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192.  本当にチート

「ふぅ~、これでやっと落ち着いて話ができそうだね」


 鈴木さんの表情が心なしか少し緩んだ。 地球人で責任のある立場の人物にとっては、これが異星人とのファーストコンタクトなのだし、それがシンギュラリティを超えたAIロボットのピーケさんだったことも鈴木さんや美沙佳さんにはショックだっただろう。 普通ならこんな重要な場面では失言などは論外だし、上層部と連絡を密にして慎重に事を進めなければならなかったはずだ。 それがたった今、全て非公式というくくりの見解で簡単に片付いたのである。



「では早速、吉田様のお母様との面会を実現させていただきたいと存じます」


「ええ、それは勿論なのですが、少々お時間をいただけませんか? いや1時間程で結構なので」


「鈴木さん、それってどういうことなんです?」


「ああ、吉田君。 君たちが居なくなっている間に、大規模なサイバーテロが有ってね、それで携帯端末やら冒険者証やらを一新したのだよ。 それらの交付に少しだけ時間をほしいんだ。 それにピーケさんの待遇をどうするかを決めなければならないしね」


「ピーケさんは普通に僕等の随行者的な扱いでいいんじゃないですか?」


「サイバーテロの対策でね、携帯端末や冒険者証などの身分証を所有するためには、経歴は無論のこと、DNAや指紋、声紋、虹彩などの生体認証に必要な情報を登録する必要があるんだ。 ピーケさんはAIロボットだから生体認証は無理だし、かと言ってその見かけと物腰から判断するとどう考えても人間そのものにしか見えない。 それを私の権限でどうにかしなきゃならないんだが……」


「どうにかできるんですか?」


「うむ、秘密任務に就く者として架空の登録を……」


「鈴木様、その必要はございません」


「それはどういうことなのですか?」


「今しがた、私と連絡係の個体AIの経歴と生体情報などをデータベースにアクセスして登録させていただきました。 地球のAIも味方につけましたのでこの登録に疑問を持つことは無いはずなのでご安心ください」


「……」

「……」

「……」


「コッホン、では携帯端末と冒険者証の発行をお待ちいただければと思います。 1時間程で済みます」


「1時間って、さっきと変わらないですよね? ピーケさんの為の処理ってそんなに簡単に終わるはずだったの?」


「いや、最低でも数日はかかるはずだったね」


「ということはどうするつもりだったんです?}


「緊急措置として臨時身分証を発行して、後付けでやってしまおうかと考えてたんだ。 だがその必要もなかったってことだね」


「成程、鈴木さんも随分と融通を利かせてくれようとしたんですね」


「もちろんだよ。 やってしまえば後は何とでもなるもんだと最近思うようになったんだ。 特に緊急時には後先のことは考えずに先ず行動してしまうことが大事なんだ」


「色々とご苦労が(しの)ばれます」


「ま、まあそれはいいとして、待ち時間の間に君たちが不在の間にこちらで何があったかを教えておく必要があるだろう」


「鈴木様、その件についての情報収集は終了しておりますので、私が後で吉田様にご説明して置くことにします。 それよりも吉田様に何があったかを私から鈴木様と美沙佳様にご説明させてください」



 それからはピーケさんが僕たちが経験してきたことの詳細を鈴木さん達に説明してくれた。 内容については少しばかり僕の見解と異なる点があったものの、それはたぶんピーケさんが必要と判断したのだろう。 それにピーケさんがアフィアリアのAIなんてもんじゃなく、それよりも遥かに高度なオリジナル人類のAIであることなども当然ながら伏せられていた。 


 そして僕らは新しい冒険者証と携帯端末を手に入れてから母の待つダンジョン内病院へとエムレザーの装甲を施した軍用AIヘリで移動した。 美沙佳さんが同行してくれるので、こんなことが簡単にできてしまう。

 この前には――といっても地球では2年前なのだが、僕等は移動する際に変装する必要があった。 けれど新しくなったセキュリティシステムによってガチガチに強固な安全性が確保されたことで今回からは緩めの対策でOKになったのである。 それにピーケさん曰く、私がいれば安全面は万全です、という頼もしい保証も貰っていた。


 病院は瀬生(せお)ダンジョンという中級ダンジョンに設立されていた。 その中級ダンジョンは2年前に結成された攻略部隊によりトゥルーコアタッチ済となり、その後に大規模な病院施設が新たに建設されたそうなのだ。 何よりも驚いたのは、そこがVIP専用の病院であるということだった。

