、具体的には奥歯の一部になりますが、記憶や外部との通信回路を一部共有するのです」


「それってサイボーグ化してみたらってこと?」


「ええ、広義的な意味ではそうなりますね。 しかし心臓の補助としてペースメーカーを埋め込むみたいなものお考えいただければ、それほど大事ではないと思えるはずです」


「い、いや。 それは流石にちょっと怖いかも」


「吉田様は既に脳に接続された補助機能を御持ちなのですよ? それに加えてオリジナル人類の補助機能も追加するだけです」


「補助機能を既に持ってる? そんな馬鹿なこと」


「吉田様はダンジョンの中で魔法やスキルが使えたり、ステータスが上がったりする現象を何だとお考えですか? 我々の調査によればダンジョンの中でレベルを取得した瞬間に、脳神経から伸びる神経回路に何かしらの回路が接続されてしまうことが判明しております。 最もその回路の正体は不明なままです。 それは物理的な存在では無いので解析できておりません」



 僕は愕然とした。 ダンジョンにそんな罠があるなんて、これっぽっちも考えたことはなかったのだ。 しかし改めて考えてみたら、ある意味当然なのかもと思えた。 頭の中でレベルアップとかスキル取得のメッセージが聴こえるのもそうだし、ステータス画面を視れるのもそうだ。 もちろんスキルを使う時も感覚として使えている。



「だ、ダンジョンのそれは不可抗力だったんじゃないかな。 でもピーケさんの提案は僕が選択できるんだよね?」


「もちろんです。 吉田様の意思次第で、接続も可能ですし、接続後気に入らなかったら取り外しも可能ですし、再接続も可能です。 それに何と言っても私と同様、意識的には有機生命体の寿命から解放されます。 若いうちから接続すれば、それだけ多くの見聞や考えを忘れないで記憶しておけます。 当然ながら勉強からも解放されます」



「べ、勉強から解放っ!!!」



 や、ヤバイ。 つい本音が口に出てしまった。

 これは一応言い訳しておく必要があるだろう。


「い、いや僕は決して勉強を否定するわけじゃないけど、あれってストレスなんだよね。 それに頑張ってやっても優劣をつけられてしまうし、生まれながらの能力とか環境とかの不平等なんかも影響するし」


「ちなみに次はエミリ様にも提案するつもりです」



 くっ、これは不味い。

 本来ダンジョンの件がなければアイツは大学受験とかを控えて勉強に追いまくられているはずだったのだ。

 かなりの確率で誘惑に負けて機能補助AIを埋め込むと推測できる。

 ……ということは、今後妹に知識や知能で負けてしまうかもしれない。


「わ、わかりました。 埋め込みに同意します」


 僕はあえなく陥落した。

 どうせダンジョンにおけるステータスでは化け物級になってしまっているし、もうどうにでもなれっ、行きつくところまで行けって感じだ。

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[一言] エミリ、俺は人間(勉強)をやめるぞ!
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