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188.  その時

  小惑星の飛来まで2週間程となった時点で僕は“エクスパリカーの槍”の槍先(やりさき)(槍の先端)を製作した。 

 この部分だけは単なる正方形の板ではなくて特注で4m程度の分厚い3角形のガラス板を3枚組み合わせている。 今までの実験から判明している事実として、ダンジョンの壁に相当する硬度を維持できる最大サイズはゲートを中心にして約4m四方程度の範囲だけである。 それ以上大きなガラス板を“チャネル板”に変えようとしても、ゲートを中心に約2m離れると只のガラスへと変質してしまうため、今回の様に部品に分解して後で組み合わせるという使い方になったのである。 


 そして槍先(やりさき)の納品が終わり、残すところ“エクスパリカーの槍”作りの完了するまであと1日弱となったところで一次的に作業を中断した。 残りは状況を見定めてからの再開となる。

 ここまで来てしまえば、僕等は予め綿密に練られた通りの作戦が実行されるのを待つだけだ。


 時は進み、やがて小惑星の飛来まで2週間となった時点で、作戦の第一段階のシークエンスが始まった。

 轟音とともに地表から次々と核融合弾頭を搭載したロケットミサイルが打ち上げられていくのがモニター越しに確認できた。 その様子は宇宙ステーションのカメラからも中継されてアフィアリア全土へ放映されていた。 


 アフィアリアの技術力は地球よりも150年も進歩しているため、比較的巨大な宇宙ステーションが5つも存在している。 しかし今ではその宇宙ステーション全てが無人になってしまっている。 

 高度に発達したロボット技術と通信技術、そしてVR技術によって、危険を冒してまで人がそこに滞在する必要が無くなったためである。 

 アフィアリア近くの宇宙空間で核融合ミサイルを使用するのは正に最終手段であると言って良い。 なぜなら爆発時に放射される多量の放射線等により、宇宙にある電子機器に高確率で不具合が発生する可能性があり、それを防ぐ手立てが十分にとれないからだ。 もちろん宇宙ステーションも無事では済まされないだろう。


 そして7日後、核融合ミサイル(TNT火薬で10T(テラ)トン相当)が小惑星に着弾した。

 その様子は閃光として宇宙ステーションの中継地点から観察され、その閃光が始まると同時に効果の程がコンピューターにより解析されることになっていた。

 しかし案の定というか、閃光の観測と同時のタイミングで宇宙ステーションからの信号が途絶えてしまった。

 考えられる原因は、爆発で発生した強い電磁波の影響である。 電磁波は光と同じ速さなのでこうなってしまう予想はできていた。  

 そんな状況にあっても、僕等が建設した“エクスパリカーの槍”のゲート付近に設置されているセンサー群は生きていた。 ダンジョンのゲート付近では放射線や強い衝撃を通さないという性質がある。 そのためゲート付近に設置されたカメラ等のセンサーからは、核融合ミサイルの効果を知ることができたのである。


 攻撃の効果やその後の対応を議論するためにアフィアリアの作戦会議室にて評議委員会が開かれていた。



「それで解析結果は出たか?」


「はい、検証は95%終了しました。 結論としては期待通りではありませんでした」



 ピーケさんとアフィアリア評議委員の方たちの検討会が始まった。



「計画では小惑星の半分以上を粉砕あるいは蒸発させることを期待していましたが、粉砕は5%程度、蒸発は1%程度に留まりました。 結論としてミサイル攻撃の効果は限定的だったと言えるでしょう」


「原因は小惑星の組成かね?」


「解析結果を見る限り、フィールドバリアのような何かが小惑星を覆っていた可能性があります」


「フィールドバリア? 電磁場のことかな?」


「それとは異なるようです。 未知の現象の可能性が高いと存じます」


「となると、やはり兵器による外世界からの攻撃なのか……」


「……」


「それはそうと、小惑星の軌道はどうなった? 衝突コースは?」


「それも残念ながら微々たる変化に留まり、その変化すら修正されつつあります」


「となると、我々に残された希望は“エクスパリカーの槍”のみということになるのか……」



 アフィアリア評議委員全員の視線が僕に集まった。

 もちろん瞬時に緊張し、居心地が悪くなった。


「ちょっと、おトイレ行ってきます」



 僕にしてはちょっと情けないと思ったが、ダンジョンの中でいかにステータスが高かろうが自然の節理には逆らえない。

 僕は急いでその場を後にした。 そして戻ってみると、会議は解散された後だった。



「ピーケさん、あの後どうなったの?」


「“エクスパリカーの槍”作戦において既に吉田様のアクションアイテムは終わっております。 失敗だった場合の処置も決まっていたので、今はそれよりもアフィアリアの治安維持に専念すべきということになりまして、各自行動に移したのでございます」


「治安維持って?」


「今回の核融合ミサイル攻撃はアフィアリア人類にとって最終とされていた希望でした。 今それが(もろ)くも崩れ去り、その事実がアフィアリア全土へ知れ渡ったのでございます。 このままでは各地で暴動が発生する恐れがありますので、今まで秘匿して来た“エクスパリカーの槍”作戦を公開して最終段階へと進めることになったのでございます」


