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184.  1/45は?

 多少の失敗はあったものの、無事にミーちゃんさんにミミックできるようになって、僕等は“モンスター捕獲”のスキルを覚えることができた。 

 じゃあ次は実際にハジケホウセンカを捕まえてみようかな、と思った時にエミリが突然ハッしたような顔をした。



「お兄ぃ、もしかして、気づいてたのにエミちゃんには黙ってた?」


「……も、もちろんさ。 別に隠してた訳じゃないけど、これは仕方ない事じゃないかな」



 う~ん、僕が気づいてるのにエミリに話してない事なんてあったかな?

 “モンスター捕獲”スキルにカウンターが発生してしまっている事なんか言うまでもなかったんじゃないだろうか。 こんなの兄妹の相互ミミックで全てのカウンターをリセットできる僕等には全く問題じゃない。 

 それにミミックしたときに外見が薄毛白髪の爺さんになることも予想はできていたはずだ。 ただし全身黒タイツ姿というのはちょっと嫌だったが、その位は我慢できる範囲だろう。



「そうね。 まあいいか。 じゃ一気に上げてしまうね~」



 そう言ってエミリはアイテムボックスから通常のオーブを多数取り出した。

 ちょっと意外な行動だったので不思議に思ってそのまま見ていると、エミリは取り出したオーブを次々に食べ始めてしまった。


 これは一体エミリの奴は何を考えてんだ? 

 いくら何でも、おやつにしては食べる量が多いだろ?

 でもここで何かを僕が突っ込みをいれては不味いような勘が働いたので、僕も何食わぬ顔でオーブを取り出して食べることにした。


 そして分かってしまった。



「ええっ!」


 できるだけ使わないように心がけていたのに、久々に驚きの声を上げてしまった。


「お、お兄ぃ。 その『ええっ!』攻撃は封印してたんじゃない? エミちゃん硬直してオーブが気道に入っちゃったよ? 幸い直ぐに潰れてくれたから助かったけど」


「あ、ああごめん。 ちょっと閃いたというか、思いついたから久々に練習しておこうかと思ったんだ」


「全くお兄ぃの、その()()()っていうのはタイミング的にいつも(ろく)でもないと思うの。 で?何を閃いたっていうの?」


「ほ、ほら、え~と、その。 『ええっ!』攻撃のスタンを使えばハジケホウセンカを簡単に捕獲できるかもって閃いたんだよ。 そう思ったらつい衝動的に、……お前ならわかっるだろ?」



「まぁわかってるけど、食事中は止めてよね。 危ないから」


「ああ、気を付けるよ」



 今回エミリが気づいて、僕が驚いたこと。 それはステータスの上限の制限がもう一段階解除されて解放されていたことである。 

 なぜ制限が解除されたかは確定的でないが、この世界でレベル100に相当する経験値を稼いだことが一因ではないだろうか。


 この結果、僕のステータスはオール64000、エミリは16000まで上がってしまった。

 普通の人の初期値が100であることを考えると、ダンジョン内限定であるが僕は実に640倍まで能力を高めることに成功してしまっているのである。


 このアフィアリアに来て、前回はユニークスキルオーブを得てプライベートダンジョン内で魔物を倒して上がった、そして今回はレベル100相当の経験値を稼いだことで制限が解除されたと考えるのが自然だ。 となればユニークスキルオーブを僕とエミリが使えば、次の段階の解放もできる可能性がある。

 既に僕の手元にはアフィアリアの未使用のユニークスキルオーブが4つもある。 

 これはどうしたものか……。



「お兄ぃ、そういえばユニークスキルオーブを使えば……」


「ああそうだな。 もう一段階ステータスを上げれるかもな。 流石に過剰だと思うから僕は一旦ペンディングにしておくけど、エミリはトライしてみるか?」



 そしてエミリが覚えたユニークスキルは“遠視”だった。 このスキルは見える距離が10倍になるというアクティブスキルだった。 “ダンジョン内探知”と組み合わせれば5km先までの魔物を見通せるという優れモノだった。 だが同時に近場が見えなくなるというデメリットも存在していたため、使いどころに注意を要する。

