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187.  エクスパリカー

 滅びの時までの猶予はあと60日ほど。 これだけあれば急がなくてもダンジョンを相互に連結することは余裕なはずである。

 そして僕等はもう一つ別の案を並行して進めていた。

 その計画の名は、“エクスパリカーの槍”作戦。


 エクスカリバーという剣の名前はアフィアリアでは通用しない言葉ではあるものの、僕の一言でプロジェクト名として採用されてしまっていた。 しかも口に出した時には噛んでしまい“エクスパリカー”と言ってしまったのが記録されてそのままになってしまった。 ()しくもこの“エクスパリカー”という単語はアフィアリア語で最終兵器を意味していたのでそれも一因だろうと思う。


 それにしても地球人なら剣ではなく槍なのはおかしいと考える向きもあるかもだが、最初は“エクスパリカーの剣作戦”であったものが、アフィアリアで具体的に計画を詰めていくうちに自然と“エクスパリカーの槍作戦”へと変わってしまったのである。


 でも今更そんな名称の話などどうでも良い。 要は結果がどうなるかこそが肝要だ。



 さて、このアフィアリアに迫りくる小惑星の直径は約86kmもある。 もちろんアフィアリアに直撃すれば、過去の地球の恐竜を絶滅されたような大災害どころの惨事では済まされない。 だが現実はそれよりももっと悪いのだ。



「ピーケさん、核融合弾頭を搭載したミサイルで何回も小惑星の軌道を()らそうとしたんですよね?」


「一旦軌道を逸らすことには成功したのですが、それはほんの(わず)かでした。 それに何故かは不明ですが誘導ミサイルのように軌道が修正されてしまうのです」


「その原因って何ですか? まさか外宇宙からの質量兵器による攻撃ってこと?」


「その考えは可能性として十分あり得るのですが、断定はできておりません。 それよりも(もっぱ)らダンジョンに関係しているとの説が有力になっております」


「ダンジョン? なんでそんな? 意味が分からないんだけど……」


「このアフィアリアにダンジョンが発生したのは今から180年程前になります。 そこから40年間がダンジョン開発の黎明期と発展期で、それ以降が安定期となりました。 その発展期にはユニークスキルを持った探検家達で(あふ)れておりました」


「そうでしたか。 やはり強い探検家?が沢山いたんでしょうね」


「はい、多くの強力な探検家達がおりました。 その中でも最も強力な誉れ高い“エクスパリカー”というクランが際立っておりました」


「“エクスパリカー”って最終兵器っていう意味で、僕等のプロジェクト名と同じですよね」


「ええそうでございますね。 そのクランは史上で初めて上級ダンジョンの攻略を成し遂げたのでございます。 当時としては最先端のAIロボット兵器や、種弾丸兵器を駆使しての大々的なプロジェクトでした。 種弾丸については、ある宗教団体がそれを産出するダンジョンのコアを破壊するまでは豊富に供給されておりました」


「で? それが今の小惑星の飛来と何が関係してるの?」


「上級ダンジョンを攻略したことで、その上級ダンジョンにイレギュラーな魔物のスポーンが抑えられたことで魔物の討伐が安定するようになりました。 そしてそればかりでなく、エキストラスキルオーブがドロップするようになりました」


「うん、そこまでは地球と同じかな」


「上級ダンジョンでは比較的レベルの高い魔物が多いので、倒すことで得られるエネルギー石も高品質でした。 イレギュラー性が無くなったことで安全にそれらの高品質、つまり高出力のエネルギー石が得られるようになったのです。 そして上級ダンジョン攻略のプロジェクトは次の段階、つまり複数のダンジョン攻略へと進んだのでございます」


「もちろんそうなるよね」


「そして5つ目の上級ダンジョンの攻略が成し遂げられた時、衝撃的な事実が判明したのです」


 ピーケさんはそこで話に少し間をとって、僕等に真剣な目で訴えかけるような素振りを見せた。



「お兄ぃ、エミちゃん、ちょっと怖くなってきたかも」


「エミリ、聞きたくなかったらその辺で遊んでてもいいんだぞ?」


「こ、子供扱いは止めてよね。 エミちゃんはもう立派な大人なのです」


 ならそんな事を口にする必要なんて無かったんじゃないか? って思ったが、これは本能的な反応なのかもしれない。 僕はすぐにピーケさんとの会話に戻ることにした。



「……コッホン、それでピーケさん、その衝撃的な事実って?」


「ダンジョンから新しいメッセージ石板がもたらされたのでございます。 そこには期限内にこのアフィアリアのどこかに存在しているエクストラスペースについて記載されていたのです」


「エクストラスペース? それってなんですか?」


「具体的なことはわかりません。 メッセージ石板に書かれていたのは、ダンジョンが発生してから50年以内にエクストラスペースを発見せよ、さすれば道は開かれるであろう。 エクストラスペースは最も過酷な上級ダンジョンを攻略した時に奥に現れるという内容でした」


