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182.  ツアー

 外にいる隊員たちが落ち着きを取り戻してから、僕等は再び乗車しプライベートダンジョン内から移動を開始した。

 目的地の上級ダンジョンは放射能で汚染された島にあり、危険地帯を通ることになる。 

 だがそんなことを今回ツアーに参加しているA級隊員たちには知らせていない。


 移動用の自動車に乗車したままで、プライベートダンジョンから外へ出るゲートを潜り、今度はこの前攻略したばかりの危険地帯にある上級ダンジョンの入口へ出た。 

 そして自動車はそのままダンジョンの入口から上級ダンジョンの中へ入り、僕とエミリはそこで自動車から降りた。


「では吉田様、もう一度移動可能なプライベートダンジョンを出していただけますか?」



 その場でもう一度プライベートダンジョンを生成し僕等が入った後で、隊員たちの自動車は中へ入ってきてその場で停車した。 隊員たちは自動車に乗っている状態のままなので、何の変りもなくダンジョン内を移動していると思っているはずである。 彼等が乗車している自動車には窓はなく外の様子はカメラでモニタリングしているだけなので、ひょっとしたら外の様子としてフェイク動画を見せられているのかもしれない。 


 A級隊員たちが乗る自動車が停車している(かたわら)で僕はピーケさんに状況を(たず)ねることにした。



「ピーケさん、他のメンバーは降りて来ないの? 僕等はこれからどうすれば?」


「ええ、彼等にはこのまま自動車の中でシミュレーターにログインしてもらう手筈(てはず)を整えております」


「となると、僕等もシミュレーター?」


「これからプライベートダンジョンを移動用車両に乗せて危険地帯を抜け、今とは違う手つかずの上級ダンジョンへと移動します。 そのために吉田様にプライベートダンジョンを作成して入ってもらったわけですが、彼等にはここの状況を見せない方が良いと判断しました」


「あ、そうか。 この第一区画って僕等の私物が沢山置いてあるし、そもそもプライベートダンジョンの存在だって明かしてないから、こんな場所がある自体が不自然なんですね」


「はいその通りでございます。 吉田様とエミリ様はこのまま外へ出ないとお約束いただけるならこの第一区画でゆっくりされるもの良いですし、もちろんシミュレーターをご利用なさっても結構です」


「なるほど、……ところで目的地までの所要時間ってどの位です?」


「はいお答えいたします。 所要時間は実時間で2時間10分程です。 その間シミュレーターにログインされるなら、思考加速や思考遅延を活用することで到着するまでの相対時間を調節できます」


「ピーケお姉様、質問で~す」


「エミリ様、どうしましたか?」


「シミュレーターで時間調節した場合、食事時間ってどうなるの? シミュレーターで思考遅延を使えば、感覚的に直ぐに次の食事が取れることになるの?」


「エミリ様、フルダイブ型のシミュレーターには栄養状態監視システムと供給システムが実装されております。 そのため栄養に関する心配はございません。 それから過度な快楽を防止するために設けられている食事量表示バーのリセットは、感覚的に過ごした時間で決定されます」


「実時間じゃなくて感覚的な時間って。 そ、そんなピーケお姉様。 ……そこを何とか?」 


「エミリ、そんなに固執してると今すでに中毒状態と見做(みな)されちゃうぞ」


「くっ、それじゃぁエミちゃんは寝る! 寝てる時間も感覚的に過ごした時間としてカウントされるんでしょう?」


「はい、就寝中も感覚時間は食事量制限バーリセットまでの時間はカウントされます。 ただし睡眠深度に応じて係数が掛かりますことをご留意ください」



 ということで僕等は寝た。 このアフィアリアは刺激に満ちた世界だが、知的要求を満たすためだけに急ぐ必要もない。  


 明くる朝、というか朝とかは最早無意味で、むしろ今回は昼寝の部類なのだが、ピーケさんに半強制的に起こされてしまったので気分が良くない。 中途半端な寝不足気味の頭で考えて見れば、シミュレーターに入ってそこで思考加速になってから寝れば十分な睡眠時間がとれたのかもしれない。 そのうえで時間が余れば、思考遅延で時間を調整すれば良かった。


