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181.  女神降臨

 集まったA級隊員の方たちは、実に個性に富んだ方々だった。

 70才越えかと思われる老人女性や児童かと思われる可愛らしいロリ?ショタ?、めっちゃ派手な衣裳を身につけた近寄りがたい女性、顔中というか体中に模様を書いているぎょろ目の男性。 それからあのマカデミア中佐のようなマッチョな男性、そしてボールかと間違えるぐらい太った男性。

 隊員たちが持っているユニークスキルについては、“祈り”、“看破EX”、“逃亡”、“拘束”、“力の加護”、“スタン”と事前にピーケさんから伝えられていた。 スキル名から判断するとマッチョの“看破EX”はマリと同じスキルで、派手な女性の“逃亡”は美沙佳さんと同じスキルのようだった。


 僕等のスキルについてはピーケさんから、彼女の判断で同様に先方へ伝えてもらっていた。 僕のダンジョン生成のスキルについてはエキストラルーム、すなわち“ルーム”というダンジョンの壁に部屋を作るエキストラスキルの上位版だとして激レアなスキルとして紹介された。

 何故そのようにカモフラージュする必要があるのかという点をピーケさんに問いただしたのだが、“わからない”の一言で片づけられてしまっていた。 ピーケさんが発する“わからない”というのを言い換えると“お答えできない”ということなので僕はそれ以上の追及は諦めた。



「おぬしがヨシダさんでいいのかえ?」


「は、はいそうです。 今回はよろしくお願いします」


 先程それぞれが自己紹介していたにも拘わらず、何故か老人男性――ソノママさんが僕に興味を持ったのか近づいて話しかけてきた。


「ふぉっふぉっふぉっ。 お願いしたいのは我らの方なのじゃ。 今回は儂らのレベルを上げていただくということだそうだが、それはどうやるんじゃね?」


「え、ええとそれはわかりません。 というかレベル上げという話は誰から聞いたんです?」


「おおそうじゃった。 儂はソノママ・ディレクレア・マイン。 このアフィアリアの評議委員を務めておるのじゃ。 評議会から今回のツアーの概要は知らされておる。 だが安心せい。 他のメンバーは単なるエネルギー石やスキルオーブ獲得のツアーだと聞かされているはずなのじゃ」


「オーブ獲得ツアーですか……」 


「もちろん他のメンバーは全員が互いに初対面でな、皆が運よく抽選に当選して美味しい活動に参加できたと喜んでいるはずなのじゃ」


「抽選? 当選? 美味しい活動?」



 なんか話が不穏な方向へ向かっているような気がしてきた。 もしかしてこのソノママさん以外の方々は騙されて連れて来られたんじゃないだろうか。 それにしても本件は騙しが多い気がする。



「そうか、お主は知らんのじゃな。 このアフィアリアではお主の地球での通貨に相当するものは、多少意味合いが違った形で存在しておる。 通貨――単位はパイトというんじゃが、それは主に仮想空間上のメモリ領域を一定期間占有できる権利を購入したり、使用できるフルダイブ型のシミュレーターのランクやその期間を購入するのに使われるのじゃ。 通貨を沢山使えば現実と同じような高品質のシミュレーターを長く使えるということなのじゃな」 


「僕たちもフルダイブのシミュレーターを経験させてもらいましたが、あれよりも凄いのがあるんですか?」


「お主らはこのアフィアリアにとって最重要な賓客なのでな、最高級のシミュレーター使用権限を無制限に付与しておる。 アフィアリアでは働かなくても一定量のベーシックインカム、つまりパイト通貨がもらえる仕組みがあるんじゃが、最高級レベルのシュミレーターを一般人がベーシンクインカムだけで使おうとすると、一日あたり約10分程度相当にしかならぬのじゃ。 それ以上のログイン時間を希望するなら莫大なパイト通貨が必要で、何かしら意義のある活動を求められるのじゃよ」


「ということは、あの人たちは金で釣られて(おび)き出されたのか……」


「……別に彼らを騙して連れて来たわけではない。 このツアーは安全安心で楽ができるとは伝えておるし、それは間違いないとAIから説明されておる。 その上で極秘任務であることも伝えて了解を得ておるのじゃ。 ある程度のサプライズが隠されているのも十分承知のはずなのじゃ」


「なるほど。 でもサプライズにも許される程度ってもんがあるんじゃないかな。 突然自分のレベルが上がり出したらパニックになる人も出てくるんじゃないですか?」


「もちろんツアー開始時には、事前にそのことを説明しておくことになっているわい。 だからこそ儂は事前にお主にどうやってレベルを上げるのかを聞きたいのじゃ」


「う~ん、そういうことか……。 でもそれってピーケさんから聞いてないですか?  僕からはお答えできないです。 何て言うか、その、僕が(しゃべ)ったことで今後の活動に支障がでると困るので、AIの判断にお任せしたいのです」


「ピーケさん? ああ、SグレードのアンドロイドAIロボットのことか。 ……だがAIは儂には理由を何も教えてくれなんだ。 お前さんなら教えてくれるかもと踏んだんじゃがな」



 こ、こいつ。

 この人は承知で僕に(しゃべ)らそうとしたのか。

 まったく、このアフィアリアも全く油断がならない世界だ。

 それにしても何故ピーケさんはそれほどまでに今回のツアーを秘密にして置くんだろう?


