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178.  ミミックにミミック

 第16区画にはアンフェアイソギンがいた。 

 ハジケホウセカじゃなかったのには少し期待はずれだったが、このアフィアリアでも魔物を討伐することでプライベートダンジョン内に魔物が発生したので一安心である。


「アンフェアイソギンがスポーンしてるな。 やはりこのアフィアリアに来てからダンジョン関係のフラグはリセットがかかった感じかな~。 でもまあ原因が分かって良かったよ。 じゃエミリ、早速それを倒してみてくれるか?」


「何でエミちゃんに頼むの?」


「レイナさんにミミックしてくれってことだよ。 そうすれば雑魚掃除?だったかな? レイナさんのユニークスキルが発動して一気に雑魚を殲滅できるじゃないか。 たぶんレベル的にそのイソギンにも効果があると思うし、確かめる意味でもお願いしたいのさ」


「う~ん、そういう事なら、まあいいか~」


 エミリは少し頭を捻りながらもレイナさんにミミックした。 そのとたん僕の視界範囲内のアンフェアイソギンが一瞬にして消え去った。 同様にダンジョン内探知スキルで捉えていた魔物も一体だけ残して一瞬で消去った。


「……」


 僕やエミリは予想していたからともかく、ピーケさんが言葉を失っているように見えた。 ピーケさんってユニークスキルのことをどこまで知っているのだろう。 昔のアフィアリアには雑魚掃除のスキルはなかったのだろうか。

 そんな中、僕としては一体だけ魔物が残っているのが気になった。



「奥の方に一体だけ倒れなかった魔物がいるみたいだね。 エミリ、念のためウインドバリアを張ってくれるか? なぜ倒せなかったのか確かめに行こうぜ」


 エミリは素直に言うことを聞いてくれてウインドバリアを展開してくれた。 レイナさんにミミックして雑魚掃除スキルで倒せないとなると、レベルが高い相手あるいは特殊な奴だ。 用心に越したことは無い。

 恐る恐る奥の方へ進み視認できた魔物は、大きいイソギン野郎だった。 過去に僕は奴のようなイソギンに危うく殺されかけている。 その記憶が蘇り、不覚にも何ともいえない苦手意識に囚われた。



「お兄ぃ? あれって何? 見たことない奴だけど、まさかユニーク? それともイレギュラースポーンした魔物なのかな~」



 あれは、……そう、あの感じは間違いなくあのユニークイソギンだ。 マリが看破EXを覚えてない時に遭遇した相手なのでシミュレーターには登録されていないし、そいつの全体像の記憶も曖昧だが、僕は決して奴の触手を忘れてはいない。 



「エミリ、取りあえず撤退だ。 先ずマリにミミックして看破してから作戦を練ろう」


 エミリは不承不承マリにミミックして、遠方からイソギン野郎を看破してくれた。 その後僕等は第一区画へ戻り、シミュレーターへログインして討伐の予行演習を行った。 奴の主要攻撃手段は風魔法系統の引き寄せと、触手によって液体の中へ捕らえて窒息させる攻撃だ。 

 引き寄せ攻撃はエミリの素の風魔法で中和可能で、窒息攻撃はVRヘルメットを被ってさえいれば何の問題もなかった。


 それでも少し苦手意識を持っていた僕は、情けないとは思いながらも討伐はほぼエミリに任せることにしようと思っていた。

だがその前に忘れていたことに気が付いたので口に出した。



「エミリ、ちょっとだけいいか?」


「何? まさかエミちゃんだけに戦わせる気?」


「いや、えっとな、まあそうだけど、その前にレイナさんにミミックしてくれるか?」


「いいけど、どうして?」


「実は、僕の強化スキルを使ってなかったことに今更気づいたんだ。 お前がレイナさんにミミックした後で強化スキルを乗せれば雑魚掃除の威力が上がると思わないか?」


 僕らは第16区画へと移動し、早速エミリにミミックを使ってもらった。



「じゃあ、強化スキルを使ってみるな」


「これで倒せるなら、後が楽になるね~」



 結局強化スキルは効果があった。 第16階層のソイツは、エミリがレイナさんにミミックしたところで、僕が強化スキルを使ったら呆気なく消滅したのである。 そして虹色のユニークスキルオーブがドロップした。