「それだけ?」


「ええ、それだけです」


「なるほど、それでエクストラスペースは見つかったの?」


「いえ、それ以前に、上級ダンジョンすら攻略の糸口が無くなってしまったのです」


「それは一体……」


「クラン“エクスパリカー”の面々がダンジョンの外でエクストラスペース発見ミッション開始のセレモニーに参加している場所で、核兵器が使用されてしまったのです」


「うへっ、それってテロで“エクスパリカー”の人が殺されちゃったってこと?」


「それはアフィアリア人にとって悲劇的な大事件でした。 その後エクストラスペースの発見どころか上級ダンジョンすら攻略できなくなりました。 何とか攻略を可能にする人材を育てようと、色々と活動が開始されたのですが、そのテロを発端として勃発した内乱や、種弾丸のダンジョンが破壊されたことで、成す術なく期限の50年が経過してしまったのでございます」


「……」


「期限を迎えると同時に、飛来する小惑星の情報が新しいメッセージ石板からもたらされ、時を同じくしてエキストラスキルに新たにルーム系統のスキルが加わりました。 これらは我々アフィアリア人の前途が閉ざされたこと、そしてささやかな救済がもたらされたことを意味しているのではと考えられております」


「だ、ダンジョンって、一体何なんです? もしかして……」


「恐らくダンジョンは何者かによって作られた人工物、そしてそれを通して人類に試練が与えられたものと推定されております」


「じゃ、例小惑星はダンジョンの壁みたいな硬度なのかな。 だとすると僕等が今やろうと考えているプロジェクトは……」


「少なくとも小惑星の外皮はその様な物質ではないことだけは判明しております。 核弾頭ミサイルもある程度は効果的なのです。 ですがその軌道が問題なのです」


「軌道修正機能があったとしても、アフィアリアへの直撃コースは避けられたんじゃないの?」


「核弾頭による軌道変更ミッションが成功して、確かに小惑星はアフィアリアへの直撃コースからは外れはしましたが、今度は第二衛星への衝突コースへと軌道が変更されて、今度こそ固定されてしまったのです」


「直撃よりもマシにはなったということですよね?」


「いえ、事態はずっと深刻になりました」


「どうしてですか?」


「第二衛星の直径は1000km程でございます。 それに小惑星が衝突すると、第二衛星には致命的なダメージを及ぼします。 そして大問題なのは、その第二衛星も軌道が変わってしまうのです」


「まさか、その第二衛星がアフィアリアに落ちてくるなんてこと……」


「事態はもっと深刻なのです。 第二衛星は直径3500kmの第一衛星へ衝突します。 つまり小惑星が第二衛星へ衝突してから1年以内に第一衛星がアフィアリアに落ちてくることになるのです。 ちなみにここまでの推定は治安維持のために一般には秘匿されています」


「ちょっ、それってこのアフィアリアは完全に火の玉になるぐらいのダメージを受けるんじゃ? 地表に生物が生存できるなんて望みはこれっぽっちも残されてないんじゃ?」


「……元通り、つまり人の住める環境になるのは数億年年から数十憶年かかるか、あるいは二度とその様な環境に戻らない可能性すらございます」


「だとすると、僕等の提案したエクスパリカーの槍作戦は……」


「正に最後の望みということと言って良いでしょう。 その作戦の成否によってアフィアリアの運命は大きく変わる可能性がございます」


「確認ですけど、そうなってもダンジョンの中だけは大丈夫なんですよね?」


「それは実験により大丈夫だと断定されておりましたが、吉田様によるダンジョン間の連結がなく、エクスパリカーの槍作戦 も存在しなかったとしたらアフィアリア人は分断された上、永遠とも思われる時間、ダンジョンに牢獄へ幽閉されていたことでしょう」


「でも作戦が成功しなければ、結局ダンジョンに閉じ込められるってことじゃ?」


「いえ、エクスパリカーの槍作戦は、その過程で宇宙空間に“チャネル板”を設置します。 つまり最低限ゲートを通して宇宙空間へは自由に往来できるようになるのです」


「……」



 エクスパリカーの槍作戦、それは“チャネル板”を連鎖的に積み上げていき、迫り来る小惑星に突き刺そうという作戦である。 


 それは僕等の発見によって可能になった作戦である。 

 僕等は、ダンジョン間を繋ぐのに必要な“チャネル板”を作り終えた後で暇になったので、宇宙服を着こんでダンジョンの外へ出て実験を行った。

 “チャネル板”はダンジョン付近にしか設置できないという事実が何なのかを突き止めて打開策を考えるためだった。

 そして発見した事実は2点。 一点はダンジョンの壁から100m付近までにダンジョンに固定された“チャネル板”が設置できるということ、もう一つは設置済の“チャネル板”を基点とした100m付近には新たな“チャネル板”を設置できるというものだった。