 そう思っていると、僕からそれ以上情報を引き出せそうにないと諦めたのか、ソノママさんはA級隊員たちの方へと離れて行った。


 僕はその場でピーケさんに目を送った。 

 そんな僕にピーケさんは微笑みを返してきた。

 それが何を意味しているのか僕にはわからなかった。


 暫くして僕は気が付いた。 今回のメンバーそれぞれに異性タイプのアンドロイドAIロボットが1体ずつ寄り添っていることに。

 そしてそれらのアンドロイドロボット達は各A級隊員たちとおしゃべりを始めていた。

 それはさっきのソノママさんも同様だった。


 アンドロイド達は一様にすごい美男美女達である。 そういうロボットたちに1対1でサポートサービスを受けてもらっている集団がここには在った。

 昔の動画に出てくるような何処(どこ)ぞの高級クラブというパラダイスへ連れて来られた感があるが、このアフィアリアではありふれた光景なのかもしれない。 彼らは当然にようにそのシチュエーションを享受しているようだった。

 

 ステータスの高さを生かして聞き耳を立てると、担当のアンドロイド達がそれぞれ個別に隊員に何かを懸命に説明しているのがわかった。 各自、説明の仕方は異なる様だったが、今から行われるツアーの事前説明をしているのだけはわかった。


 そして1時間ほど待っていると、おもむろにピーケさんが右手を上げて大きめな声で宣言した。



「それでは皆様、オーブ獲得ツアーに模した、レベル上げツアーを開始します。 どうぞこちらにお集まりください」



 その言葉で全てのメンバーにレベル上げについての説明が終わっているのが理解できた。 そして僕等のレベル上げツアーが始まったのである。


 まず最初にしなければならないこと、それは攻略パーティを組むことだ。

 

 パーティを組まないと、僕等が魔物を倒しても彼らのレベル上げにならない。

 僕とエミリが、今回のレベル上げ対象のA級隊員たちをパーティ仲間であると意識できればパーティ結成は完了だ。 だがそれは結構難しかった。 何故なら初対面で年とか離れたの方々をちょっと引き合わされただけで仲間であると認識すること自体に無理があるのだ。 



 そんなわけで僕等の最初の活動は、皆が集まって宴会を開くことだった。

 つまり初級ダンジョンの中でリアル食事会を開催したのである。

 もちろん彼らは僕たちを和ませるために、それぞれアフィアリアに関する色々なことを教えてくれたりもした。 その結果、僕等は次第に打ち解けて互いにパーティ仲間として意識することができたのだった。 そしてどうでも良いことだが、あのロリ?ショタは、ロリであることが判明した。



 宴会が終わると、僕とエミリ以外は各自用意されていた個人用の小型自動車へと一人ずつ乗り組んだ。 そして僕がポータブル強化ガラスを取り出してプライベートダンジョンを生成すると、彼等隊員の小型自動車はその中へと入って来た。

 自動車に乗ったままでプライベートダンジョンのゲートを潜り、攻略しておいた上級ダンジョンへと移動しようとして気が付いた。



「ピーケさん、 まず最初のレベル上げは、このプライベートダンジョンの中の魔物にしたいんですけどいいですか?」


「ええそれは結構ですが、もしかしてついでにアフィアリアのA級隊員たちのステータス上限を上げてくれるのをお考えなのでしょうか?」



 ははは、話が早くて助かる。 さすがは強いAIに制御されたロボットだ。



「はい、このプライベードダンジョンの最終区画にいるアンフェアイソギンならパーティのレベルも上がるだろうし、パーティメンのステータス限界突破のフラグも立てることをできると思います。 もちろんこれから向かう上級ダンジョン攻略の予行演習という兼ね合いもあるけどね」


「ありがとうございます。 そういうことなら是非お願いいたします」



 僕等はプライベートダンジョンのコアルーム経由で、第16区画へとやって来た。

 もちろんそこにはアンフェアイソギンの群れがいる。

 

 僕たちに続いてアフィアリアA級隊員達が乗車している小型自動車も入って来た。


 僕はそのまま車に乗車したままで、ピーケさんに合図を送ったあとで、レイナさんに2重ミミックした。

 そのとたんアフィアリアの隊員達が乗車している小型自動車から叫び声のような悲鳴が聞こえて来た。 今頃彼らの頭の中では連続してレベルアップのメッセージが鳴り響いているはずだ。


 このレベルの魔物を一気に多量に倒したことにより、直接手を出していないとはいえ、ユニークスキルを保有する彼等A級隊員たちのステータス限界突破フラグ立ては達成である。 あとはアフィアリア側の責任でオーブを使ってステータス上げでもやってもらえばよい。 

 まあ、あくまでもステータス上げについてはオマケであり、彼らはレベルさえ上がっていればそれでいいのだが。



「なんだこれは! 何が起こったんだ!」



 そんなことを言いながら、驚いたA級隊員たちが次々と自動車から飛び出してきている。

 それにはピーケさんが対応した。



「先程ご説明した通り、これは長年ため込んだ“女神降臨”というスキルによる効果です。 あと何十回か使えますので、これから上級ダンジョンへと移動します」



 ん? “女神降臨”ってなんだ?

 これってピーケさんが“ミミック”のことも隠蔽したってことか? 


 考えてみれば、ミミックというスキル持ちは警戒されてしかるべきだ。

 なにしろ自分のスキルを自由に使われるようになってしまうのだ。

 ユニークスキルに自分のアイデンティティを感じている人にとっては面白くないはずである。

 

 そう思って僕はこっそりと彼ら彼女らに次々と“ミミック”を使っていった。

 これで僕は、“祈り”とか“拘束”などのユニークスキルを使えるようになった。

 エミリもそんな僕に倣い、しぶしぶ“ミミック”を使っていった。

 そこまでは良かったが“ミミック”として登録できる人数に制限があることが分かってしまった。 登録可能人数は10名だった。 エミリはこの10名枠を使い切ってしまったのである。 少し安心できたのは多重ミミックは制限の対象外だったことである。 エミリが“ミミック”できなかったメンバーに僕が“ミミック”し、それをエミリが2重“ミミック”することでエミリも全員のスキルを使えるようにすることができた。

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