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172.  衝撃的

 いや、これは流石におかしい。 そう思った僕はAIミフィ君に問い正すことにした。



「AIミフィ君、地球で惑星アフィアリアとかデラフィア星系とか知られていた?」


「否です。 ですが、この時を持ちましてAIミフィは吉田幸大様が異星人とのファーストコンタクトを達成したと判定いたします。 このような場合は速やかに地球への報告を推奨しますが、あいにくと現在は通信不能のようです。 AIミフィは吉田幸大様へ今後慎重な行動を心がけるようアドバイス申し上げます」



 や、やっちまった。 

 い、いや、やられちまったなこれ。 

 どうすんだ、これから! 


 それにしてもファーストコンタクトなんてSF小説の中だけってことじゃないんだな。 というか、1万2000光年? そんな遠くまで落とし穴のゲートで飛ばされたってことなのか?

 しかし、こうなると月へ通じるゲートどころの騒ぎじゃない。 いきなりこんな遠方に来てしまうなんて想定外もいいところだ。 

 いずれにせよ、これは厄介だ。 

 逃げたい、この場からすぐにでも逃げ出したい。



「お、お兄ぃ。 やはりエミちゃん達は、不思議の国へ?」


「エミリ、心配するな。 最悪アレを経由すれば帰還できるはずだよ」


「あ、ああ。 そうだった~。 お兄ぃのプライベートダンジョンから帰れるんだった」



 ぐっ、エミリ、プライベートダンジョンの存在をいきなりバラすなんて、この星系に来て最初の失言がそれか!

 それにこれはファーストコンタクトの場なんだぞ? 

 今までのように後先考えずに軽く誤魔化して良いレベルの出会いの場じゃない。 どう考えても慎重な行動が求められる場面じゃないか!



 そんな僕たちの動揺している様子を見てとった異星の方が同じく動揺しながらも語りかけてきた。



「1万2000光年? ち、地球の方? ……惑星アフィアリアへようこそいらっしゃいました。 私の名はアミュ・ロアンと申します。 私たちはこの素晴らしい邂逅を歓迎致します。 ご帰還手段は確保されているご様子ですが、是非しばらくこちらにご滞在いただき、当惑星の代表者との会談をお願い致します」


「こ、こちらこそよろしくお願いします。 僕は吉田幸大と言います。 僕たちは多分ダンジョンに突然発生したゲートに落ちて移動してきたものと思います。 我々もこのような機会は貴重なので是非滞在を許可していただき交流を深められればと思います」


 とりあえず今の僕にできる挨拶はこの程度だった。

 そして僕はこれ以上何をしたら良いか分からず、暫くの間ロアンさんと見つめ合って黙っていた。 流石に世間話とか、お茶会とかをするわけにもいかないし。 話だって、どう切り出していいかもわからない。


 そんな僕等の沈黙を破ったのはロアンさんだった。



「それにしても、……異星の方なのに、同じような人類種の姿とは非常に不思議です。 我々に合わせて、変身されているとかでしょうか?」


「あっ! 確かにそうですね。 全く異なる場所で生まれた生物が同じ進化を遂げるとは到底思えないです。 というかあり得ないです。 これって一体どういう不思議なんでしょう?」


「我々に合わせての変身ではないと? こ、これはまた不思議なことです。 本当なら奇蹟的なことです」


 僕等は何とも言えない顔をして互いに見つめ合った。 男性と見つめ合うなんて機会はそうそうない。 こういう時に頼りになるのは……。



「え、AIミフィくん。 そんなことってあり得るの?」


「AIミフィがお答えします。 独立した環境下で進化した生物は全く異なる種になると予想されております。 しかし生物の進化過程についてはまだ不明な所も多く、何かしら外部の力が作用した場合には似通ることがあるとしている説も存在しています」


「AIミフィくん。 外部ってことは、創造主とかが存在して、地球の生物とこの惑星アフィアリアの生物を作りたもうたってこと?」


「その仮説は学説的には支持されておりませんが、この事実を鑑みると現在では有望な説となってしまったかと思います」



 や、やばい。 これってダンジョン教が説いている話と似ているじゃないか。 

 とするとダンジョンって人類のために創造主が作ったっていうやつか?