 ダンジョンの特徴としては、第一階層が広大で且つ出現する魔物がヒュージバルーンという超大型で且つ非常に弱いからだった。 超大型魔物は狭い場所にはスポーンできないので建物内は非常に安全である。 それにこのダンジョンの第一階層には出入口が3箇所もあり、人の出入りがスムーズであるという特徴もあった。 トゥルーコアタッチ前はイレギュラーなミニックバルーンという人の背丈ほどの大きさの厄介な魔物がスポーンする可能性があったので病院として活用され始めたのは最近のことである。



「あっ、これは沙美砂(さみすな)中将、お待ちしておりました。 どうぞこちらへ」


 ダンジョンに到着すると、出迎えの方が来ていて、特に検査されるわけでもなく美沙佳中将?の随行員ということでスムーズに入口のゲートを潜ることができた。 そしてダンジョン内では専用のワゴン自動車に乗ることで、病室の前まで迷う心配もなく行くことができた。 そして病室に入るとそこには母が待っていた。


 母の名前は吉田鞠芙(まりふ)、容姿は華奢で顔が小さい可愛いタイプである。 そして父が亡くなった時の影響から頭のネジが少し緩んでいる。 だからと言ってそれは普段顕在化しているわけでなく、他人がいる場合には殆どの場面で正常に振る舞うことができていたので障がい者扱いされていなかった。 だが一人で自由に行動させると時々思いついたように突飛な行動に出ることがあるので僕等は苦労を強いられていたのである。 お金にものを言わせて半ば強制的に診てもらうまでは。



「あら、珍しい事ね! 幸大(こうだい)絵美里(エミリ)が2人で会いに来てくれるなんて、ずいぶんと久しぶりよねえ。 元気にしてたの?」


「ごめん母さん、ちょっと込み入った事情があって中々会いに来れなかったんだ」

「お母さん、大丈夫、お兄ぃは変なことしてなかったよ~」



 エミリの発言が多少気にはなったが、母が健在であることが確認できたので安心できた。


「そうなのね。 エミちゃんに監視役をお願いしておいて正解だったね。  幸大は時々突飛な行動に出るからちょっと心配していたのよ」



 ちょっ、そんなこと言われる筋合いはないんじゃなかな、って少しイラっと来たが、その感情は表情に出すことなく容易に抑え込むことが出来た。 僕はもう母の言葉に一々反応するほど子供じゃない。


「あはっ、あはははは、僕もエミリがそばに居てくれて正直心強かったよ。 この所ちょっと大変な事が続いたからね」


「そうだったのね。 一時期、幸大(こうだい)絵美里(エミリ)が行方不明とか言い出す人がいて、ちょっと焦っちゃったけど、すぐにそれはデマだと私には感じられたから安心して待ってられたのよ~。 それにしてもお父さんは帰ってくるの遅いわね、 どうしたのかしら……」


「……」


 父さんの件については、アンタッチャブル案件だ。 否定すると手が付けられなくなるし、肯定するとどうして帰って来ないのかと騒ぎだすからだ。 これはどうしたものかと言葉に詰まっていると入口付近に美沙佳さんと一緒に見守ってくれていたピーケさんが僕たちの方へ進み出た。



「吉田様、本当にお母様は御病気なのですか?」


 ちょっ、ピーケさん。 それは言っちゃダメな奴だ。 ややこしくなる予感がする。



「あら、外国人のお知り合い? そしてそちらは、……軍人さんのコスプレ好きのお友達? 幸大って奥手だから心配してたけど、中々どうして……」


「お母さん、この(おねえ)様は、私の尊敬する美沙佳中将?なのです。 お兄ぃのお友達じゃないです。 どちらかというと先生なのです」


「あらそうだったのね。 みさかちゅうじょう先生? うちの幸大(こうだい)絵美里(エミリ)がお世話になっています。  とくに幸大は色々とご迷惑をお掛けしてないか心配でたまりません」