「お兄ぃ、コイツってユニーク魔物だったってこと?」


「あれっ? 言ってなかったっけ? 信じがたいことなんだけど、以前僕が倒したユニークとそっくりだったよ。 それにしてもドロップしたユニークスキルオーブはどうしようかな」


「……お兄ぃ、エミリちゃんに味見の権利があると思うのです」 


 ユニークスキルオーブがドロップするのは予想できていた。 それにユニークスキルオーブをエミリに使わせるのも決めていた。 ユニークスキルを2つにできればエミリのステータスをもう一段階上げられる。 そうなれば雑魚掃除の威力を上げることができて、この世界の探索者のレベル上げとかがさらに楽になる。



「仕方ないな~、今回はエミリに使ってもらおう。 ユニークスキルオーブは甘くてピリッとして美味しいからな?」



 一瞬にしてエミリが喜びの表情を浮かべたと思ったら間髪容れずにオーブにかぶりついた。 


「ぐっげっ、痛った~!」



 そう叫んだかと思ったらエミリの口から血が出ていた。 ダンジョンのステータス効果で強化されている歯にさえダメージを負ったのである。 これってどういう事? 僕は慌ててエミリに治療魔法を使ってあげた。



「エミリどうした? まさかユニークスキルオーブを食べれなかったってことか?」


「お、お兄ぃ。 硬くて噛めなかった。 これって本当にユニークスキルオーブ?」



 まかかこれは! 


 僕はエミリからユニークスキルオーブをひったくり、エミリの抗議をものともせず自分の口へと運んだ。

 すると甘くてピリっとした味覚が口の中でハジけたと同時に、僕の頭の中で例のメッセージが鳴り響いた。



 <ユニークスキル、<ミミック>を取得しました>



 ははは、思った通りだ。 僕もミミックを使えるようになってしまった。 

 ユニークスキルはこの世に1つしかないはずなのに、2つ目を手に入れてしまった。

 こんなことがあるんだな。

 これは奇蹟といえるんじゃないだろうか。 

 いや考えて見ればそれ以前に、地球のプライベートダンジョンと同じユニークイソギンがここアフィアリアにもいたことを考えると、同じユニークスキルが取得できるのはむしろ当然だったかもしれない。

 

 僕は早速エミリにミミックして見せた。



「ええっ? 目の前にエミちゃんが……」


「ええっ? 目の前にエミちゃんが……」


 僕はエミリの声を山彦みたいに真似てみた。



「お、お兄ぃ。 まさかマネマネ系のスキルをゲットした?」


「そんな分けないだろ~。 僕もミミックを取得したんだよ。 これでミレイさんにもレイナさんにも化けられるな」


「ええっ、そんな……。 でもお兄ぃ。 ガッカリさせて悪いけど、ミミックは見かけを変えてスキルを使えるようにするだけで、実体はそのままだからね。 悪戯しようしても無駄なんだからね!」


「ええっ? そうなの?  ……それはちょっと理不尽。 折角……」


「ああっ、裸になろうとしても無理だからね。 見たことなければそういうのも再現できないの~」


「お前の裸なら昔見たことがあるぞ」


「それ何歳の時の話なの? まさかお兄ぃは今更幼児の裸が見たいとでもいうの? まさかお兄ぃはロリコンの趣味も?」



 悔しいのでエミリにミミックしたままで装備を外そうとして気づいてしまった。 しかし何と、見えている装備と外そうとした装備の位置関係が違って見えている。 


 これは駄目だ。 使えないスキルだな、これ。

 本当の装備を外してしまうと、ミミックが解けた時に僕の方が裸になってしまう。


 かなりガッカリとしたが、思えばエロ的な期待は所詮副次的な効果だ。 

 そう、オマケなのだ。 

 ハズレたとしてもそれほどダメージがあるわけでない。 

 初めからどうせそんな落ちなんだとは思っていたんだ……。


 気を取り直してレイナさんにミミックしようとしてできないことに気が付いた。



「あれっ? レイナさんにミミックできないぞ。 これってどういうことなんだ?」


「残念でした~。 パーティメンバーに対象者が居なければミミックできませ~ん」


「おかし~だろ、それ。 さっきお前はレイナさんにミミックできてたじゃないか」


「それはね、エミちゃんのように一旦ミミックに成功してしまえば、その後はパーティメンバーが不在でもできるってことなんだよ~」


「そうなのか。 ……ところでミミックなんだけど、レイナさんの雑魚掃除って制限ってあったか? ダンジョン生成の時みたいにオリジナルと微妙に違っていて完全パッシブスキルで無いとかさ」