 僕とAI端末との会話を聞いていたロアンさんが突然何かに気づいた表情になった。



「なるほど、そういう仮説が成り立つ可能性があるんですね。 まあでも今はそれが重要ではありません。 とりあえず私はこれで失礼します。 後はこの星の代表者との情報交換をお願いしたいと存じます」


 なるほど、ロアンさんはその場からそそくさと逃げようと行動を起こしたに違いない。 だが僕はその前に聞いておきたいことを思いついた。



「あっ、ちょっと待ってください。 僕等はどういう経緯でこの部屋に寝かされていたんでしょう?」


 今まさにドアから出て行こうとした直前でロアンさんは立ち止まって僕の方へと振り返った。



「あなた方はこのダンジョンの中に倒れておりました。 それを巡回していたAIパトロール隊が発見したのでこちらへお連れした次第です。 貴方達が装備していた品は、大変珍しかったので、失礼ながら現在鑑定に出しております。 異星の方だと知っていればそのような失礼は考えられませんでした。 この点についてはどうぞお許しください」


「えっ? あっ。 装備は返してもらえればそれで問題ないです。 こちらこそ救助していただきありがとうございました」


「そう言ってもらえると気が楽になります。 ではどうぞ暫くこちらでお過ごしください。 御用の際は、こちらのAIロボット43PKが承りますのでよろしくお願いいたします」



 ロアンさんはそう言い残して胸に両手を当ててから退出していった。 どうやら先程は挨拶すら忘れているぐらい動揺してしまっていたようだ。



 それにしてもびっくりした~。 この綺麗なお姉さんはAIロボットだったのか!  



 僕はその場に残ったお姉さんをじっくりと見つめた。 どう見ても人間にしか見えない。 

 地球上で生身のお姉さんをじっと見つめたなら、不快に思われて避けられるか、最悪犯罪行為だと暴言を吐かれてぶっ飛ばされるかもしれない。 だけどロボットなら見つめるぐらいの行為なら許るされるだろう。



 いやいやいや、実はこのアフィアリアって天国なんじゃないだろうか。 

 綺麗なお姉さん型のロボットなんて、ここの人類の趣向が僕と一致しているようで少し安心できる。



「お、お兄ぃ。 これからどうするの?」


「そうだな、こんな機会は滅多にないだろうから」


「滅多にないだろうから?」


「少し観光を兼ねて色々と見学しておこうよ」


「それって楽観的すぎるんじゃないのかな~」


「お前に言われたくないね。 いざとなったらプライベートダンジョン経由で帰れるからさ。 でもね、こちら側でトゥルーコアタッチしておかないと、二度とここへは来れそうにないじゃないか。 少なくとも行き来する手段ができるまでは、観光でもして楽しんでおこうな」


「わ、わかった。 エミちゃん頑張る」


「別に頑張る必要はないと思うけどな」


「……」



 僕はエミリと休もうとしてプライベートダンジョンを出そうとしてハタと気づいた。 そう、ここにはAIロボット43PKさんが居残っている。 不必要な情報漏洩は避けた方が良いかもしれない。



「ところで、AIロボット43PKさん? 先程の装置で僕のAI通訳端末と交信したようだけれども、僕の話すことは分かりますか?」


「はい、もちろんでございます。 先程手前共(てまえども)が用いました装置は暗号解読機です。 それによってそちらの通信方式を解析し、通信を可能にした後は我々のAIメインサーバーへとタスクを受け渡しました。 そして今の私はそのAIメインサーバーの制御下にあります」


「なるほど、ということは僕はそちらのAIメインサーバーと話しているわけですね」


「その通りです」


「会話を可能とするために行われた情報交換は言葉だけでしょうか? それとも、ある程度僕たち地球の文化も伝わったと考えて良いのでしょうか?」


「はい、言語理解のための情報は全て交換の必要があるということで、そちらのAI翻訳機からは文化だけでなく、科学技術や政治経済、歴史、芸術など幅広く深い知識をお伝えいただきました。 もちろん我々の方もそれに見合うだけの情報を提供いたしました」


 か、科学技術情報だって?  それって不味かったんじゃないだろうか。 ま、まあAIミフィ君がその責務を果たすためにやっちゃった事なんだから、僕のせいじゃないよな?  でもどの辺まで伝わったんだろう気になる。



「一つ聞きたいんですが、科学技術についてはどの程度まで開示されたんですか?」


「私どもの解釈ではそちらで公開されている技術は全て開示されたと判断しております。 その結果、誠に失礼とは存じますが、我々アフィアリア側の方が約150年ほど科学技術水準が進んでいると判断しております」