 ふと見ると、エミリがカプセル型の生命維持装置、つまりフルダイブ型のシミュレーターの中から出て来た。 アイツはちゃっかりとシミュレーターを使用していやがったのだ。



「お兄ぃ、おはよう~」


「ああ、おはよう。 思考加速って便利だな。 少ない実時間で十分な休息がとれるんだもんな」


「あ、あれっ? お兄ぃも気が付いたのか~。 折角エミちゃんが開発した休み方のノウハウを教えてあげようと思ったのに残念だったな~」



 エミリに出し抜かれただなんて、なんだか悔しいので思考加速を使って十分昼寝をした事にしてやった。 ここは少しばかり強がって兄の威厳を保つ方がよい。



「ああ、そういえば昼食は?」


「もちろん食べたよ~。 次は5時間後だね~」



 し、しまった。 食事時間のタイミングが一致しないと不自然だ。 となると、僕も後5時間は食事を我慢する必要がある。 そう考えたとたんにお腹から音がした。


 ぐぅぅ~~。



「……」


 その音を聞いてエミリの目が細くなった。 何となくだが僕の置かれた状況を察してしまったのかもしれない。 これは兄の威厳の危機である。



「……あははは、ダンジョンの外は雷が酷そうだな」


「意味がわから……」


「吉田様、エミリ様。 お話の途中申し訳ありませんが、攻略対象の上級ダンジョンに到着しましたので、各自個人用の攻略用装甲車に乗車ください」



 これは良いタイミングの介入である。 というかピーケさんが僕の危機を察して助け船を出してくれたのは明白だろう。 この前の教育的指導は解除されたと考えても良いだろう。



「ところで、僕たちだけ装甲車?」


「はい、このダンジョンの魔物は私達AIロボット戦隊では倒せないゴーストタイプが多く生息するので先行する吉田様の安全に必要な処置なのです」


「それはわかったけど、どうしてわざわざゴーストタイプのいるダンジョンを選んだんです?」


「事前調査による魔物のレベル的な計算上、このダンジョンなら一回の攻略のみでパーティメンバー全員のレベルを100まで上げられる見込みだからです。 この地域の他のダンジョンでは2箇所以上の攻略が必要になる計算です」



 それを聞いて僕はすぐに装甲車に乗車した。 エミリに余計なことを考える時間を与えてはいけない。

 そのあとで僕等と隊員たちの乗る自動車はプライベートダンジョンから出て、手つかずの上級ダンジョンへと入って行った。



「皆さまお待たせしました。 いよいよ本ツアーのメインイベントを始めます。 レベルが上がり続けますのでご承知おきください」



 ピーケさんのその放送を持って僕とエミリは別々の装甲車に乗って、ピーケさんの指示する方向へと移動を開始した。 

 いまでは僕もエミリも“ダンジョン内探知”を持っているので進む先に魔物がいるかどうかが分かる。 そしてミミックも持っているので、最初の内は交代でミミックを使いレイナさんの“雑魚掃除”の効果で安全に魔物を倒していった。 エミリも僕も重複したスキルを持っている関係で、ミミックを使ってもカウンターが減ってしまわないのが非常に役にたっている。


 そして進むこと1時間程で、ピーケさんから連絡が入った。



「吉田様、先程新規と思われるユニークスキルオーブがドロップしました。 どうしましょう?」



 このアフィアリアでも未だ新規のユニークスキルオーブが残ってことには驚いた。 だが考えて見れば、このダンジョンは未だに攻略されておらず、ゴーストタイプの魔物はAIロボット戦隊では討伐不可能なのだから不思議ではないのかもしれない。



