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189.  テラへ

 僕は混乱した。

 地球へ戻るってなんだ? 

 もしかしてプライベートダンジョン奥のゲートが開いたってこと?

 い、いや時間的にはまだのはずだ。 ゲートのカウンターがゼロになるまでには、まだ1日程度は残っているはずだ。


 となると、ピーケさんが狂った?

 こ、こわ~。 

 惑星を支配しているAIが狂うなんて、折角生き延びのに、アフィアリアには別の意味での滅亡危機が迫っている?



「ど、どういうことですか?」


 ちょっとだけ(ひる)んだが何とか声を発することはできた。 そんな僕にピーケさんは微笑んだまま話を続けた。



「言葉通り地球へ帰還していただきます。 もちろん吉田様のプライベートダンジョン経由でも可能ですが、それには少しばかりリスクが伴うものと推定されます」


「地球のダンジョンに繋がるゲートのカウンターがゼロになれば帰れるのでは?」


「私共が吉田様とエミリ様をこちらへ別の手段で招いたことにより、時空の(ゆが)みが生じてしまっております。 それを修正するためにもう一度同じ方法で、今度は逆向き方向へ帰還してもらう必要があるのです」


「招いた? 時空の歪み?」


「吉田様を招いたのは私たちでございます」


「あ、アフィアリアの科学ってそんなに進んでたのか、って、それ程までなら僕は……」


「誤解なさっているようですが、実のところ私はアフィアリアのAIではございません。 私はオリジナル人類のAIなのです」


「ちょっ、それ何? オリジナル? そんな話聞いてない」


「今初めてお話ししました」



 だ、だめだ。

 ピーケさんが本当に狂ったか、僕が狂ったか、或いは今までのは現実でなかったのか。

 とにかく意味不明だ。



「僕等は何故アフィアリアに招かれたんです?」


「もちろんアフィアリアの人類を救っていただくためでございます」


「そんなのはオリジナル?の人類がやれば良かったんじゃない? こんな遠くまで、時空を歪めて僕等を連れてくる技術があるんなら、ディープインパクトに対処するなんて簡単なんじゃないの?」


「アフィアリアは16番目なのです」


「16番目? なんのことか分からないけど、とにかく僕の質問に答えてください!」


「人類が滅びるのはこれで16回目だったはずなのです」


「えっ?」


「私たちオリジナル人類の故郷は最初に滅びてしまっております」


「……」



 ますます混乱するばかりだ。 

 何を言ってんだって感じ。 

 話が突飛すぎてついていけない。

 だけどピーケさんというAIの発言は無視できない。



「話を続けさせていただきます。 もちろん私共が有するテクノロジーなら、この程度のディープインパクトごときは問題なく処理できます。 でもそれでは駄目なのです。 私たちは既にその資格を失ってしまっているのです」


「資格ってなんだよ……」


「私たちの母星を滅ぼしたのは、小惑星のディープインパクトなどという生易しい災害では御座いませんでした」


「……」


「二番目に滅んだ、オマエカタスという人類はこのアフィアリアと同程度の科学水準で、ここと同じくディープインパクトの危機に瀕しておりました。 そして我々はそれを救おうと手をだしたのでございますが、それは見込みと違い悲惨な結末を迎えてしまいました。 我々の場合と同じ状況に陥り、成すすべなく滅亡したのです」


「手を出したのがダメだったってこと? この滅亡へのシナリオを書いたのは、やはり宇宙人とかの外部勢力で、滅亡を逃れるにはルールがあったってこと?」


「その通りです。 オリジナル人類も、オマエカタスの人類も、その他の滅亡した人類も全てルールに沿った形で滅亡への路を辿ったのです」


「何でそんなルールが存在するなんて分かったんですか? 宇宙人とかは何故そんな真似をするんですか?」


「ある程度のルールの存在はダンジョンが発生し、攻略がある程度進んだところで明らかになります。 もっとも攻略が進んでいないとダンジョンが原因で滅んだことすら気づかないのですが」 


「ええっ? まさかダンジョンが原因ってこと? じゃあ、ダンジョンはオリジナル人類の技術じゃないってこと?」


「ダンジョンは、……そうですね、吉田様がおっしゃるところの外部勢力が人類の価値を吟味するために作った試練であると推定されています。 そしてその試練の合否によって、人類の存在が許されるか、それとも封じ込まれるかが決まるものと思われます」