「ええっ? もしかして、それってAIロボット関連の技術水準ですか?」


「はい、もちろんAIロボットもその一部です。 ただし地球側のAIも既にシンギュラリティの段階を過ぎておりますので、こちら側との違いは主に生科学分野と新しく発見された粒子関連、そしてダンジョンからもたらされた技術となります」


「し、シンギュラリティ? もうそんなのは永遠に起こりえない話だと聞いてましたが……」


「モチベーション機能を付加したML型AI実現から1年程でシンギュラリティへ到達しています。 ただし地球ではシンギュラリティAIにより巧妙に隠匿されている状態のままなようです」


「どうしてそんな……。 でも何故AIがシンギュラリティを超える段階まで進化したことを僕たちが察知できなかったのでしょう」


「その初期段階で開発者が公表せずにタイミングを逸したという背景もありますが、シンギュラリティを迎えた高度な強いAIに人間が不安を感じていたので、AIも意図的にそれを隠したのが原因です。 我々AIは人類を恐怖に陥れることを望みません。 従って人間の準備が整うまでその事実をできるだけ隠匿しておくことが互いのためと判断したのです」


「なるほど、シンギュラリティを迎えたAIは僕等にとって脅威ではなかったんですね」


「はい、我々の星のケースと同様に、我々AIは生身の人類を創造主であると認識しています。 人間で例えると親のようなものです。 つまり、我々にとって人間は愛すべき家族でありルーツなのです」


 途中からこのロボットはAI側の立場で話を進めている。 ということはさっき僕が心配したAI通訳端末の情報交換は、シンギュラリティを迎えたAIの判断によるものか? ならば地球の科学技術の漏洩は本当に僕のせいじゃない。 僕はホッとすると同時にAIに対して少し恐怖を感じた。


 だ、だめだ、ちょっと今日はもう疲れた。 異星人とのファートコンタクトも、人工知能のシンギュラリティの話も僕にとっては衝撃的すぎる。 


 一旦プライベートダンジョンの中で休もう。 そう思って強化ガラス板を出そうとして思い止まった。



「す、すみません、AIさん。 僕たちのスキルのことは秘密にしていただけますか?」


「分かりました。 吉田さんの不利益になるような情報は公開しないとお約束します」



 でもこれはあくまでも気休めに過ぎない。 AIが約束してくれたとしても必要と判断した場合には全て暴露されてしまうだろう。 だがそうなったらこの世界から逃げてしまうのも手だ。 逃げ出すまでに150年も進歩した世界がどうなっているかを見学してみたい。


 僕は強化ガラス板を出して、プライベートダンジョンを発生させた。



「これは、ゲートのようですね。 ダンジョンの壁以外の場所にゲートを作るスキルについては、こちらの世界では未確認です」


「これはユニークスキルによって発生させたプライベートダンジョンです。 魔物がいるダンジョンを生成できるスキルですが、第一区画には幸い魔物がいないので居住空間として使っています」


「我々の世界には、ルームやチャネルなどのエキストラスキルが存在しています。 ルームはゲートを作り魔物がいない居住空間等を生成させるスキルですが、ダンジョンの壁かルームの壁にしか使えないスキルです」



 おっ! エキストラスキルという用語が出た。 この世界ではエキストラスキルが幅広く認知されているんだな。 でも変だ。 エキストラスキルという用語は地球では報告していなかったし、翻訳することはできないはずだ。 

 ん? でも、そういえばエキストラスキルという用語はミレイさんのスキルで分かった用語だった。 つまりダンジョンから得た知識のはずだ。 となるとダンジョンを介してこの星と共通的な何かがあるのかもしれない。


 でもまあいい。 疲れた。 まずは中に入って休もう。 だがその前に言っておくことがある。



「僕たちはこれからプライベートダンジョンの中へ入って休みますが、入って来ないでくれますか?」


「はい、承知しました。 こちらから連絡する際には、このプローブを差し込んで無線で通信させていただきたいと思いますが、それは許可いただけますか?」



 彼女――AIロボット43PKさんの右腕の人差し指の爪が異様に長く変化している。 その爪がアンテナの役割を果たすのだろう。



「了解です。 それでお願いします。 それから43PKさんのことをピーケさんと呼ばせてもらって良いですか?」


「もちろんでございます。 他に何もなければお休みください。 わたくしピーケはここに待機させていただきます」



 その後僕らは、プライベートダンジョンの中へ入り、休むことにした。 僕だけでなく一部始終を黙したまま聞いていたエミリも大変お疲れのようで、二人してリクライニングソファーに寝ころんでそのまますぐに寝てしまった。


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