「ということは、いよいよ例の槍先を小惑星への衝突コースへと伸ばすんですね」


「はい、このままで推移すると第二衛星衝突まで残すところ、あと4日程でございます。 ミサイル攻撃が効果的で軌道が変わった場合に備えて中断していた作業を再開します。 槍先の設置まで“チャネル板”の鎖を延長していく作業を開始し、核融合爆弾の設置も行います」


「うまく行けばいいんですけど……」


「そうでございますね」


「住民の避難とかは、うまく行ってるんですか?」


「もちろんでございます。 極少数ですがダンジョンへの移動を拒む住民も居ましたが、その様な者たちも緊急処置として強制移住させております。 また人間以外の生物についても、吉田様作成のルームA、つまりダンジョンの外と同じ環境になる巨大ルームへと移動済です。 吉田様の世界でいうところの、ノアの箱舟的な感じです」



 実は僕も巨大な“チャネル板”の製作の傍ら“ルームA板”もほんの1000個程度だが作っていた。 それぞれが広大なルームを有しているため容積的には十分だったが、ゲートの大きさに問題があった。 狭いゲートを通して既存のダンジョンの近辺に設置して動物や植物、微生物を含む水や土などを運び込むには多大な労力が必要になったと聞いている。 



 そしてその時が来た。


 僕とエミリ、そしてピーケさんの本体?分体?の3名は、プライベートダンジョンの中へと引き籠っていた。 小惑星の様子と、アフィアリアの作戦会議室の様子は、中継されて情報として入って来る。 僕とエミリが作戦会議室からバックレているのが許されたのはピーケさんの(はか)らいである。

 プライベートダンジョン内に作成した僕のルームN(人しか生存できない)に大スクリーンのモニターが何台も設置されている。


 固唾を飲んでその瞬間を見ていたが、問題の小惑星と“エクスパリカーの槍”とのコンタクトは呆気なかった。 僕のAGIステータスでもその瞬間は見えなかった。

 だだしモニタ越しに映る小惑星、それを巨大な林檎に見立てたとすると針よりもずっと細い槍が、それに突き刺さっていき、その際の衝撃で発生する温度上昇により、放射光が発生し、それが次第に強くなっていった。

 そして数十秒後にそんな光よりもずっと巨大な閃光が小惑星全体に発したかと思ったらモニターはホワイトアウトした。 

 これは小惑星の内部へと“エクスパリカーの槍”が到達し、槍先近辺に設置してあった核融合爆弾が爆発したのである。


 一瞬のホワイトアウトの後に観察できたのは驚くべき光景だった。

 小惑星は粉々に粉砕され、モニタ越しに見える小石を含んだ砂というか雲が凄い勢いで大きくなっているのが見えた。 その破片の多くはアフィアリアの軌道外へと向かっているようだった。


 しかし……。



「ピーケさん、この結果をどう評価します?」


「アフィアリアが火の玉になってしまうような最悪の事態は回避されたと存じます」


「でも少量の破片がアフィアリアの近辺に残っちゃってるように思うんですけど……」


「それは予め予想されていたことです。 少量の破片の一部は今後数百年に渡り、隕石としてアフィアリアに降り注ぐことになるでしょう。 ですがその殆どは大気中で燃え尽きます。 それに大きい破片については再度ミサイル攻撃によって数を減らすことも可能かと思われます」


「そうでしたか。 でも必要なミサイルを準備するには時間がかかりますよね」


「もちろん、これから2日後には隕石の落下のピークを迎えることになります。 それによってアフィアリアの地上文明は壊滅的な被害を(こうむ)ることになるでしょう」


「……それって結局、アフィアリアを救えなかったってことなんじゃ」


「いえ、そんなことはございません。 確かに今後百年程度の間は地表に出ることは困難でしょう。 ですが、それ以降は再建が可能なのです。 アフィアリアは決して滅亡したわけではございません」


「……」



 ピーケさんのいう通り、それから1日後にはアフィアリアへと隕石が降り注ぎ始めた。 それは次第に激しさを増してきているのは明らかだった。

 隕石が降り注ぐ様子はもちろん僕等もモニタ越しに見えたし、それをじっと見つめていたアフィアリア評議員の方々の様子も別のモニタに映しだされていた。


 アフィアリア評議委員の方たちの何名かは厳しい顔つきのまま凍り付いており、また大半の人は涙を流していた。 

 さすがというべきか取り乱すような方はいなかった。

 その時一般市民はどうかというと、暴動とも言いかねない行動をする人々もいたが、概して嘆き悲しむ人々が大半を占めていた。 

 決して全てを失ったわけではないが、人々の喪失感と絶望感はひしひしと伝わって来た。

 もちろん僕とエミリも今後のアフィアリアのことを思うと言葉い言い表せないモヤモヤとしたストレスに見舞われた。


 そんな折、僕等の背後でピーケさんの声がした。


「では吉田様、エミリ様、地球へ帰還いたしましょう。 この度はアフィアリアを救っていだだき大変ありがとうございました」



 えっ? どういうこと? 


 ピーケさんが何か訳の分からないこと言い出した。

 僕は目を見開いてピーケさんへと振り向いた。 

 そんな僕に対してピーケさんは優しく微笑んだ。

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