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186.  チャネルゲート

 僕等はすぐに行動を開始した。 

 ピーケさんに頼んでアフィアリア評議会へことの次第を連絡してもらったのである。

 そして僕らは4時間程でファーストコンタクトの時に案内された場所へと来ていた。

 

 今回集まった評議会の方々はリモートで参加している人も含めると22名もいる。 

 こんな短時間でアフィアリアのトップの方たちを集めるなんて、ピーケさんがどんな強引な手段を使ったのかと不安になってしまう。 


「先ずは評議会をS級優先度で緊急に招集したことの理由を、わたくしアフィアリアのメインAIの方から説明させていただきたいと存じます。 この場では私のことは便宜的にピーケとお呼びください」



 ピーケさんが集まった面々に対して話を切り出した。

 僕とエミリは偉そうな人たちの中で固唾を飲んで聞き耳を立てた。


「最初に招集の要点を申し上げます。 この異星の方々によってダンジョン間を結ぶゲートを作る方法が開発されました。 これにより最重要の懸案事項だった、ダンジョン移住計画の最大の懸案事項だった、居住者のダンジョン割り当て問題が一気に解決できる見込みになりました」


 ピーケさんの発言を受けて、会議の場が少しざわつくのを感じた。



「それは本当なのかね? にわかには信じがたいのだが……」


 以前、ファーストコンタクトの時に見覚えのある方が代表してピーケさんに懐疑的な視線を向けた。



「はい、皆様がその様に思われるのはごもっともな事でございます。 一番効果的に納得してもらうためには、ダンジョン間を結ぶためのゲート、つまり“チャネル板”を御覧いただき、直接身をもって検証されるのが良いかと提案いたします」


「その“チャネル板”は何処にあるのかね?」


「吉田様とエミリ様のアイテムボックスの中でございます。 吉田様、アイテムボックスから“チャネル板”をこちらと、そちらへ設置していただけませんか?」



 いきなり僕に話が振られた形になった。 詳細説明はピーケさんが行うと言っていたから少し油断していたので瞬間的に緊張したが、こんな場面こそ何事も無かったような自然に振る舞うのが恰好良い。

 僕は微笑を浮かべると2枚の“チャネル板”を、ピーケさんが指定した場所へ設置した。



「では、わたくしピーケが実演してみせます」



 そういってピーケさんは“チャネル板”のゲートに入ろうとした。 


 ガチっ!


 しかし鈍い音がしてピーケさんはゲートから弾かれてしまった。


 ん? これは一体どうしたことか? 

 と思ったが、直ぐに僕は原因に思い当たり青ざめた。

 そして、片方の“チャネル板”を別の、つまり今度こそ先程ピーケさんが弾かれたゲートと繋がっている相方の“チャネル板”へと入れ替えた。


「吉田様、これは一体……」



 こうなると流石に誤魔化すのは無理な気がする。 僕は素直に誤るべきだと判断した。



「す、すみません。 セットになっている“チャネル板”の一方を間違えてしまいました。 今度こそ相方(あいかた)の“チャネル板”を設置しましたので成功するはずです」



 そんな僕の言葉にピーケさんは引き攣った笑顔を浮かべて、今度こそ“チャネル板”の一方のゲートを潜り、別の“チャネル板”のゲートから出て見せた。



「こ、これは? 持ち運び可能なチャネルゲートということなのかね?」


「ええ、その通りでございます。 アイテムボックスのスキルを持ってさえいれば何処のダンジョンへでも持っていける可能性がございます」


「可能性? ということは未だ実際のダンジョン間を結ぶテストは終わっていないのかね?」


「いえ、一番近くへのダンジョン間を結ぶゲート設置と往来検証は終了しております。 事前にアイテムボックススキル持ちの隊員にダンジョンへと向ってもらい設置済でございます」


「それでも可能性という言葉を用いたのは一体どういうことなのかね?」


「何故かダンジョンの中か、あるいはその近辺でしか“チャネル板”を設置できないようなのです」


「ふむ、ということは他にも何か制限が有るやもしれぬ、ということなんじゃな」


「はい、おっしゃる通りでございます。 どこへでもチャネルゲートを持ち運べるというわけでは無さそうなので“可能性”という表現を用いさせてもらいました」


「なるほど、持ち運べるチャネルゲートが有ると言うことは了解した。 だが、我々の居住予定のダンジョンは約5000箇所もあるのだぞ? その“チャネル板”も5000セット用意できるということなのかね?」


「吉田様、今お手元に何セットご用意してございますか?」


「えっと、63セットあります」


「全然不十分じゃないか。 まあ63箇所のダンジョンをゲートで繋げられるのは、それはそれで結構なのだが、これまで以上に問題を複雑にしそうだとは思わないかね?」


「“チャネル板”の設置検証には続報がございます。 “チャネル板”で設置したゲートを利用すれば、新たに“チャネル”のスキル持ちの方が“チャネル板”の元側と先側のダンジョンの壁へ新たに固定チャネルゲートを作ることができたのです。 つまり“チャネル板”は使い回せるのでございます」


「……“チャネル板”をアイテムボックススキル持ちがダンジョンへ持っていき、そこで固定チャネルゲートを作ったら、他のダンジョンへ“チャネル板”を持っていくというのを繰り返すということか……。 確かにそれなら繋げられるダンジョンの数は増やせそうだな」