 結果、エミリのステータスは期待した通りオール32000まで高まった。 これでエミリのステータスは僕の1/2、ダンジョンの外のステータスの320倍である。

 本当に僕らはヤバイ奴になってしまったと言えよう。 なにせ上級ダンジョンですら敵無しと言って良いレベルなのだから。



 さて僕等はその後。アフィアリアに初めて来てしまった時の上級ダンジョンへと戻っていた。 何故この上級ダンジョンへ戻って来たかというと、ハジケホウセンカをこのダンジョン内の魔物牧場へと放つためである。 魔物牧場とはダンジョンの壁に作ることができる空間で、ルームSと呼ばれるエキストラスキルで作成できる。 そしてこのエキストラスキルは生涯4回だけの使い切りなのだそうだ。


 エキストラスキルオーブ、それは黒いオーブで、前提条件として上級ダンジョンをクリアした世界であり、LV350以上の魔物から稀にドロップするオーブである。

 このアフィアリアでは、長年AIロボット戦隊による魔物殲滅が行われていたせいか、エキストラスキルオーブの在庫は膨大にあるとのことだった。


 もちろん僕たちもこれまでの攻略で多数のエキストラスキルオーブを得ていた。 ルームのスキルは知られているだけで3種類ある。 一つはルームNで人間のみが生存できる居住空間。 ルームAは人間だけでなく動物も生存できる空間、そしてルームSが魔物も生存できる空間である。 これらのエキストラスキルは、すべて攻略済(トゥルーコアタッチ済)のダンジョンの壁、もしくはルームの壁にしか作成できないという制限がある。


 アフィアリアでは、これらルーム(N)、ルーム(A)、ルーム(S)は迫りくるディープインパクトに備えるシェルターとして長年ダンジョン内に作られ続けていた。 魔物はゲートを潜れないし、動物もダンジョン内で生きていられる時間はかなり短い。 そのため、これらのルームは種類に関係なく(ほとん)どの場合人間の居住空間として用いられていた。 これまではルームSの中の魔物は、“モンスター捕獲”で連れて来た比較的低レベルの魔物ばかりだった。


 僕等はプライベートダンジョンの中で、ハジケホウセンカを2人で合計21体だけ捕獲した。 基本魔物を弱らせないと捕獲はできないとのことだったが、レベル差が顕著の場合にはそのまま捕獲できるようで手こずる事もなかった。



「ではこの宇宙服をご着用ください」


 プライベートダンジョンの中でピーケさんから宇宙服を手渡された。


「お姉様、これって何故?」


「エミリ様。 ルームSにはアフィアリアの動物も生存できるためバイオハザードに気を付ける必要があるのです。 これからご案内するルームは作られたばかりなので危険は少ないですが、もしもの場合に備えることは必要です。 もっともウィルスなどに感染しても瞬間死するなど劇症でなければダンジョンに戻ることで完治できますが」



 面倒なことなのだが、ここは大人しく従っておくべきだろう。 むやみに危険を冒す必要なんて全くない。 


 案内されたルームSでハジケホウセンカを解き放った。 ルームの大きさに対して魔物の数が一定密度を超えると、倒してもリポップするようになるとのことで、今回のルームはこの要件を満たす比較的狭め(とはいえそれなりに広い)だった。


 さてこれで一応僕等のミッションは完了といったところだ。 もちろん魔物牧場は多数のダンジョンに設置されているのでこれで終わりとはならない。 しかし種弾丸のドロップ方法やリポップなど、確かめる課題等が多いこともあって数日程度はゆっくりできるとのことだった。


 えっ? 数日だけ?

