19. ダンジョン生成
僕は暫く倒れたままで茫然としていた。
何が起こったのか理解できない。
いや、スキルを取得したのは分かったが、なんでスキルを取得したのかがわからなかったのだ。
暫く倒れ込んでいたが、我に返り起き上がってその場を見ると、エネルギー石と、小さく透明なガラスのような玉が4つ転がっていた。
うあっ。これってオーブじゃん。
僕は一瞬にして歓喜につつまれた後、すぐに周囲を見回してから隠れるようにオーブとエネルギー石を回収した。
ん? あの黒い岩が消えている。
そして、エネルギー石とオーブが得られたってわけか。
まさかこれって、あの黒い岩は魔物だったってことか?
僕はその考えに戦慄した。
よく考えてみれば、岩に躓いただけで足を痛めるなんてことはあり得ない。
エムレザー製の足防具はそんなことではダメージを通さない。 つまり、僕は黒い岩の魔物に攻撃され、今その魔物を討伐したということなんだと思う。
事態を把握してしまった僕は今更ながら怖くなってしまった。 なぜなら、その黒い岩の魔物はオーブをドロップしたどころか、それを倒したことで僕はスキルも取得してしまったからだ。 たぶん僕のスキル取得は転んだ拍子にスキルオーブを潰してしまったからだろう。
オーブやスキルオーブは魔物から稀にドロップすることがあるが、スキルオーブに関しては一定以上の強さ、つまりトップレベルのパーティが標的にするような高レベルの魔物からしかドロップされないとされている。
さらにユニークスキルのスキルオーブとなると、強さだけでなく魔物はユニーク、つまりこの世に一体だけしか居ない唯一の魔物を倒して得られるものなのだ
僕には昔から突きに関して特殊な能力がある。 そしてそれは、レベルが解放されたことで<急所突き>というユニークスキルであることが判明している。
このスキルによってゲームでは稀に格上に対してもクリティカルな一撃を与えることができていたと思われる。 それに考えてみればミレイさんだ。 あの講習の模擬戦闘でミレイさんにクリティカルを与えて2回も勝ったのだ。 これはつまり、ゲームだけでなくリアルでも格上にクリティカルを発生させる能力があるということにちがいない。 そしてそのクリティカルで恐ろしく強い魔物を倒せたのではないだろうか。
僕は黒い岩があった場所を改めて見つめた。
それにしても、何回突きで攻撃したのだろう。 クリティカルは大きなダメージを与える能力だが、格上には発生し難いとされていてゲームでもそうだった。 あれだけ突きを繰り返してやっと倒せたとなると、ゲームで考えるなら魔物のレベルはレイドボスモンスター並みということなのかもしれない。
得られたエネルギー石をバックパックから取り出してみた。 結構大きい。 この大きさだと最低でも数百万円以上の価値があるんじゃないだろうか。 いやそれどこか、もしこれがゲームでいうところのレイドボスモンスター級の魔物からのドロップ品ならば、数千万円から数億円の価値があるエネルギー石かもしれない。
さてどうしよう。
僕はしばらく考え込んだが、面倒臭くなってしまったので、ドロップ品の処置については保留にして帰宅することにした。
ちなみに残業で倒したスライムやノミネズミのドロップ品は全部で9千円になった。
僕はアパートに帰って来た。
そして直ぐに得られたエネルギー石とオーブを取り出して机の上に並べてみた。
エネルギー石は大きい。 数千万円以上の価値があってもおかしくない。
まあ、これは当分金庫にしまっておこう。
なぜだか僕は叔父から金庫を譲り受けて持っていた。 金庫には少しだけ現金が入っていたのだが、今では現金はただの骨董品扱いで、実際に使えるのは電子マネーだけだ。 つまり、金庫は骨董品保管庫と化していたのだ。 これでやっと金庫本来の使い方ができると思った。
それからオーブ4個。
オーブの価値はハッキリしている。 一個あたり220万円前後が今の相場だ。 つまり僕は今、880万円の品を持っていることになるのだ。
売るべきか、使うべきか。
その判断に迷ったが、4つもあるのだから1つだけは使ってやろうと決心した。
だがその前にステータス確認だ。
「ステータスオープン」
僕は声は出さずに頭の中で念じてみた。
LV 20
HP 129
MP 127
STR 109
VIT 169 + 140%
AGI 119
DEX 100
INT 119
MND 100
スキル 頑健7(ON)
ユニークスキル 急所突き、ダンジョン生成
スキル<頑健7>でVITが140%も増えている。
そして、何と言っても ユニークスキル <ダンジョン生成> がある!
頑健7はONのままでいいだろう。 怪我し難くなるので不利益はない。
+140%ってことはVITが400位になったということだ。 エムレザー製の防具の防御性能は+300程度とされているので、防具は安物で凌げるかもしれない。
あとは、<ダンジョン生成>が何なのかが問題だ。
もしかしてこれはダンジョンを作れるってことか? だがどうやって?
僕はそう思うと、すぐに頭の中で念じてみた。
「ダンジョン生成!」
暫く待ったが、何も起こらなかった。
「ダンジョン生成!」
「ダンジョン生成!」
「ダンジョン生成!」
なんだこれは? 口にだしても、何度試みても変化が感じられない。
その日さらに色々と試行錯誤してみたが、結局<ダンジョン生成>を使うことは出来なかったのだった。