「いえいえ、こちらこそ御子息には色々と助けられております。 今更ですが吉田君が居なかったらどうなっていたかと思うと今でもゾッとするぐらいなのです」


「またまた~、ちゅうじょう先生もなかなか御上手ですね~。   幸大が褒められるなんて、嘘でも嬉しいです。 ……ところでそちらは?」



 母の感心はピーケさんへと移った。 ピーケさんはどう見ても日本人には見えない風貌だ。


「私はピーケと申します。 今は吉田様とエミリ様にお仕えするという大役を担っておりますAIロボットです」


「あははは、わかりました。 幸大と同じく中々ディープな趣味を御持ちのお友達なのですね。 こんな素敵な方がお友達なんて中々……」



 母は完全に誤解している。 見かけと物腰が人間と寸分違(すんぶたが)わないロボットなど地球には存在しないから、これは仕方がないと言える。 それよりもそれを分かった上で何故ピーケさんはこんな言動をとったのかが気になる。



「お母様は誤解されております。 私は確かにAIロボットなのでございます。 信じられないようでしたら私に触ってみてください」


 そういってピーケさんは母に近づいて座っている母に手を差し伸べた。 AIロボットであることを証明するために鈴木さんや美沙佳さんに対して取った、あの行動を再現しなかったのには少しだけ評価できる。 だがピーケさんの意図は今なお不明なままだ。

 そんなピーケさんへ向かって母は立ち上がり、その手に母が触れた途端、ピーケさんへ倒れ込むようにして意識を失ってしまった。

 そんな状況に僕は目を見開いてピーケさんに抗議の言葉を送った。


「ピーケさん! 何をしたん? どうしてそんなことを?」


「吉田様。 吉田様の願いを叶えるため、少しの間だけ御母上にはお眠りいただく必要がございました。 むろんこれは無害な処置でございます」


「眠らせた? 何のために?」


「吉田様の願い。 すなわち御母上の治療のためでございます」


「母の病はあくまでも精神的なモノなんですよ? 治療なんてそうそう出来るもんじゃな……」



 そこまで言って言葉に詰まった。 まさかピーケさんの持つ医療技術を駆使すればそんなことも可能なのかという思いに囚われたのだ。


「そうです、可能なのです。 アフィアリアのAIには不可能かもしれませんが、今の私には可能なのです。 これを用いればの前提ですが……」



 ピーケさんがそういった途端、ピーケさんの近くに見覚えのあるカプセル型の生命維持装置が出現した。 いや、正確には形状は似ているがちょっと違う部分がある。 少しだけ大き目なような気がする。


「こ、これは一体?」


「これはカプセルタイプの治療装置でございます」


「い、いや。 それはそうかなと思うけど。 どうやってここにそれを出したの? まるで僕等がアイテムボックススキルでそれを取り出したみたいじゃないですか」



 それを聞いてピーケさんはニヤリと微笑んだ。


「そういえば吉田様にはお伝えしておりませんでしたね。 私には標準機能として異次元収納庫システムが備わっております。 そこに収納してあった治療装置を取り出したのです」


「異次元収納庫システム? なんですかそれっ? そんなの聞いてなかったけど……」


「異次元収納庫システムは、アイテムボックススキルの劣化版といえる装置です。 収納庫の容量は10立米程が限界で、時間の流れも通常空間と同じです。 ただしアイテムボックスに無いメリットとして収納庫の中に収納庫を格納することが可能で、人や動物を収納することもできるのが特徴です」


「ええっ! そんなんあったら本当にチートじゃないですかっ。 本当にそんな装置があるんですか?」


「はい、ございます。 御所望でしたら吉田様にもいくつか差し上げます。 ただしアイテムボックスの中へ収納庫を入れる場合には、その中に人や動物が入ってないことを確認する必要がございます。 さもないとアイテムボックスへは収納できません」


「ほしい! それほしい。 ピーケさんその装置見せて」


「吉田様、それより今は御母上をどうするかが優先なのではないでしょうか。 吉田様は確かに御母上の治療を臨んでいるかと存じますが、治療を行うとお父上が亡くなったことを御母上が認識することになります。 それが御母上にとって望ましいか否かは吉田様とエミリ様でご判断ください。 装置に入ってからは12分程で治療を終えることが可能でございます」


「よ、吉田君。 アフィアリアって地球より150年程、科学技術が進歩しているって聞いてたけど、これほどとは思わなかったわ。 凄すぎて何かクラクラしそう」



 そういえば美沙佳さんの存在を忘れてた。 美沙佳さんはピーケさんのことをアフィアリアのAIロボットだと思っている。 だがピーケさんの実際はずっと超科学なオリジナル人類が生み出したAIロボットなのだ。 そんなことを考えると頭がクラクラしてきた。 ピーケさん、責任もってこの場を(おさめ)てくれよな。 僕はそう思ってピーケさんにじとりとした視線を向けた。

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