 ピーケさんからそれを聞いた時には軽く絶望感に見舞われた。



 そしていよいよ僕等もエキストラスキルを覚えることにした。 ルームのスキルを覚えればプライベートダンジョン内に専用のスペースを作ることが可能になる。 第一区画にルームを作成すれば今のスペースにプラスして居住空間を広げることができるのだ。



「お兄ぃ、このオーブってどんな味がするのかな」


「どうだろうな、なんか禍々しい黒色のオーブだけど、とりあえず食べてみなきゃわからないよな?」


 エミリは食べること前提でいる。 

 勿論僕は怖いのでエミリに任せたい。 

 だがこれは事前に聞いておくのが賢明だ。



「ピーケさん、アフィアリアで過去にエキストラスキルオーブを食べた人はいるの?」


「はい、いらっしゃいます」


「味はどうだったのかな」


「強い苦味があり、どこか遠くへ連れてってもらえるような強い快感が得られるとのことです」


「じゃ、エミちゃん食べてみるね~」


「エミリ様、食べるのはお勧めできません」


「何で?」


「食することで得られる快感には強い中毒性が確認されております。 そのためオーブを食べてしまった方には食事抜きで10日間の強制入院が必要になるのです。 もちろん吉田様やエミリ様をアフィアリアの規制で縛られることもありませんが、デメリットが大きいためお勧めできません」


「……」 

「……」 



 あ、危なかった。 つまりエキストラオーブは麻薬の類ということなのだ。

 残念だが諦めるしかない。



「その、強い苦みとかは、シミュレーターの食事に登録されてるの?」


「もちろんです。 苦味も快感もおよそ1/30に軽減した疑似的オーブ食が登録されております」


「なんで1/30なの?」


「苦味だけでは、ショックで気を失うほどとされています。 ほど良い快感成分と合わさることで初めてその良さがわかるのです」


「快感成分とセットなんですね」


「はい、そのため食事量表示バーはその一回だけで満タンになります」


「……」 



 これは微妙だ。

 食事一回抜きで試してみる価値があるかどうか。

 僕はエミリをじっと見つめた。



「ピーケお姉様、1/60とかに抑えることは可能?」


「可能ではありますが、それでは良さがわからないとされています」


「じゃ、1/45は?」


「その境目は人によって異なりますが、1/40程度のようです。 稀ですが、人によっては1/45でも効果的でないこともあるようです」


「……じゃ、エミちゃんは1/45で試してみるしかないのかな~」 


「エミリ様、一応お伝えしておきますが、効果的であった場合は食事量表示バーはそれだけで満タンになります。 つまり1/30の場合と大差はなくなるのです」


「ダメじゃん。 くっ、エミちゃん今は諦める……、いや、まだです! まず普通の食事をして、最後のデザートとして1/30疑似食を食べたらいいんじゃないの?」



 ず、ずいぶんと食い下がるもんだな、エミリ。 

 その情熱を少しは彼氏づくりにでも向けた方がいいんじゃないか? お前、実はそっちは奥手なんだろう?



「申し訳わけございませんが、そのような場合には次回の食事量表示バーが途中から始まることになります」



 さすがにこれでは万事休すといった感じだった。

 僕とエミリは諦めて、エキストラスキルオーブを手で潰していった。

 それでもエミリは、少量食+1/30オーブ疑似食 → 少量食、 といった具合に2回に分けた食事シークエンスを試みる気配がしていた。 その執着心には恐れ入るとしか言いようがない。



<エキストラスキル、<ルームN>を取得しました>

<エキストラスキル、<チャネル>を取得しました>

<エキストラスキル、<ルームS>を取得しました>

<エキストラスキル、<ルームA>を取得しました>



 結果、僕らはエキストラスキルを4種類覚えることが出来た。


 覚えたルーム系のカウンターは全て4だった。

 チャネルというスキルは、トンネルのように場所と場所とを繋ぐゲートをつくるスキルで、発動10分程度以内に2つのゲートをダンジョンの壁に設置しなければならないという制約がある。 さらに設置中に潜れるゲートの数は一回だけという制限のため、ハズレなスキルに分類されていた。 カウンターは5で、使い切ると消えるスキルだった。 消えるということは再取得可能ということなので、使用可能回数についてはルーム系のスキルよりもまともだと言えよう。

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