「う~ん、さっきはステータスを詳しくみてなかったから、それはわからないかも」


「今後の活動に大きな影響を与えそうだから、ちょっと確かめてくれるか?」


「……まあいいけど、お兄ぃが心配するような制限があったとは思えないんだけどな~」 



 エミリはレイナさんにミミックしてくれた。


「どう? スキルに制限と発生してなかった?」


「お兄ぃの言う通り、制限はあるみたい。 1時間ぐらいの減算カウンターがある」


「やはりな。 ミミックのスキルもそうそう万能ではないってことだな。 でもミミックが解ければどうせ効果が切れるんだし、その制限は有っても無くても関係ない制限だな」


「うん、そうだね~」



 その時僕は閃いた。 

 そしてすぐにそれを試してみた。



「お兄ぃ、それって一体どうやって?」


「ははは、思った通りだ。 僕はレイナさんにミミックしたエミリにミミックしてみたんだ。 スキルを見る限り、レイナさんの雑魚掃除も使えるようだ。 ただしこのスキルはアクティブスキルになってしまっていて使うことを意識しないと効果が発揮できないみたいだな。 一日の使用回数制限もあるしな」



「お兄ぃ、ひょっとしてエミちゃんを騙した? 騙してレイナお姉様にミミックできるかどうかやってみたってこと?」



 エミリの眼光が鋭くなった。

 このままではいけない。 言い訳して誤解を解いておく必要があるだろう。


「閃いたのは、エミリがレイナさんにミミックした時なんだ。 僕もレイナさんにミミックできればな~って思ったら閃いたんだ。 決してお前を騙すなんてしてないぞ」



 その時レイナさんにミミックしたエミリが点滅したように見えた。

 ん? 今のなんだ? ミミックって何か特殊な制限が他にもあるのか?


 そう思っていると、エミリがレイナさんの姿のままで、アイテムボックスからポータブル強化ガラスを取り出した。

 何をするんだろうと見ていると……。


「ダンジョン生成! ふっふっふ。 成功~!」


 ポータブル強化ガラス板には、見覚えのあるプライベートダンジョン――つまりミミックダンジョンの入口が形成されていた。 なんとエミリは、レイナさんにミミックしたままで、簡易版とはいえ僕のユニークスキルを使って見せたのである。



「お、お前どうやって?」


「お兄ぃがやったことをエミちゃんもやってみただけだよ~。 レイナお姉様にミミックしたエミちゃんにミミックしたお兄ぃにミミックしただけなので~す」



 な、なんだって? ミミックにミミックした僕をミミックしたってことか? 

 つまりエミリは3重ミミックに成功したってことだ。 

 なんてことするんだエミリ!


 これは負けてはいられない。 僕は、その状態のエミリにミミックすることにした。 つまり4重ミミックを試みた。

 すると、どうだろう。 エミリがまた点滅した。 なんか不敵な笑みを浮かべている。


 エミリの奴、さらにミミックを重ねてきたな?

 僕は負けじとミミックを使ってみた。


 そんなミミックの掛け合いを何回か繰り返したところで気が付いた。

 いつの間にかレイナさんの雑魚掃除スキルが消えてしまっていたことに。



「お兄ぃ、エミちゃん思ったんだけど2回以上のミミック重ね掛けは意味無いかも……」


「……そうだな。 ミミックの重ね掛けを繰り返してもユニークスキルの制限を厳しくするだけだしな」


「うん、でも分かったことも有ったね」


「ま~な。 ミミックスキルのある相手にミミックすれば、ミミックとかのカウンターをリセットできる。 僕等二人でミミックを使い合ったことで何度でもミミックなどのスキルを使えるようになったってわけだな」



 結論としては僕がミミックを覚えたことにより、エミリまで相乗効果で強くなってしまった。

 検証が終わり、僕等は互いに目を合わせてため息をついてから一旦第一階層へ戻ることにした。

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[一言] 劣化するのがスキルだけでよかった コピーした姿も精度が落ちていったら悲惨な事になりそうだったし
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