「えっと、それって僕たちが貰っていいってことです?」


「はい、今までの経験上、こちら側でドロップした事実を公にすると却って色々と揉める可能性がございます。 この時期にいらぬ混乱はよろしくないので、吉田様に貰っていただければドロップした事実をもみ消せて好都合です。 捨てるのは勿体ないので貰ってくださると助かります」


「……」


 えっ?それでいいの? って思ったが、貰えるものは貰っておくことにした。 アフィアリアでドロップしたユニークスキルオーブだが、僕等がユニークを倒したことには違いない。 でも本当にピーケさんがいう通り僕等が貰う方が好都合なのだろうか? 少しばかり気にはなったが、今はレベル上げてアフィアリア人だけで上級ダンジョンを攻略できるようにすることこそ重要なのだろうと思うことで納得することにした。

 一応ユニークスキルオーブをアイテムボックスへ入れて、そのまま僕らは攻略へと戻った。 そして3時間程でコアルームへと辿り着いた。 その間にレベル上げツアーのメンバーのレベルは106にまで上がっていた。 


 コアルームの手前で僕等は自動車と装甲車から降車した。 



「お主っ! 一体どうやってこんなに儂らのレベルを上げられたんじゃ。 アフィアリアでは魔物はロボット部隊によって常時狩られていて、魔物の数自体がそんなに残っていないはずじゃぞ!」


「僕にそんなこと言われても……」



 例の老人にいきなり絡まれて、つい反射的に受け答えをしてしまった。 これが悪かったのかもしれない。



「僕にも教えて~、“女神降臨”っての何なの? 見た~い、見せて、見せて~」



 “僕っ子”なロリが急に迫って来た。  そんなロリにマッチョな男性が噛み付いた。



「うぜ~ぞ、エミィーリ。 お前のそのいかにも幼女ですって態度があざとくて気にくわね~んだよ。 いい加減まともに喋れ、このアラフォーのババアがっ!」


 このエミィーリさんは、確かギャリオリさんと名乗っていたはずだ。 つまりロリはエミィーリ・ギャリオリさんなのだろう。



「えっ、アラフォー? お姉様?もエミリっていうの? まさかエミちゃんと同じ名前なの?」


「ま、まさかそこの君こそ僕と同じなの? 同類なの?」


「エミちゃんの名前は、エミリっていうんだよ~」


「そうか~、同類なんだ~。 ライバルだね~、年はいくつなの~?」


「この前18になったかも……」 


「おお~、じゃあ本当に同類でライバルで友達なんだね~。 じゃあさ、友達のよしみで僕に“女神降臨”を見せてくれないかな~」


「……」 


「ねえ、エミリちゃん、頼むからさ~。 見せてくれればほら、これをプレゼントするよ?」



 異常に押しが強く強引なロリ――のフリをしたアラフォー女性に、エミリは押されてしまっている。 エミリは唖然としたまま成り行きでプレゼントを受け取ったと思ったら、すぐにレイナさんにミミックしてしまった。


 あっ、ああ~、やってしまったなエミリ。


 だけどこれはエミリにとっては不可抗力だったのかもしれない。 

 なにせアッチのエミィーリさんが提示したプレゼントは、ミーアンキャットを不思議な感じにデフォルメした縫いぐるみだったのだ。 エミリが縫いぐるみや食べ物に目がないことは今に始まった話じゃない。



「お、おお~。 これはこれは女神様。 お出でくださり誠にありがとうございます。 この度は儂らのレベルを上げてくださり誠にありがとうございます」

「スゲー、マジ女神かっ!」

「本当だったんか!」

「お、俺は悪くねーぞ」

「思ったより清楚な華奢な女神様なんだね~」



 彼らの反応はまちまちだったが、全員が女神様の姿に感銘を受けていたのだけは見て取れた。

 それにしても、これって後でレイナさんに怒られないか?

 女神に祭り上げられたレイナさんが顔を引き攣らせているイメージが頭に浮かんでちょっとだけ不安になった。

 でもミレイさんやレイナさん達は今地球にいるのだ。 アフィアリアにすぐには来れない。 僕はそう思って、レイナさんの件を棚上げした。


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