 これにより、ダンジョンに設置した“チャネル板”から100m離れた位置に新たな“チャネル板”を設置したら、そこからまた100m離れた位置に次の“チャネル板”が設置できることが判明し、これは今のところ何回でも繰り返すことが可能だった。

 “チャネル板”はダンジョンの壁と同等の硬度があるはずで、これをアフィアリアの地上から例の小惑星の通過地点まで伸ばせば、固定された“チャネル板”を小惑星にぶつけることが可能である。

  エクスパリカーの槍作戦は、“チャネル板”の連なりを地上から宇宙空間へと伸ばしていき、その先端の槍で小惑星を貫こうという作戦なのである。


 もちろん同時に、核融合ミサイルによる小惑星への攻撃も今までの計画通り実行されることになっている。 その攻撃のために人類が用意した核融合ミサイルの合計破壊力は、地球のTNT火薬で10T(テラ)トン相当。 それは地球の旧ソ連が開発した核融合爆弾ツァーリ・ボンバの100倍の威力を持つ。 150年も地球よりも文明が進歩しているアフィアリアにしては火力の進歩は小さいようにも思えるが、その辺の事情は僕には理解できない。 だがその火力をもってしても、それまでのミサイル攻撃による経験から、その小惑星を蒸発させるどころか粉砕することも出来そうにないと試算されていたのである。



 そして時が経ち“チャネル板”を1万セット供給したところで、僕らは“エクスパリカーの槍”計画委員会に呼び出された。



「それで計画の進捗はどうなってるんですか?」


 良い機会だと思ったので、委員会で思い切って尋ねてみた。 ちなみにエミリは、だるい事はヤダとか言ってバックレていた。



「ええ、今のところ計画は順調です。 ダンジョンから100m以内に、その“チャネル板”を設置できる事実を発見していただき深く感謝いたします」


「ドモイ同志、それだけじゃないだろう? 設置済みの“チャネル板”は更に別の“チャネル板”の基礎にできる。 つまり、“チャネル板”を100m置きに設置していけば無限にそれを延長できるのを見出したことこそ大きな功績なのじゃないのかね?」


「いやいや、サスス同志、それだけじゃないだろう? 本質的には“チャネル板”がダンジョンの壁相当の強度を持っていることが重要だろう」


「その辺は全て大きな成果だと言えるだろうね。 3箇所のダンジョンから“チャネル板”の鎖を例の忌々(いまいま)しい小惑星の通過点へと伸ばしていき、“チャネル板”で小惑星を串刺しにする。 これが本計画の本質なのだ」



 本当はそれだけじゃない。 小惑星を林檎に見立てると、それに針を刺すような槍の行為だけでは効果が薄い。 僕にはそんなことより、槍が小惑星の中に突き刺さった時点で“チャネル板”の裏側に隠された2発の核融合爆弾が起爆することこそ、この作戦の本質だと思っている。

 つまり、“エクスパリカーの槍”で威力を発揮するのは、槍の先端ではなく、そこから少し離れたところに設置される2Tトン級の核融合爆弾2発にあるのだ。

 一つの核融合爆弾は、小惑星の中心で爆発して小惑星を破壊へと導く、もう一つの爆弾は、小惑星よりもアフィアリア側で爆発し、先の破壊で砕け散った破片ができるだけアフィアリア側へと飛んで来ないように防護する役目を担う。 


 当初は、“チャネル板”を槍として使う案の代替として、盾として使う案も提案したのだが、この小惑星が軌道を修正するという性質を持つため、“チャネル板”の盾で一旦受け止めることが可能であっても、再び第二衛星の方向へ向かう危険性があるとして、槍として使い小惑星を破壊してしまう案が採用されたのである。 どのみち盾を作るために必要な枚数の“チャネル板”を準備するのは不可能だった。



 そして現在、“エクスパリカーの槍”はアフィアリアの地上から約3万キロメートルの高度にまで到達していた。 100m間隔で約3000枚の“チャネル板”を設置したことになる。


 この設置作業には、アイテムボックスのスキルを持った、選別された20名の精鋭部隊が動員されて事にあたっている。 実際の作業は、彼らを乗せたAI搭載の超小型宇宙船が彼らを設置場所へ運び、連携して次々に槍を伸ばしていくのである。


 槍の長さの目標は50万Km以上。


 これは事が順調に推移しても5万枚の“チャネル板”、つまり2.5万セットが必要になる。 

 それには僕等が一日10時間頑張ったとしても40日かかる数量である。 休み無しで単純作業を一日10時間を40日も続ける。 どこの奴隷制なんだと思われる位厳しいが、これはやり通すしかないし、その価値は十分にある。 


 僕とエミリはこの作戦の成功を信じてひたすら“チャネル板”を作り続けた。

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[一言] 力技と力技がぶつかり合う!
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