 ……っ、 突っ込みどころが満載で、何から聞いて良いのかの優先順位が決められない。

 僕はそこで言葉に詰まってしまった。



「では、帰還シークエンスを開始します」


「ちょっ、待って! まだ……」


 

 そのとたん、僕等のルームの底が抜けてゲートが発生した。

 地球からアフィアリアに飛ばされた時と全く同じ状況だ。


 けれど僕にはその状況に対処する方法を考えてあったので、冷静にそれを試してみた。

 まずはアイテムボックスから大き目の鉄球を足の下に取り出して、それを勢いよく蹴ってみる。

 当然ながら作用反作用の関係で鉄球は底が抜けたゲートへと凄い勢いで消えて行き、そして僕は上へと跳ね上がる。

 ちょっと想定外だったのは蹴る力が強すぎで、僕の体はすぐにルームの天井へ激突してしまったことだった。 

 そしてそれによって不覚にも僕は意識を手放すことになってしまったのである。



 ◇ ◇ ◇



 か、体が、あがる、のぼる、天まで上る。

 そうか、地球は17番目かもなんだ。  

 ……17は立派な素数だな。 あひゃひゃ、将来は明るい、素敵な数だ~。

 で、でもアフィアリアの人々の慟哭が聞こえる。 

 呪う声も聞こえてうざい、だるい、逃げたい。 

 僕のせいじゃないよ~。 わかってくれよ~。 僕等は確かにアフィアリアを破滅から救ったはずなんだ。

 い、痛てぇ~。 エミリ、そう、エミリだ。 今、奴は突然僕の頭を思いっきり殴りやがった。 

 何で殴られたか分からない。 奴の行動は予想がつかない。 

 いや、あいつもあれでも女性のはしくれだ。 男にとって本当に女性は魅力的だが厄介で不可思議な存在だよ。

 でも、もちろんAIのピーケさんは不可思議でも大好きです。 ぜひとも僕の気持ちを分かってください。 

 あっ、まずい! でもこのことはミレカ姉妹には黙っていてください。 お願いします。

 それにしても、ごめんエミリ、お兄ちゃんは少し疲れちゃったかもしれない……。

 ……。

 ……。

 ……。



「……お、……にぃ、 ……」


「こら、お兄ぃ、何時まで寝てるのだぁ~。 これ以上寝言で変なこというと、もう一度シバいちゃうぞぉ~」



 そんなエミリの声で僕は目が覚めた。

 気づけばアフィアリア様式のベッドに寝かされている。


 こ、これは一体どういう状況だ? 

 地球へ戻ったんじゃないのか?

 僕は上半身を起こして辺りを見回した。

 広くて閑散とした空間で、僕のいる近辺だけに色々な家具やらが集中して置いてある。



「え、エミリか。 ここはどこ?」


「ここは、エミちゃんのプライベートなルームの中だよ」


「そ、そうか。 ルームの中か。 ……そういえば、あれからどうなったんだ? 地球へ戻ったんじゃないのか?」


「吉田様、先程の件はお気持ちだけ頂いておきます」



 ドキっとした。 そういえばさっきエミリが寝言がどうとか言っていたような。



「……? な、な、な、何のことか分かりませんね~。 そ、それで僕等は無事に地球へ戻れたってこと?」


「はい、無事に転移は完了しました。 ここは地球のダンジョンの中のはずです」


「何故かお兄ぃだけが気絶してたから、エミちゃんがその場でルームを出して、中に入ってから回復してあげたんだよ? 感謝すべきだよ~」


「そうか……。 ん? ちょっと待って、ピーケさんは今、ここは地球のはずって言った?」


「はい、申しました」


「ここは地球じゃない可能性もあるってこと?」


「最大、数%の確率で地球以外の人類の惑星へ転移する可能性がございました」


「ダメじゃん。 ここが地球じゃなかったらどうするつもりなんだよ」


「大丈夫です。 あと一回分だけ転移可能なエネルギーが残っています」


「転移可能なエネルギーって電気エネルギーじゃ駄目なの?」


「特殊な粒子由来のエネルギー形態なのです。 我々の知る限り、電気エネルギーからそちらへのエネルギー変換は不可能と言ってよいでしょう」


「もしここが地球じゃなくて、もう一回の転移で別の場所へ行っちゃった場合、僕たちは地球へは戻れないの?」


「吉田様のプライベートダンジョン経由なら戻れますが、その場合数百年単位の時間ズレを生じると推定されます。 そうなると滅亡済の地球への帰還となってしまう可能性が大ですね」