「ちょっと、私からも意見よろしいですか? 現在アイテムボックスのスキル持ちの人数は5名しかおりません。 これでは期限内にダンジョンをすべて結ぶのは微妙かもだな」


 別の評議員の方が何か言い出した。


「それについても、吉田様からアイテムボックスのスキルオーブを多数供給していただけるというご提案を受けてございます」


 一斉に視線が僕へと集まった。 だが今の僕にできることはない。


「エミリ、アイテムボックスのスキルオーブを全て出して見せてあげてくれ」


「……」


 緊張したのかエミリが固まって行動に移さないので、少しだけ和らげてやろうと思った。



「どうした? まさかソレも食べちゃったとか言わないよな?」


「馬鹿お兄ぃ。 いくらエミちゃんでも食べるわけないでしょ? ほらこれでいい?」



 エミリの目の前の机の上に、瞬時に200個ほどのアイテムボックスのスキルオーブが積みあがった。 それを見て評議員の方々が目を丸くするのが見て取れた。


「それがスキルオーブなのは違い無いと思うが、どうやってアイテムボックスのスキルオーブだと特定できたのかね?」



 評議員の方々の目線が、僕とエミリの間を往復し始めた。

 僕はピーケさんを凝視した。 こういう説明とかはピーケさんに任せるのが無難である。


「その件についてはピーケからご説明いたします。 彼らはスキルオーブを鑑定する技術を御持ちなのです。 それで特定が可能だったのでございます」


「アイテムボックスのスキルオーブ自体が大変希少なんだが……」


「アイテムボックスのスキルオーブは地球から御持ちになったということです。 あちらではある程度そのスキルオーブを取得できるようです」



 これは嘘だ。 

 アイテムボックスが高確率で得られるのは地球のダンジョンというわけではなく僕のプライベートダンジョンからなのだ。 だがそれを公開するとなると、今後色々と行動制限が掛かる可能性があるので、AIもあえて嘘をついたということなのだろう。 


「しかし、それがアイテムボックスのスキルオーブだという実証はどうするのかね?」


「実際に評議員のどなたかが何個か使ってみてはいかがでしょうか?」


「では、儂が……。 って、危ない、危ない。 万一アイテムボックスのスキルを取得してしまうと、今までの話の流れからすると“チャネル板”の運び屋担当もやることになるんじゃないかね?」


「はい、そのはずです。 ですが、評議員自らがそれを実演してみせて、世に知らしめるには意義があるかと存じます。 いかがでしょうか?」


「うっ、それは……。 でもさすがに儂の体力では……。 わかった。では、この評議員の中でその役目を買ってでる者は立候補してくれたまえ」


 若手の評議員の方、3名が挙手した。 それでその3名が実際にアイテムボックスのスキルオーブを使うことになった。


「驚くことに私はアイテムボックス4を取得しました」

「私もアイテムボックス6を取得してしまいました」

「アフィアリアのアイテムボックス持ちはアイテムボックス2か3だけだったと思うが、私もアイテムボックス4を取得しました。 このスキルオーブは高級品のようだ」



 そんな次第で、会議は無事に終了し、僕等はアイテムボックスのスキルオーブを無償で100個ほど受け渡しておいた。 ついでに少し時間をおいて“チャネル板”セットも作り増しをして、これも100セットほど供給しておいた。

 あとの行動は彼らに任せれば良い。


 ダンジョンをゲートで繋ぐ“連結プロジェクト”は、アイテムボックス持ちの“チャネル板”運搬業務を担う者、“チャネル”スキルを使い、固定チャネルゲートをタンジョン内のルームに作る者、何処にどういう順番で設置するかを決める者、そして広報活動行う者などでチームを構成することになった。


 そして程なくしてアイテムボックスのスキルを得た有志隊員達が移住先として指定されていた5000箇所だけでなく合計3万8千箇所以上にも及ぶ攻略済ダンジョンをゲートで繋ぐべくフルに活動を開始した。 彼らのノルマは1日当たり10箇所から20箇所の連結である。 つまり全員で一日当たり1200~2400箇所のダンジョンをゲートで繋ぐのだ。 単純計算では1か月程で達成できるので余裕だ。

 問題は未攻略の上級ダンジョンの扱いだ。 そこには当分は“チャネル板”を設置することだけの作業になる。 そのためめ5000程の“チャネル板”のセットが必要になる。 もちろん僕たちが育てあげた、上級ダンジョン攻略部隊(上級ダンジョンでもトゥルーコアタッチを可能になった者たち)もフルに活動することになるが、期限以内に攻略できるダンジョンの数はそれ程多くない。


 僕等の主な役目は“チャネル板”作りとアイテムボックスのスキルオーブの供給だけだった。 一日あたり100セット以上をノルマとして作る。 慣れて来きたので1分に1セットは作成できるので、労働時間的には10時間程作業すれば、600セットでも作成できる。 

 5000セットの“チャネル板”は、20日ほどで作成してしまった。 


 これで僕等の役目は終わったと思って、しばらく“チャネル板”について気楽な実験を行っていた。 そしてその後の実験の結果、思いもよらず凄まじい数の“チャネル板”を作るはめになってしまった。


 実験の結果得られた知見で考えだしたアイディアは、本当の意味で滅びゆくアフィアリアを救う手段となり得ると思えたのだ。

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