18. そして岩
「よっしゃいくぞ~」
マリはスライムのエネルギー石を取り出して手前のオークへ投げつけた。
コン。
石はオークまで届かなかった。
それでもマリに気づいたオークは咆哮を上げて威嚇してきた。
ヤバイ!
咆哮を上げるなんて他オークも気づくんじゃ?
僕は心配して様子を窺ったが、6匹ものオークがそれに連動してしまったようだ。
マリは岩陰から出て逃げてくる、それを追うオーク6匹。
マリはオークに追いつかれないように一定の距離を保ってマラソンしているようだ。
なんだ、そういうことか。
僕にはマリがやっていることが分かったので、僕もその後を付いて走っていった。
マリはジョギングを少し早くしたような速度で6匹のオークを引き付けている。
僕はずっと前を行く泊里に後ろから声をかけた。
「一匹ずつ抜いていくね」
「……」
返事はなかったので、了解の合図だと思った僕は、オークの集団の最後尾に追いついて、後ろからオーク一体を斬りつけた。
もちろん斬りつけられたオークは僕に振り返って、その場で戦闘になった。
オークの攻撃力は大したことがないし、攻撃を躱すのも簡単だ。 僕はそいつの攻撃を何回か避けてから隙を窺い、ここぞというところで剣を突き刺して一撃で倒した。
周囲を見渡すと、マリが広場を大きく使ってマラソンしているのが見えた。 僕はもう一度最後尾のオークへ走り寄って行き1匹抜いて倒した。 そうやって6匹すべてを倒し終えた。
<レベルが上がりました>
LV 11
HP 111
MP 112
STR 102
VIT 161
AGI 111
DEX 100
INT 106
MND 100
ユニークスキル 急所突き
「おーい、マリ。 何走ってるんだ? もう終わったから、こっちへこーい」
マリはまだ無言で走り続けている。 僕には彼が何を考えているのか全くわからない。
これは、事情を問わねばなるまい。 僕は走って行き彼に並走した。
「マリ、なんでまだ走ってるの?」
「はぁ、はぁ、はぁ 逃げてるに決まってるだろ。 はぁ、はぁ、お前こそ大丈夫か? 出口は何処だよ。はぁ、はぁ、見つからねーよ」
「出口って、オークゾーンの向こう側だよ。 出口へ行ってどうするんだよ」
「はぁ、はぁ、逃げる、 はぁ、に決まってるだろ、はぁ、はぁ」
「全部倒したのに、なんで逃げるの?」
「はぁ、はぁ、倒した、はぁ、だと~?」
マリは後ろを振り返った直後に走るのを止めた。
「はぁ、はぁ、あれっ? はぁ、どうなったんだ?」
「だから、倒したって言っただろ? レベルが上がったメッセージが聞こえただろ?」
「はぁ、でもどうやって?」
「一匹ずつ後ろ側から殴りつけて抜いて倒していったんだよ」
「な、なるほど。 よくやった吉田。 ほめてやる。 はぁ、はぁ」
「なんだ、マリ、そのつもりでゆっくりマラソンしてるのかと思ったよ」
「悪かったな、これが俺の全速力なんだよ」
「……」
マリは意外と走るのが遅かったようだ。
オークのドロップ品を回収して少し休んだ後、僕らは帰ることにした。 この付近にはあと6匹オークが残っていたが、マリは疲弊してしまい継続が困難になってしまったのだ。
それから僕らは反省会もせず、ドロップ品を換金して別れた。
今回の収入は4万3千円で、レンタル装備代を除いても3万3千円の黒字だった。
よし! 明日も泊里にマラソンしてもらおう! 僕はそう思ってほくそ笑んだ。
今日の成果に満足したので帰ろうと思ったが、まだ時刻は午後4時前でレンタル装備の返却期限まで2時間以上あることに気づいてしまった。
うーんどうしよう、残業でもやってみようか。
ということで、僕は再び、今度はソロでダンジョンの中へと戻って行った。
まずスライムの殲滅をサクッと行い、それからノミネズミをどうするか迷ったが結局討伐してしまった。
ノミネズミは素早いので面倒かと思ったが、突きを得意とする僕には思いのほか簡単な相手だったのだ。
そしてゴブリンゾーンへと入り、意気揚々とゴブリン討伐を行おうと思ったのだが、運悪く足元に突き出ていた黒い岩に足を取られて転んでしまった。
「あ!痛い!」
黒い岩に足を取られて痛めてしまった。
そして思わぬ鋭い痛みに、本能的に僕は怒りを感じてしまった。
この岩め! 僕にダメージを与えるなんて、岩のくせに僕を嘗るなんて百年早いわ!
僕はその黒い岩目掛けて八つ当たりを開始した。
ガッツン。
当然ながら剣は岩に弾かれた。
まあ、ダンジョンの壁の一部なんだから、壊れないのは当然だ。
それでも僕の怒りは何故か収まらず、それどころか弾かれたことで更に強く、熱くなってしまった。
ガッツン、ガッツン、ガッツン。
僕は狂ったように、そして執拗に黒い岩に向かって突きを繰り返し続けた。
10分ぐらい経つと怒りも自然と収まってきていた。 しかし僕の突き攻撃は止まらない。 もはやそれは、剣の突きの練習になってしまっていたのだ。
ガッツン、ガッツン、ガッツン。
どこまで練習を続けるかは決めてないし、止めるタイミングも分からない。 そればかりではなく、僕には大事な何かが掴めそうな予感もしてきたので、憑りつかれたように黒い岩を突き続けた。
そして何回突きを繰り出したか分からなくなり腕も疲れてきた頃、いきなり岩が消えてしまい、僕の突きは空振りした。 岩が消えるなどと予期していなかった僕は、そのままバランスを崩して石のあった場所へ倒れ込んだ。
ドサッ。
痛いっ!
そのとたん、いきなり頭の中でメッセージが鳴り響いた。
<ユニークスキル、<ダンジョン生成>を取得しました>
<スキル、<頑健7>を取得しました>
<レベルがあがりました>
<レベルがあがりました>
<レベルがあがりました>
<レベルがあがりました>
<レベルがあがりました>
<レベルがあがりました>
<レベルがあがりました>
<レベルがあがりました>
<レベルがあがりました>