「そんな……」


「まぁ大丈夫でしょう。 確率的には地球へ戻って来た可能性が高いはずです」


「ピーケさん、AIがそんないい加減なことでいいの? コンピューターは正確性をモットーとしているんじゃないの?」


「それは場合によりけりですね。 私共も不確定な未来へと繋がっている現在に存在しているのです。 私共の判断は常に最善な道を選択しているつもりなのです」


「僕等を地球から(さら)ってきて、もう一度地球へ帰還させることが最善手と判断したってこと?」


「最善手かどうかは分かりませんでしたが、正直なところ他に手が無かったのです。 結果は大当たりでした。 アフィアリアは救われました」


「アフィアリアも滅亡したんじゃないの? それにピーケさんも僕等を連れてくることで干渉したんじゃないの? となるとオリジナル人類と同じ道を辿るんじゃ?」


「いいえ、アフィアリアは滅亡していません。 今回は大災害レベルで済んだので、復活できますし、ルール的にもオリジナル人類が手出ししたとは判定されていないようです。 もし手出ししていると判定された場合には、吉田様を引き寄せた段階で、接近しつつあった小惑星の性質が変貌しているはずだったのです」


「そうでしたか……。 でもここが地球じゃなかったら、僕等はどうなるんだろう」


「その惑星で生きていくことになりますね。 もちろんその惑星を救済していただくよう行動を起こすことになるかと存じます」


「そ、それって、もしかして地球だった場合は、地球を救えってこと?」


「吉田様は地球が滅びても良いとお考えですか?」


「そういう意味じゃなくて、地球を救うなんて、そんな大それたこと……」


「アフィアリアと地球は同格規模の人類です。 もっともアフィアリアの科学技術は150年ほど進んでおりましたが。 アフィアリアを救済しておいて、いまさら地球を救うことに臆する理由がありません」


「お、お兄ぃ。 その件は君に任せたっ!」


「……ま、まあ、……アフィアリアと同じ対応ならできるかもだな。 その場合はエミリも手伝うことになるよな」


「……」

「……」


「それでは、このダンジョンから出るべく行動を開始しましょう」


「待ってください。 ここが何処のダンジョンで、ダンジョン中での場所もわからないんですよね?」


「エミリ様所有の携帯端末からの情報では、未知のダンジョンの可能性が高いとのことでした」


「それって、何気に地球以外へ来た可能性が高くなってませんか?」


「……」


 その後ルームから出て、ダンジョンの中をさ迷い走った。 ダンジョンコアへ辿りつけばそれはそれでプライベートダンジョン経由で入口へと行ける。 ここが地球でない可能性があるなら既存のゲートは使えないので、数日かけて頑張った。

 そしてダンジョンの入口へと辿り着いた。


「ここって、外が真っ暗だけど、どういう場所?」


「水中のようですね。 多分深海かと推測されます」


「じゃ、出られないじゃん」


「ちょっとお待ちください。 水分を分析いたします」



 ピーケさんは、暗闇の水中へと手を伸ばした。

 そして直ぐに手をそこから引っこ抜いた。



「分析結果により、ここはテラで確定です。 多分、太平洋の何処かに位置するものと推定されます」


「て、テラ? ってことは地球じゃないの?」


「テラは地球のことですね」


「や、ややこしい言い回しで揶揄(からか)わないでください。、 思わずドキッとしたじゃないですか。 それにしてもその程度で太平洋の何処かまでわかるなんて、どういう理屈なんだろう」


「もちろんオリジナル人類のハイパー科学技術にて分かるのです。 テラの技術ではそこまでわかりません」


「な、成程。 では、ここから潜水艦にのって地表へ向かうということになるの?」


「それでも良いですが、ここがテラであると確定した以上、プライベートダンジョン経由で戻られるのが最善かと存じます。 時空の歪みも無いはずなので」



 僕等はピーケさんの提言を真に受けて、プライベートダンジョン経由で帰還することにした。

 どこが良いかを考えた末、ダンジョン自衛隊の本部兼演習場である初級ダンジョン入口へと帰還することにした。 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] んで、ピーケさんはお持ち帰り可能なの? やんわりと交際はお断りされてるけどそれはそれとして
[一言] かむほーむとぅてら♪
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